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父
焦る人
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あつこさんは今日も元気に朝から自分のブースに居た。
朝から元気よく動くのが彼女のモットーだった。
朝から元気よくするだけで、何か得をしたような気になるのが良いらしい。
そんなあつこさんの目の前に寝不足でどんより顔の大学生になったなばかりの男子2名が、椅子ではなく絨毯の上に敷かれた座布団に胡坐をかいてあつこさんの顔を見上げていた。
「もう、朝からなんて不機嫌な顔をしているの?運気もツキも何から何まで逃げていきそうな雰囲気を醸しだしているわね。」
「だって~、大学生になったら遊べると思っていたのに、全然課題が終わらずに遊べないです」
彼ら二人は同じ大学に進学した訳ではないが、講義の選択を間違ったのか、同じように結構ヘビーな授業に付き合わされているようだ。
まだ新入生気分でのほほんとしていたい時期なのにそれを許さない状況で、不平不満をここにぶつけに来たらしい。
本人たちはそうアピールするがあつこさんから見たら、全然ヒマで遊んでいるようにしか見えない。
要するに段取りが悪いのとダラダラと課題に取り組むので全然進まないという状況らしい。
彼らの背後霊があつこさんにそう囁くようだ。
「まあいいわ。午前中はヒマだから見てあげるわよ」
「ホント!ラッキー」
そう、彼らはこの頃あつこさんのところに来ても金を払わずに占いをして貰っていた。
もう完全に友達なんだから何でも許してもらえる……みたいな甘えた感情も芽生えたいたが、流石にそこまでは図々しい事は言わずに、新しい学校でできた友達をここに連れて来ては売り上げには結構貢献していた。
そんな2人にあつこさんも「金よこせ!」とは言わずに暇な時は適当に見てあげていた。
元々あつこさんもそんな彼らを可愛い弟みたいに思っていたので、彼らがする事もなくここに来ても、いつも相手にしてあげていた。
その日も、いつものようにヒマな午前中になるはずだった。
あつこさんに言われて立ち上がろうとした瞬間、ブースのカーテンが開いて一人の中年の男が顔を覗かせた。
「今は大丈夫か?!直ぐにやって貰えるのか?」
男は何故か焦ったような感じで早口であつこさんに聞いた。
あつこさんが視線を彼ら2人に送ると、颯太と周平は慌てて首を振って「どうぞお先に。」とその中年の男に譲った。
それを確認してあつこさんは
「どうぞ。大丈夫です。」
と言った。
「そうか、じゃあ頼む。」
「チケットはこれで良いのか?」
と男は持っていたチケットをテーブルの上に全部置いて椅子に座った。
男は、同じ部屋で座っている2人を一瞥しただけで、その存在を気にしている様子はなかった。
そして相変わらず早口だった。
その男が焦っているのが後ろで見ていた2人にも手に取るようにわかった。
「いえ、こんなに要りません。3000円分だけ頂きます。延長になったら追加では貰いますが……。」
そういうとあつこさんはそのチケットをテーブルの端に寄せて、代わりに何も書いていない白い紙をテーブルの真ん中に置いた。
「名前と生年月日をお願いします。」
男は紙に名前と生年月日を書きながら
「ここはどんな占いをやる店だ?」
と聞いてきた。
「なんだ?知らずに入って来たのか?」
それを聞いたあつこさん・颯太・周平の3人は同時に同じ事を思っていた。
「なんだか失礼な奴だな」
と後ろの2人が同時に思っていた。
特に颯太は
「何を焦っているんだこのオッサン。」
と少し心の中でバカにしていた。
「いい歳したオッサンが何を占い如きに真剣になるかな?」
と、この春にあつこさんの力をまざまざと見せつけられた事は忘れたように、冷ややかに見ていた。
「私は主に霊感占いをやっています。それとタロット占いと四柱推命です。」
あつこさんはこの失礼な男に対してもいつも通りの対応をしていた。
「なんでもいい。さっさと見てくれ。」
