52 / 59
~残された時間・I never lay down under my distiny~
ハーデース
しおりを挟む夕子の病室に訪れる少し前にキューピッドはハーデースの宮殿に呼ばれた。
キューピッドが宮殿に着くと既にハーデースは玉座で待っていた。
「ほれこれが例の酒じゃ。これをあの三姉妹に飲ませて願いを伝えろ」
「もしかして、それは?」
「そうじゃ。これじゃ。アポロンがあの三姉妹を酔わせた酒じゃ。あいつらは普通の酒では酔わんからな。ザルだ。だがこの酒は違う。この酒を飲ませると間違いなくあの三人は酔っぱらう。あいつらは酔っぱらったらなんでも言う事を聞く。アポロンはそれで人間の寿命を延ばさせた」
とハーデースは酒瓶を目の前に掲げながら答えた。
「え? それをどうやって?」
キューピッドは驚いたようにハーデースの顔を見た。
「あいつはなツメが甘いから、その時、最後の最後に手伝ってやったのじゃ。そのお礼にこの酒を貰った」
とハーデースは答えた。
「そうかぁ……そんなものがよく残っていたな」
「いや、残ってはいなかったが、アポロンに催促したらくれたのじゃ」
とハーデースは涼しい顔で言った。
「そうなのか……その程度で貰えるもんだったんだ……」
キューピッドは力が抜けたような顔で呟いた。
「ま、お主では間違っても貰えぬがな」
誇らしげにそう言うとハーデースは酒が入った瓶をキューピッドに手渡した。
「まあ、そういう事だな。ありがとう! 流石は冥府の王ハーデースだ」
「ふん。茶化すでない。早う行け!」
とハーデースは片手を面倒くさそうに振ってキューピッドを追いやった。
「助かる」
キューピッドは素直に頭を下げた。
「しかし、間違うでないぞ。三姉妹全員が酔っぱらったところで言うんじゃぞ。その前にお前が酔いつぶれなては話にならんがのぉ……」
「分かっている。そんなヘマはしない」
「兎に角、あの三人は一筋縄ではいかんからな。後はお主次第じゃ。お主の言葉ですべてが決まる」
「それも分かっている。ありがとう」
そうひとこと言うとキューピッドは宮殿の広間から姿を消した。
「やれやれ……本当に判っておるのかのぉ……」
ハーデースはキューピッドが消えた後を心配そうに見つめてそう言った。
「主上は元々手助けするつもりでしたわね」
と玉座の裏からハーデースに女性が声を掛けた。
ハーデースは振り向かずに
「うむ。お主にはばれておったようじゃな」
とひとこと言った。
「勿論ですわ」
そう言ってその女性は玉座の横に立った。それはハーデースの妃となったペルセポネーであった。
「まあ、何かとあやつには世話になったからのぉ」
「まあ、そうでしたわね。覚えておりますか? 私は彼の妻プシューケーとは仲良しですわよ」
とペルセポネーは笑った。
「おお、そうじゃったな。お主のお陰でアプロディーテーは彼女をキューピッドの妻として認めたのじゃったな」
「そうですわ。あの時、彼女もヘマをしましたが私の父が何とかしてくれましたわ。本当に私の言った事を守らない困った娘です」
と笑いながらペルセポネーは言った。
「そんな事もあったのぉ」
「ええ、私はあの二人がとっても大好きですから」
「ふむ。そうじゃったのぉ」
ハーデースはそういうと愉快そうに声を上げて笑った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる