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悩める一年生たち
退部
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「何を?」
と僕が聞き返すと
「村主の件」
と哲也は今年入部した一年生の名前を口にした。
「村主がどないしたんや?」
「あ、聞いてないんや。あいつ部活を辞めたんや」
「え? ホンマに? 俺知らんかったわ」
と僕は驚いて聞き返した。
「お前も知らんかったんかぁ……」
と哲也が言った。
「それっていつなん?」
と僕は聞き返した。
「辞めたんは先週の終わりとちゃうか? 実は俺らもさっき聞いたとこや」
と哲也は教えてくれた。
「そうかぁ……俺も今初めて聞いたわ」
「そうかぁ、中学先輩のお前ならなんか村主から相談でも受けているかな? って思ったんやけど……なんも聞いてないみたいやな」
と当てが外れたように哲也言った。
確かに村主は僕の中学校の後輩である。でもそれだけである。彼が僕の後輩である事は彼が入部して初めて知った。その程度の関係である。
「なんの相談も受けてへんで。第一、あいつはヴィオラやろ?」
と僕は首を振った。
「そうやな。やっぱり他のパートの先輩には相談せえへんわな」
「普通はそうとちゃうか? で、あいつの里親は誰やったけ?」
と僕は聞いた。
「忍や……」
と哲也が応えた。
「シノンかぁ……あいつならちゃんと面倒見とったんとちゃうの?」
意外だった。後輩の面倒見が良い事では瑞穂と琴葉にひけを取らない忍である。彼女に限って後輩が辞めたくなるような指導はしていないはずだ。
「シノンはちゃんと面倒見とったけど、ヴァイオラのパートで三年はシノンだけやからな」
と哲也が言った。
「ああ、そうかぁ……」
ヴィオラには二年生の谷田彰と三原真由の二人がいたが、二人は器楽部に入部して初めて弦楽器に触れた。どちらかと言えば、教えるより教えられることの方がまだ多い。言ってみれば忍ひとりで他の五人の面倒を見ているようなものだ。だから全ての後輩に手が回らなかったのではないかと哲也は言いたかったのだろう。
ただヴィオラは忍もそうであったようにヴァイオリンからの転向が多いので、同時に琴葉や瑞穂も新入生にヴァイオリンも教えることがあったと聞いていた。
「シノンなぁ……あいつ責任感強いからなぁ……結構、責任感じているんとちゃうかな?」
と僕は心配になった。
「さっきのリーダー会でもシノンはなんとなく辛そうに見えたけどなぁ」
「うん。せやったな。ちょっと元気なかったなぁ……」
と拓哉も頷いた。
「せやろなぁ……」
面倒見のいい責任感の強い忍である。彼女の気持ちを考えるとちょっと切ない。
「で、なんで辞めたん?」
と僕は哲也に聞いた。
「それがよう分からんねん」
と哲也は首を振った。
どうやら村主は退部理由をはっきりとは言わなかったらしい。
「はぁ?」
と僕は思わず声を上げた。それ位は聞いているもんだと思っていた。
「部活が嫌になったんかなぁ……」
こんな時期に辞めるなんて、課題であった『モチベーションの維持』が出来なくなったのか? と僕は考えたが自信は無かった。
「さあ? シノンにも何も言うてへんらしいで」
誰も村主の辞めた理由は分からなかった。
「そう言えば確かあいつは、稲本と仲良かったよなぁ……」
と哲也が思い出したように村主と同じ中学校出身の稲本の名前を呟いた。
拓哉がそれを聞き留めて
「稲本ってトロンボーンやったよな」
と言った。
「ああ、そうや。兼務でチェロもやっとう。よう二人で一緒につるんで帰りようで」
「そっかぁ。それなら哲也、それとなく稲本に聞いてみたら?」
と僕は提案してみた。哲也は里親ではないが、それなりに稲本も教えていたようだ。
「そうやなぁ……一応、聞いてみるわ」
