キューピッドと歩兵銃

うにおいくら

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20年後のラブレター

屋上

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 翌日の夜遅く、二人は彼女の住むマンションの玄関がよく見えるビルの屋上にいた。
二人はその玄関を屋上の柵越しに注視していた。

「なんで麻美がついて来るんだよ? もう12時前だぞ。高校生がうろつく時間じゃないだろう?」
小声でキューピッドは麻美の耳元でそう言った。
「あんた一人じゃ不安じゃん」
麻美も声を殺して答えた。

「今度は大丈夫だよ」

「本当に?」

「ああ」
キューピッドは自信ありげに答えた。

「今回は書き込んだ人に会わなくて良いの?」

「いや、本当なら会って詳しい話も聞くんだけど、彼の場合聞かなくても分かっているし、今更ねえ……」
とキューピーは語尾を濁した。

「そうよね。実はキューピーちゃんの身勝手な八つ当たりで、あんたたち二人の人生は台無しになったなんて口が裂けても言えないもんね」
と麻美はキューピッドの顔を横目でチラッと見て言った。

「う……ん。まあ、分かり易く言うとそう言う事になるかな……」
と、とことん歯切れの悪いキューピッドだった。


 二人がそんな会話を交わしているところへ一台の車がゆっくりと道を進んで来た。
彼女の住むマンションが面した道路は車がやっとすれ違える幅の路地だった。
そこへ黒塗りの外車がすべる様に入って来た。

「あの車?」
麻美は車から視線を外さずにキューピッドに聞いた。

「そうだよ」

「良い車乗っているわね……」

「分かるの?」

「私だって外車ぐらい分かるわよ」

「そっか」

「ま、彼は今や、やり手の社長さんだからね。あれぐらいの車に乗るのは造作ない事だよ」

「え? そうなの?」

「うん。商才はあったみたいだな。ヘルメースにも愛されている」

「ヘルメース?」

「うん。商人と旅人の神だよ」

「ふ~ん」

「ああ、そうかぁ」
キューピッドは思い出したように急に叫んだ。

「何よ!急に驚いたじゃないの!」
麻美が顔を引きつらせて怒った。

「いやいや……ヘルメースもアプロディーテ―を口説いて一度玉砕してるわ。最終的にはものにしたようだけど……だからかぁ……彼も同じようにってか……黒幕はゼウスかぁ?……それともこの二人か?」

「え?そうなの?」

「確証はないけど……なんか、そんな気がする……だってアプロディーテ―ってビーナスの別名だもん。そもそもの原因を作ったのはヴィーナスだって言ったじゃん。それにアプロディーテ―はゼウスの娘でヘルメースは部下だよ。この二人は生まれてからゼウスに世話になりっぱなしだ」

 キューピッドは忌々しそうに言った。20年間この神々にたぶらかされていたと気が付いて憤っていた。あるいはそれに20年間も気が付かなかった自分に対しての怒りだったかもしれない。

 麻美はキューピッドの話を聞きながらギリシャ神話の神々に弄ばれる二人っていったい前世で何をやらかしたんだ?と呆れたが、同時にこの二人の過去が気になって仕方なかった。後でキューピッドに教えてもらおうと心の中で強く思った。それにしてもこの古代の神々は関係は複雑怪奇だ。どこで繋がっているか分からない。

「さて……気分を変えてと」
 キューピッドはそう呟くとケースから三八式歩兵銃取り出し、一度、膝を立てて軽く銃を構えた。
助手席のドアが開いた。二人が居る屋上からはそれが良く見えた。
女性が一人降りてきた。同時に運転席のドアも開いて男性が降りて来た。

「あれが書き込んだ人?」

「そう」
 男性はツイードのジャケットにチノパンツというラフな格好だった。背も高い。顔は位置的にはっきりと見えなかったが、そこそこ整った顔立ちに見えた。言われてみればやり手の青年実業家にも見えないことはないが、麻美にはどちらかと言えばさわやかな好青年に見えた。麻美の嫌いなタイプではない。

「案外イケメンかも?」
と思わず呟いてしまった。

 そのまま改めて彼女の方に目をやると長い髪の緩やかなカーブが大人の雰囲気を漂わせる女性だった。
表情はマンションの明かりが逆光になって見え辛かったが、瞳の大きな美人タイプの顔立ちである事は麻美にも分かった。


「『今日はありがとう。楽しかったわ』

『うん。俺も楽しかったよ。でも遅くまで連れまわしてごめんね』

『ううん、全然。気にしないで』

……とか言っているんだろうなぁ」
とキューピッドが声色を変えて二人の会話を再現した。

「間違いなくそんな会話してそうだけど、あんたがやると雰囲気が台無しだわ」
麻美は呆れながらキューピッドを睨んだ。

「でも。あの二人って放って置いてもくっつくんじゃないの?」
麻美はキューピッドの耳元で小さな声で聞いた。

「その可能性はあるけどね。でも、このまま大人の常識と都合で仲の良い友達だけで終わる可能性も高いな」

「そうなんだ……」

「感情だけで見境なく、くっつける歳ではないという事だよ」

「それって私に対する嫌味かな?」
麻美は横目で睨みながらキューピッドに聞いた。

「違う違う。それは考え過ぎだよ。一般論を言っただけだよ」
キューピッドは慌てて否定した。
「ふぅん」
麻美はあまり納得していないようだったが、それ以上は追及しなかった。
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