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~残された時間・I never lay down under my distiny~
ウルズの泉水
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だから、彼女たちはキューピッドがここで酒を飲む事を拒否しても、『無上の果実』さえ食わせていたら後はどうとにでもなると軽く考えていた。それをキューピッドに見破られた。
クロートーの言った通り、この山どころかこの洞窟の中にさえ美味しい食べ物はいくらでもある。
しかし軽くあしらえるものだと思っていたキューピッドにそれを見破られた上に、本来なら最後まで取っておく切り札を最初に出してしまったので、彼女たちは焦っていた。
「いや、どうせなら『勝利の果実』の方が良いな」
キューピッドは彼女たちの様子を眺めながらそう言った。ここで会話を途切れさせて困るのはキューピッドも同じだった。
「いや、それは……」
「なんだ。ないのか?じゃあ、この話は無かったことに……」
そう言ってキューピッドは立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」
キューピッドを呼び止めたのは三姉妹の長女クロートーだった。
「どんな願いでも叶うという『勝利の果実』は差し出せませんが、それ以外の食べ物ならあります。あなたを騙そうとして『無上の果実』を差し出したと思われても仕方ありませんが、そうではありません。日頃、楽しみの少ない私たちの目の前に忘れかけていた『喜び』を見せつけられて我を見失っていたのは事実です。謝ります。でも、ゼウスのところへ行く前に少しぐらいは寄り道しても良いのではないでしょうか?」
とクロート―は切実と訴えた。彼女もやはり娯楽に飢えていたようだった。
キューピッドはまた少し考えてから
「言いたい事は分かった。とりあえず水を一杯貰えないだろうか? 実は喉が渇いていたんだ」
とクロート―に言った。
「それぐらいお安い御用ですわ」
クロート―はそう言うと水差しを取り出して、器にその水を注いでから
「これはウルズの泉の水です。命が蘇るぐらい美味しいお水です」
と言って差し出した。
キューピッドはそれを受け取ると一気に飲み干して
「ああ、この水は本当に美味しい」
と驚いたようにクロートーに言った。
「でしょう? ウルズの泉水ですからね。私は毎日この水をユグドラシルにも注いておりますわ」
クロートーは少し自慢げに答えた。他の二人はその様子を見てホッとしていた。
「まあ、良いか。こんなにおいしいお水を飲ませてもらったんだから、少しぐらい寄り道しても……」
そう言うとキューピッドはその場に座り込んだ。
三姉妹とキューピッドは車座になって酒を酌み交わし始めた。
彼女たちは喜んで食事をニンフたちに用意させた。ニンフたちもおこぼれにあずかろうとキューピッド達の周りに集まり出した。
酒盛りはすぐに始まった。
「チェイサー代わりにこの水を貰っても良いかな?」
キューピッドはクロート―に聞いた。
「どうぞ」
クロ―ローは水差しからキューピッドの器に水を注いだ。
キューピッドはそれを受けながら
「さっき飲んだだけでも、本当に疲れが取れた気がする」
と言った。
「当たり前ですわ。その水は世界樹のユグドラシルの根元に湧く泉水ですからね。この泉水は命を浄化する力を持っています」
クロートーは水差しを大事そうに抱えてキューピッドに言った。
「ほほぉ。そうなのかぁ……それじゃあ、これって病人に飲ませても治ったりするのかな?」
とキューピッドは素知らぬ顔をして聞いた。
「それは勿論」
「そっかぁ……」
「誰か病人でも?」
そういうとクロートーはアポロンの酒に口をつけた。
「うん。そう言えば知り合いの人間に病人が居たなぁって思い出したんだけど」
「どんな重い病気でも治りますよ」
クロートーは器の酒を半分ぐらい一気に飲むと器を両手で包むように持って言った。
「そうなんだ」
キューピッドは明るい顔で答えた。
「でもその人の運命の糸が残り少ないと、治っても意味はないですけどね」
「え? それはどういう意味?」
