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エゴイストとピアニスト
小百合のことは?
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……と、ここまで思い出して
「ところで悠一さぁ……ちょっと」
と、このくそ生意気な後輩の悠一に手招きした。
「え? なに?」
悠一は慌てたように僕に顔を近づけてきた。
「小百合はどうや?」
と声を潜めて悠一の耳元で聞いた。
相手が気心知れた悠一ではあるが、他の部員がいる音楽室で大きな声で聞くのには気が引けた。
悠一はそんな事にはお構いなしに
「どうや……って?」
と首をかしげて聞き返してきた。
どうやら質問の意図が伝わっていないようだ。
「いや、ちょっと小百合もパートリーダーやんの初めてやからな。ちょっと気になってんけど」
と僕は当たり障りのない聞き方をした。
「そうっかぁ……ええ人やで。面倒見ええし……でもなぁ……」
と言って悠一は考えこんだ。
「なんかあんのか?」
「東雲さん、ちょっと後輩に気ぃ使い過ぎやと思う」
とさすがに悠一もこれは小声で答えた。
「そうなんか?」
「うん。なんか、そんな気がする……」
とまた小声で言った。
「そりゃ、お前らみたいな一年生が入ってきたら気も使うやろ?」
「関係ないやん、そんなん。先輩なんやし、パートリーダーやねんから後輩に気ぃ使こうてどうすんのや?」
と悠一は全く気にする素振りも見せずに言い返してきた。
僕は大きくため息をつくと一気に
「相変わらず自分の事には鈍い人やなぁ。悠一は今まで何回コンクールで一位取った? その上、その時に競い合った上位入賞者が三人も入部しているんやで……言うてもお前らコンクール入賞者やで、分かっとう? もしかしたらお前らの中から、世界的な演奏者が出てしまうかもしれんやん。そんな奴が同じ部活の後輩におったら気ぃぐらい使うやろ?」
とさっき悠一に言われた台詞をのまま返してやった。
悠一は上目遣いで僕を睨みながら
「嫌味な先輩やなぁ」
とひとこと言った。
「ふん! 今頃、分かったんか!……なんやったらまだ続けよか?」
僕はもう少し言い足りなかった。あと少しバカにモノを教えるように悠一にやり返したかった。
「もう、ええ。分かったから。降参や」
悠一は僕の言葉を遮るように首を振りながら言った。
「素直でよろしい」
と僕はまだ少し言い足りなさを感じていたが、これ以上悠一を詰めるのは止めた。
東雲小百合は決して下手ではないし、技術的には悠一に見劣りするようなものでもない。ただ、何事も控えめな小百合と違い、何をやっても目立つ例の『マリアさんトリオ』である。対比されると小百合の地味さが、際立ってしまわないかとひそかに僕は危惧していた。
悠一は自分の才能をひけらかすような人間ではない。しかしあまり周りからどう見られているかなんて気にしないというおおらかさを持っている。なので自分の発言や行動がどういった影響を周りに与えるかなど考えたこともなかった。
――悠一は*ええしのぼんやからなぁ――
と僕は悠一のお坊ちゃま特有の天然さを久しぶりに感じていた。
「ま、そいうこっちゃ。ああ見えても色々と小百合も考えとんやで」
冴子が危惧したように小百合は、実績のある後輩たちとどう接すれば良いのか迷っているようだ。そしてそれは既に悠一たちに見透かされていた。
「それは知っとう」
悠一はひとことそう言った。
悠一自身も自分たちに気を使っている小百合と、どう接していいのか迷っているのではないか?