男は書き終えるとボールペンをテーブルに投げるように置いた。
あつこさんはその書かれた名前と誕生日を見て、そしてその男の左肩の少し上を見ながらこう言った。
「仕事の事ですか?」
「そうだ。」
男は驚く様子も見せずに返事をした。
後ろの2人は「見ただけで分かるだ。すげ~」と心の中で驚いていた。
男はそれにさえ気がつかないぐらい焦っていた。
あつこさんにしては珍しい話の進め方だった。
いつもは「何について見ますか?」とか聞くのに今日は自分から核心を突いた。
「俺のやっている商売がうまく行かない。その原因はなんだ?……で、どうすれば良いのか知りたい。」
「分かりました。少し見てみましょう。」
あつこさんはそう言うとタロットカードを取り出した。
いつものように客にカードを切らせた後にカードをテーブルにクロスに並べた。
そして最後にその横にカードを縦に4枚並べて置いた。
「今はやる事なす事全て上手く行って無いように思ってますね。」
「思っているのではなく、全く上手く行ってない。」
「なるほど。負のスパイラルにはまっていると」
あつこさんはまたその男の左肩の少し上から目を見ながら話をしていた。
「これは何かに祟られているのか?」
「何か身に覚えがありますか?」
今度はあつこさんは男の目をまっすぐに見て聞いた。
「ない。身に覚えがない。しいて言えば仕事が出来ない奴反抗的な奴らを数人クビにしたり、脇の甘い商売先から余計に貰ったりはしたが、そんな祟りがあるような事をした覚えはない。」
と男は言い切った。
颯太と周平は
「なかなか充分祟られそうな理由があるじゃん」
と心の中で思っていた。
2人の顔が見えたあつこさんは、それが見て取れたので可笑しくて笑いそうになったが、流石にここで笑う訳にも行かず軽く「コホン」と咳き込んだ。
あつこさんの咳も案外可愛い。2人は同時そう思った。
あつこさんは居住まいを正して言った。
「確かに運気は悪いようです。暫くこの状態は続きそうです。四柱推命的に見てもここ数年は衰退期に入っているようです」
「そうなのか?さっきも同じような事を言われたわ」
――なんだぁ?占いのハシゴかぁ?どれだけ占いに頼っているんだ――
またもや颯太と周平は同じ事を思った。
あつこさんも同じ事を少し思った。
「何とかならんのか?」
「私には何ともなりません。ただ、このままず~とこの状態が続く事はなく、いつかは上昇します。それまでは辛抱が要ります」
あつこさんはそう男に言った。
「何とかならんのだったら他の占い師と同じじゃないか?言うだけなら誰でもできる」
「そうですよ。言ってしまえが、占い師は言うだけの仕事です。それをどう生かすか殺すかはあなた次第です。占い師は占い師であって、あなたではありません。あなたの人生の代わりなどできるはずもないのです。私は、ただ転ばぬ先の杖程度のお手伝いは出来るだけです」
あつこさんはいつもに無く強い口調でその男に言った。
男は黙って聞いていたが全く納得していない表情だった。
しかし、しばらく考えてから言った。
「そうだな。あんたの言う通りだな。俺の代わりはいない。」
「じゃあ、聞くが俺はどうしたら良い。」
男は改めてあつこさんに聞いた。
あつこさんはじっと天井のある一点を凝視して、それから視線を男に戻してこう言った。
「あなたは頭は悪くない。とっても良いですね。しかし失敗を恐れ過ぎている。失敗は頭が悪いから起きるのではない。
ハッキリ言います。あなたの今の焦りはプライドから来ています。
失敗する事が自分の評価に『頭の悪い奴だから失敗した』と付け加えられるのが嫌なだけです。
違いますか?」
「う、うん。その通りかもしれん。」
男は自分でも認めたくはない事実を突きつけられたというような顔をして応えた。
それは眉間の皺が彼の苦渋を物語っていた。
更にあつこさんは話を続けた。
「今回、何をやっても上手く行かない。いつもなら上手く行っている事が今回に限って失敗する。そう思う事が多々ありますね。」
「ああ、ある。だから何かに祟られているのではないかと思った。」
