キューピッドと歩兵銃

うにおいくら

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三八式歩兵銃

夜間戦闘

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 夜になった。
西野少尉は塹壕の中で小銃を抱えて座ったまま寝ていたが、陽がくれるとゆっくりと目を開けて起きた。
「まだ生きていたか……」
少尉は何故か自嘲気味にそう呟いた。

「それはどういう意味だ?」
キューピッドは少尉に聞き返した。

「なんだ? 貴様も起きていたのか……いや、たいしたことではない。生きていればまたアメリカ人を殺さなきゃならん。それが仕事だからな。それだけの事だ」
そう言うと雑嚢から乾パンを取り出すとそれを半分に割った。

「腹が減っては戦が出来んというからな……ま、貴様は戦をしなくても良いが、こんなもんでも腹の足しになるだろうから食っておけ」と乾パンの半分をキューピッドに手渡した。

キューピッドはそれを黙って受け取ったが、気が付いたように
「ああ、ありがとう」
と言ってそれを口にした。

 キューピッドにとってこの乾パンは食べる必要にないモノなのだが、少尉の心遣いを無駄にしたくなかったので素直にそれを受け取った。

「それを食ったら、このままもっと奥に行け。このまままっすぐ登って行けば、また塹壕があるからそれを伝って坑道に入れ。そこならあの艦砲射撃にも耐えれることが出来よう」
 そういうと少尉はキューピッドに水筒を差し出した。
キューピッドはそれを黙って受け取って水を飲んだ。生ぬるい水だった。

 陽はすっかり落ちていたが、アメリカ軍が絶え間なく打ち上げる照明弾のお陰で飛行場の周辺は明るかった。

「少尉はこれからどうするんだ?」

「今から敵陣地に狩りに行く。貴様はそのまま逃げろ。分かったな」
 そう言い残すと少尉は塹壕から這い出すと、小走りにジャングルの中を進んで行った。
その後ろ姿をキューピッドは黙って見送った。


 少尉はアメリカ軍が攻略した飛行場の近くまで忍び寄っていた。元は日本軍が構築した飛行場だ。

 彼は日本軍の砲撃で大破したM4中戦車の陰に隠れていた。その周りにはアメリカ軍に撃破された日本軍の九十五式軽戦車が無残な姿で転がっていた。
 空には照明弾がひっきりなしに打ち上げられていた。彼の姿は戦車の影の中で飛行場の兵士からは見えなかった。

 アメリカ軍もこの暗闇に乗じて日本軍が攻めてくるのは予想していたが、毎夜の攻撃に辟易としていた。特に三人一組で陣地内まで忍び込み銃剣で音もなく刺殺する戦法はアメリカ軍兵士を恐怖に落とし込んだ。今この飛行場の周辺には他の日本兵も多数闇に紛れ込んでいた。

 西野少尉は戦車の陰から飛行場で歩哨に立っている兵士に狙いを定めていた。

「もう一人いるはずなんだが……」

そう呟きながら軽く人差し指を舐めて空に指を晒した。

「軽く右から左か…湿度はいつも通りか……ここは熱帯だからな」
 口元に軽くシニカルな笑いが浮かんだ。
彼は左肩から体重を戦車に預け立膝で銃を構えた。
照準器の先にさっきの歩哨が居た。

 その歩哨の兵士は小銃を構えた。銃口は少尉に向けられているのではなかった。どうやら忍び寄ってきた他の日本兵を発見したようだ。その構えた銃の先に三人の日本兵がいる事は、確かめなくても分かった。
何故ならこの歩哨の横に2人の兵士の姿が目に留まったからだ。彼らも小銃を構えて狙いを定めていた。
少尉は狙いを変えなかった。銃口は最初に認めた歩哨兵から動かなかった。

「選ばれしは神の総意。自ら信じる神の元へ我は送らん。汝、心置きなく召されるが良い」

 そう呟くと少尉は絞る様に銃を構え、右手の人差し指を静かに引いた。
乾いた銃声と共に銃を構えていた歩哨は倒れた。

「狙ったら考える前に黙って撃て」
と少尉は呟くと背中で銃声を聞きながらその場を離れた。

 飛行場内が一気に騒がしくなった。倒れた歩哨は眉間から血を流して絶命していた。その横では彼とペアを組んでいた兵士とたまたまその様子を見に来た上官である中隊長が伏せていた。一歩間違えば彼らもこの歩哨兵と同じ目に遭っていただろう。

 倒れた歩哨に狙われていた日本兵は銃声と共に一瞬で身を引いて音もなくジャングルの奥へと消えた。

 空の上からそれを黙って見ていた影があった。
その影はゆっくりと地上に降りて来てジャングルに隠れていた少尉の元へと近寄って行った。
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