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父
父からの伝言
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そして
「あなたのお父さんがそう言ってますから大丈夫でしょう。」
と付け加えた。
「親父がそう言っているのか?」
「はい。」
「親父が見えるのか?」
男は驚いたようにあつこさんに聞いた。
「はい。あなたの後ろでさっきから『こいつは辛抱が足りん。もっと図太く構えていれば良いモノを、焦って動き回るから更に悪い結果しか生まない。』とおっしゃってますから」
そういうとあつこさんはまたニコッと笑った。
「え?親父が後ろに……」
そういうと男は後ろを振り向いた。
――ここで親父が見えたらこのオッサン驚くだろうなぁ――
と2人は同時思ったが、残念ながらその男に霊感は無かった様だ。
男はまたあつこに向き直って聞いた。
「本当に親父が居るのか?」
「はい。お父様は昨年の夏にお亡くなりになられてますね。ご病気でしたか。でもお父様はそれをちゃんと受け入れられておられますね。受け入れられていないのは息子だとも仰ってますよ」
相変わらずにこやかに笑って話をするあつこさんだった。
「そんな事まで見えるのかぁ……」
男は信じられないもを見た時の映画俳優のように顔面がこわばっていた。
「はい。さっき申しましたよ。主に霊感占いだと」
あつこさんは首を少しかしげてニコッと笑って言った。
「他にオヤジはなんて言っている?」
男は恐る恐る聞いた。
その割には怖いもの見たさ的な雰囲気も感じられた。
「仕事は心配するほど落ち込まない。もっと部下を信じて任せなさい。これを転機に皆で会社を作っているという事を自覚しなさい……お父さんも沢山言いたい事があるみたいですねえ」
笑いながら言ったあつこさんだったが、ここで一息入れてもう一度居住まいを正してから話を続けた。
「『今の状況は天が与えたチャンスだと思いなさい。足場を固めるチャンスだと……。そしてこの機会にもっと家族を見なさい。お父さんはそれが出来なかったのが心残りだ。お前には同じ思いをさせたくない。今が家族と一緒に居られる時間を作るチャンスだ。』とも言ってます。」
そう言うとあつこさんは続けて
「ああ、お嬢さんが高校入試ですね。お父さんのさり気ない応援……そうですね。一言が必要ですね。」
と言った。
「そんな事も判るのか?」
男は更に驚いた。
あつこさんは畳みかけるように話を続けている。
「はい。あなたのお父様が教えてくれました。」
「本当によくしゃべるオヤジだな。生きている時は何も言わなかったくせに……」
男はさっきまでのこわばった表情から呆れかえったようなそれでいて懐かしそうな表情で呟いた。
「『お前が聞こうとしなかったからだ。』と仰ってますよ。」
あつこさんは笑いながらそう言った。
颯太と周平はこのやり取りを聞いて「凄いな。霊会との通訳みたいだな」と感心していた。
なにを聞いてもよどみなく応えているあつこさんを見て今更ながらに驚いていた。
「そうだったなぁ。俺はオヤジを避けていたかもしれんな。」
「お父様はいつも見守ってくれていますよ。だから安心して仕事してください」
あつこさんは明るくそう言った。
男は暫くあつこさんの前で腕を組んで考え事を始めた。
あつこさんはそれを黙って見ていた。
後ろの2人は男が何を言い出すのかを興味津々で待っていた。
男は腕組みを解いて言った。
「分かった。今日は良い話が聞けたよ。助かった」
男は何かを吹っ切れたような表情だった。
さばさばした表情というのか何かを吹っ切ったというのか、男の表情からはさっきまでは微塵も欠片も見られなかった余裕というモノが見えた。
「それは良かったです。頑張ってください。冬は必ず春となりますから」
あつこさんは明るく言った。
「良い言葉だな、それ。またオヤジと話がしたくなったら来るよ。良いかな?」
「どうぞ。どうぞ。お待ちしております。」
あつこさんはまたもや満面の笑みで応えた。
男はそういうと満足そうな顔でゆっくりと立ち上がった。
帰り際に2人の顔を見て「順番抜かしたみたいで悪かったな」とひとこと言って出て行った。
2人は猛烈な勢いで首を振って手も振って「大丈夫です」と応えた。
男が去ったあと颯太と周平は改めてあつこさんを見た。