「それはあなたの宿業ですね。祟りではありません。これだけは避けられません。しかしこのまま失敗したままで終わる宿業ではありません。必ず上がります。そこまでどれだけ耐えられるかです。ここであなたの本当の力が試されていると思って下さい。」
あつこさんは熱く話を続けた。
本人は冷静にいつも通り話をしているのだが、颯太と周平はいつも一緒にバカ話が2分おきに入るような占いしかして見ていないので、今回のような真剣な占いを見たて熱く感じたのだった。
「上がるのか?」
「はい。上がります。それは間違いないです。」
あつこさんは満面の笑みを浮かべてそう言い切った。
朝から元気よく動くのが彼女のモットーだった。
朝から元気よくするだけで、何か得をしたような気になるのが良いらしい。
そんなあつこさんの目の前に寝不足でどんより顔の大学生になったなばかりの男子2名が、椅子ではなく絨毯の上に敷かれた座布団に胡坐をかいてあつこさんの顔を見上げていた。
「もう、朝からなんて不機嫌な顔をしているの?運気もツキも何から何まで逃げていきそうな雰囲気を醸しだしているわね。」
「だって~、大学生になったら遊べると思っていたのに、全然課題が終わらずに遊べないです」
彼ら二人は同じ大学に進学した訳ではないが、講義の選択を間違ったのか、同じように結構ヘビーな授業に付き合わされているようだ。
まだ新入生気分でのほほんとしていたい時期なのにそれを許さない状況で、不平不満をここにぶつけに来たらしい。
本人たちはそうアピールするがあつこさんから見たら、全然ヒマで遊んでいるようにしか見えない。
要するに段取りが悪いのとダラダラと課題に取り組むので全然進まないという状況らしい。
彼らの背後霊があつこさんにそう囁くようだ。
「まあいいわ。午前中はヒマだから見てあげるわよ」
「ホント!ラッキー」
そう、彼らはこの頃あつこさんのところに来ても金を払わずに占いをして貰っていた。
もう完全に友達なんだから何でも許してもらえる……みたいな甘えた感情も芽生えたいたが、流石にそこまでは図々しい事は言わずに、新しい学校でできた友達をここに連れて来ては売り上げには結構貢献していた。
そんな2人にあつこさんも「金よこせ!」とは言わずに暇な時は適当に見てあげていた。
元々あつこさんもそんな彼らを可愛い弟みたいに思っていたので、彼らがする事もなくここに来ても、いつも相手にしてあげていた。
その日も、いつものようにヒマな午前中になるはずだった。
あつこさんに言われて立ち上がろうとした瞬間、ブースのカーテンが開いて一人の中年の男が顔を覗かせた。
「今は大丈夫か?!直ぐにやって貰えるのか?」
男は何故か焦ったような感じで早口であつこさんに聞いた。
あつこさんが視線を彼ら2人に送ると、颯太と周平は慌てて首を振って「どうぞお先に。」とその中年の男に譲った。
それを確認してあつこさんは
「どうぞ。大丈夫です。」
と言った。
「そうか、じゃあ頼む。」
「チケットはこれで良いのか?」
と男は持っていたチケットをテーブルの上に全部置いて椅子に座った。
男は、同じ部屋で座っている2人を一瞥しただけで、その存在を気にしている様子はなかった。
そして相変わらず早口だった。
その男が焦っているのが後ろで見ていた2人にも手に取るようにわかった。
「いえ、こんなに要りません。3000円分だけ頂きます。延長になったら追加では貰いますが……。」
そういうとあつこさんはそのチケットをテーブルの端に寄せて、代わりに何も書いていない白い紙をテーブルの真ん中に置いた。
「名前と生年月日をお願いします。」
男は紙に名前と生年月日を書きながら
「ここはどんな占いをやる店だ?」
と聞いてきた。
「なんだ?知らずに入って来たのか?」
それを聞いたあつこさん・颯太・周平の3人は同時に同じ事を思っていた。
「なんだか失礼な奴だな」
と後ろの2人が同時に思っていた。
特に颯太は
「何を焦っているんだこのオッサン。」
と少し心の中でバカにしていた。
「いい歳したオッサンが何を占い如きに真剣になるかな?」
と、この春にあつこさんの力をまざまざと見せつけられた事は忘れたように、冷ややかに見ていた。