僕は悠一の態度を見てそう感じた。ただ、悠一たちは小百合のことを『良い先輩だ』と思っているのが分かっただけでも悠一に話を聞いて正解だった。
その時ちょうど、哲也と拓哉がやってきたので僕は手を挙げて
「遅かったな」
と声を掛けた。
悠一は振り返ると慌てたような表情で
「こんちわ!」
と二人に挨拶した。
そして僕に軽く頭を下げた後、そのまま席を外して同級生の部員の輪の中に入っていった。
まだまだ僕以外の先輩は苦手なようだ。
「ところで悠一さぁ……ちょっと」
と、このくそ生意気な後輩の悠一に手招きした。
「え? なに?」
悠一は慌てたように僕に顔を近づけてきた。
「小百合はどうや?」
と声を潜めて悠一の耳元で聞いた。
相手が気心知れた悠一ではあるが、他の部員がいる音楽室で大きな声で聞くのには気が引けた。
悠一はそんな事にはお構いなしに
「どうや……って?」
と首をかしげて聞き返してきた。
どうやら質問の意図が伝わっていないようだ。
「いや、ちょっと小百合もパートリーダーやんの初めてやからな。ちょっと気になってんけど」
と僕は当たり障りのない聞き方をした。
「そうっかぁ……ええ人やで。面倒見ええし……でもなぁ……」
と言って悠一は考えこんだ。
「なんかあんのか?」
「東雲さん、ちょっと後輩に気ぃ使い過ぎやと思う」
とさすがに悠一もこれは小声で答えた。
「そうなんか?」
「うん。なんか、そんな気がする……」
とまた小声で言った。
「そりゃ、お前らみたいな一年生が入ってきたら気も使うやろ?」
「関係ないやん、そんなん。先輩なんやし、パートリーダーやねんから後輩に気ぃ使こうてどうすんのや?」
と悠一は全く気にする素振りも見せずに言い返してきた。
僕は大きくため息をつくと一気に
「相変わらず自分の事には鈍い人やなぁ。悠一は今まで何回コンクールで一位取った? その上、その時に競い合った上位入賞者が三人も入部しているんやで……言うてもお前らコンクール入賞者やで、分かっとう? もしかしたらお前らの中から、世界的な演奏者が出てしまうかもしれんやん。そんな奴が同じ部活の後輩におったら気ぃぐらい使うやろ?」
とさっき悠一に言われた台詞をのまま返してやった。
悠一は上目遣いで僕を睨みながら
「嫌味な先輩やなぁ」
とひとこと言った。
「ふん! 今頃、分かったんか!……なんやったらまだ続けよか?」
僕はもう少し言い足りなかった。あと少しバカにモノを教えるように悠一にやり返したかった。
「もう、ええ。分かったから。降参や」
悠一は僕の言葉を遮るように首を振りながら言った。
「素直でよろしい」
と僕はまだ少し言い足りなさを感じていたが、これ以上悠一を詰めるのは止めた。
東雲小百合は決して下手ではないし、技術的には悠一に見劣りするようなものでもない。ただ、何事も控えめな小百合と違い、何をやっても目立つ例の『マリアさんトリオ』である。対比されると小百合の地味さが、際立ってしまわないかとひそかに僕は危惧していた。
悠一は自分の才能をひけらかすような人間ではない。しかしあまり周りからどう見られているかなんて気にしないというおおらかさを持っている。なので自分の発言や行動がどういった影響を周りに与えるかなど考えたこともなかった。
――悠一は*ええしのぼんやからなぁ――
と僕は悠一のお坊ちゃま特有の天然さを久しぶりに感じていた。
「ま、そいうこっちゃ。ああ見えても色々と小百合も考えとんやで」
冴子が危惧したように小百合は、実績のある後輩たちとどう接すれば良いのか迷っているようだ。そしてそれは既に悠一たちに見透かされていた。
「それは知っとう」
悠一はひとことそう言った。
悠一自身も自分たちに気を使っている小百合と、どう接していいのか迷っているのではないか?
僕は悠一の態度を見てそう感じた。ただ、悠一たちは小百合のことを『良い先輩だ』と思っているのが分かっただけでも悠一に話を聞いて正解だった。
その時ちょうど、哲也と拓哉がやってきたので僕は手を挙げて
「遅かったな」
と声を掛けた。
悠一は振り返ると慌てたような表情で
「こんちわ!」
と二人に挨拶した。
そして僕に軽く頭を下げた後、そのまま席を外して同級生の部員の輪の中に入っていった。
まだまだ僕以外の先輩は苦手なようだ。
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