さっきまでのにこやかな表情と笑顔は消えて、放心状態に限りなく近い表情で椅子に座ったままだった。
「大丈夫ですかぁ?」
周平があつこさんに声を掛けた。
「うん。大丈夫。でも疲れたぁ」
とあつこさんはさっきとは違って疲れ果てた表情で応えた。
あつこさんは占い師から単なる疲れ果てたお姉さんになっていた。
「気難しそうな人でしたからねえ」
颯太も一緒に頷きながらあつこさんに声を掛けた。
「うん。気難しいのはあの人ではなくあの人の周りに居た沢山の霊だったの」
「ええ?!沢山の霊??」
颯太と周平は声を揃えて言った。
「うん。あの人は結構修羅場をくぐって来ていたみたいで、色んなモノを引き連れていたのよ。あれが辛かった」
「そうなんだぁ」
颯太と周平は声を合わせて頷いた。
「それは除霊したんですか?」
「ある程度はね。でも全部じゃないわ。そんなひどい霊が付いている訳ではないので、後はあの人が自分をしっかり持って頑張れば大丈夫だろうけど……」
とあつこさんは疲れ果てたように言った。
「それにしてもあの人も強烈だったけどお父さんも強烈だったなぁ。言いたい事が沢山あって凄かったわ」
とあつこさんは呟いた。
「この機会を逃いしたらもういう機会が無い……みたいな感じかな」
颯太があつこさんに聞いた。
「そう、その通り。だから今まで言いたくて仕方なかったようだね。」
ここでやっとあつこさんは少し笑って話をした。
颯太と周平はそんなあつこさんを見て少し尊敬した。
そして颯太はあつこさんに聞いた。
「僕の弟とは連絡が取れますか?」
あつこさんは颯太の左肩を見ながら言った。
「今は見えないわ。まだ降りてこれないようね」
「修行に行っているの?」
「修行というのかなぁ……あちらでの修行は現世の修業とは違うみたいだからねえ。ここでは生きている事がすでに修行だからねえ」
あつこさんは考え込みながらもう一度颯太の肩を見たがやはり何も見えなかった。
「見えないという事は良い事なのよ。変に呼ばない方が絶対に良いよ。弟さんは成仏したかな」
あつこさんはそういうと手を合わせて祈った。
それを見て颯太も周平も同じように手を合わせて弟の事を祈った。
大事な事は忘れない事。たまに思い出してあげる事だとあつこさんが言っていたなと颯太は思い出していた。
「あなたのお父さんがそう言ってますから大丈夫でしょう。」
と付け加えた。
「親父がそう言っているのか?」
「はい。」
「親父が見えるのか?」
男は驚いたようにあつこさんに聞いた。
「はい。あなたの後ろでさっきから『こいつは辛抱が足りん。もっと図太く構えていれば良いモノを、焦って動き回るから更に悪い結果しか生まない。』とおっしゃってますから」
そういうとあつこさんはまたニコッと笑った。
「え?親父が後ろに……」
そういうと男は後ろを振り向いた。
――ここで親父が見えたらこのオッサン驚くだろうなぁ――
と2人は同時思ったが、残念ながらその男に霊感は無かった様だ。
男はまたあつこに向き直って聞いた。
「本当に親父が居るのか?」
「はい。お父様は昨年の夏にお亡くなりになられてますね。ご病気でしたか。でもお父様はそれをちゃんと受け入れられておられますね。受け入れられていないのは息子だとも仰ってますよ」
相変わらずにこやかに笑って話をするあつこさんだった。
「そんな事まで見えるのかぁ……」
男は信じられないもを見た時の映画俳優のように顔面がこわばっていた。
「はい。さっき申しましたよ。主に霊感占いだと」
あつこさんは首を少しかしげてニコッと笑って言った。
「他にオヤジはなんて言っている?」
男は恐る恐る聞いた。
その割には怖いもの見たさ的な雰囲気も感じられた。
「仕事は心配するほど落ち込まない。もっと部下を信じて任せなさい。これを転機に皆で会社を作っているという事を自覚しなさい……お父さんも沢山言いたい事があるみたいですねえ」
笑いながら言ったあつこさんだったが、ここで一息入れてもう一度居住まいを正してから話を続けた。
「『今の状況は天が与えたチャンスだと思いなさい。足場を固めるチャンスだと……。そしてこの機会にもっと家族を見なさい。お父さんはそれが出来なかったのが心残りだ。お前には同じ思いをさせたくない。今が家族と一緒に居られる時間を作るチャンスだ。』とも言ってます。」
そう言うとあつこさんは続けて
「ああ、お嬢さんが高校入試ですね。お父さんのさり気ない応援……そうですね。一言が必要ですね。」