「病気は治っても、寿命は変わらないっていう事です」
「そうなの?」
「はい。結局、それ以外の理由で死ぬって事ですよ」
「え~!」
「病気は治っても寿命は変えられません」
クロートーはもう一度きっぱりと言った。
クロートーの言った通り、この山どころかこの洞窟の中にさえ美味しい食べ物はいくらでもある。
しかし軽くあしらえるものだと思っていたキューピッドにそれを見破られた上に、本来なら最後まで取っておく切り札を最初に出してしまったので、彼女たちは焦っていた。
「いや、どうせなら『勝利の果実』の方が良いな」
キューピッドは彼女たちの様子を眺めながらそう言った。ここで会話を途切れさせて困るのはキューピッドも同じだった。
「いや、それは……」
「なんだ。ないのか?じゃあ、この話は無かったことに……」
そう言ってキューピッドは立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」
キューピッドを呼び止めたのは三姉妹の長女クロートーだった。
「どんな願いでも叶うという『勝利の果実』は差し出せませんが、それ以外の食べ物ならあります。あなたを騙そうとして『無上の果実』を差し出したと思われても仕方ありませんが、そうではありません。日頃、楽しみの少ない私たちの目の前に忘れかけていた『喜び』を見せつけられて我を見失っていたのは事実です。謝ります。でも、ゼウスのところへ行く前に少しぐらいは寄り道しても良いのではないでしょうか?」
とクロート―は切実と訴えた。彼女もやはり娯楽に飢えていたようだった。
キューピッドはまた少し考えてから
「言いたい事は分かった。とりあえず水を一杯貰えないだろうか? 実は喉が渇いていたんだ」
とクロート―に言った。
「それぐらいお安い御用ですわ」
クロート―はそう言うと水差しを取り出して、器にその水を注いでから
「これはウルズの泉の水です。命が蘇るぐらい美味しいお水です」
と言って差し出した。
キューピッドはそれを受け取ると一気に飲み干して
「ああ、この水は本当に美味しい」
と驚いたようにクロートーに言った。
「でしょう? ウルズの泉水ですからね。私は毎日この水をユグドラシルにも注いておりますわ」
クロートーは少し自慢げに答えた。他の二人はその様子を見てホッとしていた。
「まあ、良いか。こんなにおいしいお水を飲ませてもらったんだから、少しぐらい寄り道しても……」
そう言うとキューピッドはその場に座り込んだ。
三姉妹とキューピッドは車座になって酒を酌み交わし始めた。
彼女たちは喜んで食事をニンフたちに用意させた。ニンフたちもおこぼれにあずかろうとキューピッド達の周りに集まり出した。
酒盛りはすぐに始まった。
「チェイサー代わりにこの水を貰っても良いかな?」
キューピッドはクロート―に聞いた。
「どうぞ」
クロ―ローは水差しからキューピッドの器に水を注いだ。
キューピッドはそれを受けながら
「さっき飲んだだけでも、本当に疲れが取れた気がする」
と言った。
「当たり前ですわ。その水は世界樹のユグドラシルの根元に湧く泉水ですからね。この泉水は命を浄化する力を持っています」
クロートーは水差しを大事そうに抱えてキューピッドに言った。
「ほほぉ。そうなのかぁ……それじゃあ、これって病人に飲ませても治ったりするのかな?」
とキューピッドは素知らぬ顔をして聞いた。
「それは勿論」
「そっかぁ……」
「誰か病人でも?」
そういうとクロートーはアポロンの酒に口をつけた。
「うん。そう言えば知り合いの人間に病人が居たなぁって思い出したんだけど」
「どんな重い病気でも治りますよ」
クロートーは器の酒を半分ぐらい一気に飲むと器を両手で包むように持って言った。
「そうなんだ」
キューピッドは明るい顔で答えた。
「でもその人の運命の糸が残り少ないと、治っても意味はないですけどね」
「え? それはどういう意味?」
「病気は治っても、寿命は変わらないっていう事です」
「そうなの?」
「はい。結局、それ以外の理由で死ぬって事ですよ」
「え~!」
「病気は治っても寿命は変えられません」
クロートーはもう一度きっぱりと言った。
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