その日は僕たちはこの件についてはこれ以上詮索する事は無く、久しぶりに三人でバンド練習をした。
と僕が聞き返すと
「村主の件」
と哲也は今年入部した一年生の名前を口にした。
「村主がどないしたんや?」
「あ、聞いてないんや。あいつ部活を辞めたんや」
「え? ホンマに? 俺知らんかったわ」
と僕は驚いて聞き返した。
「お前も知らんかったんかぁ……」
と哲也が言った。
「それっていつなん?」
と僕は聞き返した。
「辞めたんは先週の終わりとちゃうか? 実は俺らもさっき聞いたとこや」
と哲也は教えてくれた。
「そうかぁ……俺も今初めて聞いたわ」
「そうかぁ、中学先輩のお前ならなんか村主から相談でも受けているかな? って思ったんやけど……なんも聞いてないみたいやな」
と当てが外れたように哲也言った。
確かに村主は僕の中学校の後輩である。でもそれだけである。彼が僕の後輩である事は彼が入部して初めて知った。その程度の関係である。
「なんの相談も受けてへんで。第一、あいつはヴィオラやろ?」
と僕は首を振った。
「そうやな。やっぱり他のパートの先輩には相談せえへんわな」
「普通はそうとちゃうか? で、あいつの里親は誰やったけ?」
と僕は聞いた。
「忍や……」
と哲也が応えた。
「シノンかぁ……あいつならちゃんと面倒見とったんとちゃうの?」
意外だった。後輩の面倒見が良い事では瑞穂と琴葉にひけを取らない忍である。彼女に限って後輩が辞めたくなるような指導はしていないはずだ。
「シノンはちゃんと面倒見とったけど、ヴァイオラのパートで三年はシノンだけやからな」
と哲也が言った。
「ああ、そうかぁ……」
ヴィオラには二年生の谷田彰と三原真由の二人がいたが、二人は器楽部に入部して初めて弦楽器に触れた。どちらかと言えば、教えるより教えられることの方がまだ多い。言ってみれば忍ひとりで他の五人の面倒を見ているようなものだ。だから全ての後輩に手が回らなかったのではないかと哲也は言いたかったのだろう。
ただヴィオラは忍もそうであったようにヴァイオリンからの転向が多いので、同時に琴葉や瑞穂も新入生にヴァイオリンも教えることがあったと聞いていた。
「シノンなぁ……あいつ責任感強いからなぁ……結構、責任感じているんとちゃうかな?」
と僕は心配になった。
「さっきのリーダー会でもシノンはなんとなく辛そうに見えたけどなぁ」
「うん。せやったな。ちょっと元気なかったなぁ……」
と拓哉も頷いた。
「せやろなぁ……」
面倒見のいい責任感の強い忍である。彼女の気持ちを考えるとちょっと切ない。
「で、なんで辞めたん?」
と僕は哲也に聞いた。
「それがよう分からんねん」
と哲也は首を振った。
どうやら村主は退部理由をはっきりとは言わなかったらしい。
「はぁ?」
と僕は思わず声を上げた。それ位は聞いているもんだと思っていた。
「部活が嫌になったんかなぁ……」
こんな時期に辞めるなんて、課題であった『モチベーションの維持』が出来なくなったのか? と僕は考えたが自信は無かった。
「さあ? シノンにも何も言うてへんらしいで」
誰も村主の辞めた理由は分からなかった。
「そう言えば確かあいつは、稲本と仲良かったよなぁ……」
と哲也が思い出したように村主と同じ中学校出身の稲本の名前を呟いた。
拓哉がそれを聞き留めて
「稲本ってトロンボーンやったよな」
と言った。
「ああ、そうや。兼務でチェロもやっとう。よう二人で一緒につるんで帰りようで」
「そっかぁ。それなら哲也、それとなく稲本に聞いてみたら?」
と僕は提案してみた。哲也は里親ではないが、それなりに稲本も教えていたようだ。
「そうやなぁ……一応、聞いてみるわ」
その日は僕たちはこの件についてはこれ以上詮索する事は無く、久しぶりに三人でバンド練習をした。
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