と言った。
「そんな事も判るのか?」
男は更に驚いた。
あつこさんは畳みかけるように話を続けている。
「はい。あなたのお父様が教えてくれました。」
「本当によくしゃべるオヤジだな。生きている時は何も言わなかったくせに……」
男はさっきまでのこわばった表情から呆れかえったようなそれでいて懐かしそうな表情で呟いた。
「『お前が聞こうとしなかったからだ。』と仰ってますよ。」
あつこさんは笑いながらそう言った。
颯太と周平はこのやり取りを聞いて「凄いな。霊会との通訳みたいだな」と感心していた。
なにを聞いてもよどみなく応えているあつこさんを見て今更ながらに驚いていた。
「そうだったなぁ。俺はオヤジを避けていたかもしれんな。」
「お父様はいつも見守ってくれていますよ。だから安心して仕事してください」
あつこさんは明るくそう言った。
男は暫くあつこさんの前で腕を組んで考え事を始めた。
あつこさんはそれを黙って見ていた。
後ろの2人は男が何を言い出すのかを興味津々で待っていた。
男は腕組みを解いて言った。
「分かった。今日は良い話が聞けたよ。助かった」
男は何かを吹っ切れたような表情だった。
さばさばした表情というのか何かを吹っ切ったというのか、男の表情からはさっきまでは微塵も欠片も見られなかった余裕というモノが見えた。
「それは良かったです。頑張ってください。冬は必ず春となりますから」
あつこさんは明るく言った。
「良い言葉だな、それ。またオヤジと話がしたくなったら来るよ。良いかな?」
「どうぞ。どうぞ。お待ちしております。」
あつこさんはまたもや満面の笑みで応えた。
男はそういうと満足そうな顔でゆっくりと立ち上がった。
帰り際に2人の顔を見て「順番抜かしたみたいで悪かったな」とひとこと言って出て行った。
2人は猛烈な勢いで首を振って手も振って「大丈夫です」と応えた。
男が去ったあと颯太と周平は改めてあつこさんを見た。
さっきまでのにこやかな表情と笑顔は消えて、放心状態に限りなく近い表情で椅子に座ったままだった。
「大丈夫ですかぁ?」
周平があつこさんに声を掛けた。
「うん。大丈夫。でも疲れたぁ」
とあつこさんはさっきとは違って疲れ果てた表情で応えた。
あつこさんは占い師から単なる疲れ果てたお姉さんになっていた。
「気難しそうな人でしたからねえ」
颯太も一緒に頷きながらあつこさんに声を掛けた。
「うん。気難しいのはあの人ではなくあの人の周りに居た沢山の霊だったの」
「ええ?!沢山の霊??」
颯太と周平は声を揃えて言った。
「うん。あの人は結構修羅場をくぐって来ていたみたいで、色んなモノを引き連れていたのよ。あれが辛かった」
「そうなんだぁ」
颯太と周平は声を合わせて頷いた。
「それは除霊したんですか?」
「ある程度はね。でも全部じゃないわ。そんなひどい霊が付いている訳ではないので、後はあの人が自分をしっかり持って頑張れば大丈夫だろうけど……」
とあつこさんは疲れ果てたように言った。
「それにしてもあの人も強烈だったけどお父さんも強烈だったなぁ。言いたい事が沢山あって凄かったわ」
とあつこさんは呟いた。
「この機会を逃いしたらもういう機会が無い……みたいな感じかな」
颯太があつこさんに聞いた。
「そう、その通り。だから今まで言いたくて仕方なかったようだね。」
ここでやっとあつこさんは少し笑って話をした。
颯太と周平はそんなあつこさんを見て少し尊敬した。
そして颯太はあつこさんに聞いた。
「僕の弟とは連絡が取れますか?」
あつこさんは颯太の左肩を見ながら言った。
「今は見えないわ。まだ降りてこれないようね」
「修行に行っているの?」
「修行というのかなぁ……あちらでの修行は現世の修業とは違うみたいだからねえ。ここでは生きている事がすでに修行だからねえ」
あつこさんは考え込みながらもう一度颯太の肩を見たがやはり何も見えなかった。
「見えないという事は良い事なのよ。変に呼ばない方が絶対に良いよ。弟さんは成仏したかな」
あつこさんはそういうと手を合わせて祈った。
それを見て颯太も周平も同じように手を合わせて弟の事を祈った。
大事な事は忘れない事。たまに思い出してあげる事だとあつこさんが言っていたなと颯太は思い出していた。
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