「私は主に霊感占いをやっています。それとタロット占いと四柱推命です。」
あつこさんはこの失礼な男に対してもいつも通りの対応をしていた。
「なんでもいい。さっさと見てくれ。」
男は書き終えるとボールペンをテーブルに投げるように置いた。
あつこさんはその書かれた名前と誕生日を見て、そしてその男の左肩の少し上を見ながらこう言った。
「仕事の事ですか?」
「そうだ。」
男は驚く様子も見せずに返事をした。
後ろの2人は「見ただけで分かるだ。すげ~」と心の中で驚いていた。
男はそれにさえ気がつかないぐらい焦っていた。
あつこさんにしては珍しい話の進め方だった。
いつもは「何について見ますか?」とか聞くのに今日は自分から核心を突いた。
「俺のやっている商売がうまく行かない。その原因はなんだ?……で、どうすれば良いのか知りたい。」
「分かりました。少し見てみましょう。」
あつこさんはそう言うとタロットカードを取り出した。
いつものように客にカードを切らせた後にカードをテーブルにクロスに並べた。
そして最後にその横にカードを縦に4枚並べて置いた。
「今はやる事なす事全て上手く行って無いように思ってますね。」
「思っているのではなく、全く上手く行ってない。」
「なるほど。負のスパイラルにはまっていると」
あつこさんはまたその男の左肩の少し上から目を見ながら話をしていた。
「これは何かに祟られているのか?」
「何か身に覚えがありますか?」
今度はあつこさんは男の目をまっすぐに見て聞いた。
「ない。身に覚えがない。しいて言えば仕事が出来ない奴反抗的な奴らを数人クビにしたり、脇の甘い商売先から余計に貰ったりはしたが、そんな祟りがあるような事をした覚えはない。」
と男は言い切った。
颯太と周平は
「なかなか充分祟られそうな理由があるじゃん」
と心の中で思っていた。
2人の顔が見えたあつこさんは、それが見て取れたので可笑しくて笑いそうになったが、流石にここで笑う訳にも行かず軽く「コホン」と咳き込んだ。
あつこさんの咳も案外可愛い。2人は同時そう思った。
あつこさんは居住まいを正して言った。
「確かに運気は悪いようです。暫くこの状態は続きそうです。四柱推命的に見てもここ数年は衰退期に入っているようです」
「そうなのか?さっきも同じような事を言われたわ」
――なんだぁ?占いのハシゴかぁ?どれだけ占いに頼っているんだ――
またもや颯太と周平は同じ事を思った。
あつこさんも同じ事を少し思った。
「何とかならんのか?」
「私には何ともなりません。ただ、このままず~とこの状態が続く事はなく、いつかは上昇します。それまでは辛抱が要ります」
あつこさんはそう男に言った。
「何とかならんのだったら他の占い師と同じじゃないか?言うだけなら誰でもできる」
「そうですよ。言ってしまえが、占い師は言うだけの仕事です。それをどう生かすか殺すかはあなた次第です。占い師は占い師であって、あなたではありません。あなたの人生の代わりなどできるはずもないのです。私は、ただ転ばぬ先の杖程度のお手伝いは出来るだけです」
あつこさんはいつもに無く強い口調でその男に言った。
男は黙って聞いていたが全く納得していない表情だった。
しかし、しばらく考えてから言った。
「そうだな。あんたの言う通りだな。俺の代わりはいない。」
「じゃあ、聞くが俺はどうしたら良い。」
男は改めてあつこさんに聞いた。
あつこさんはじっと天井のある一点を凝視して、それから視線を男に戻してこう言った。
「あなたは頭は悪くない。とっても良いですね。しかし失敗を恐れ過ぎている。失敗は頭が悪いから起きるのではない。
ハッキリ言います。あなたの今の焦りはプライドから来ています。
失敗する事が自分の評価に『頭の悪い奴だから失敗した』と付け加えられるのが嫌なだけです。
違いますか?」
「う、うん。その通りかもしれん。」
男は自分でも認めたくはない事実を突きつけられたというような顔をして応えた。
それは眉間の皺が彼の苦渋を物語っていた。
更にあつこさんは話を続けた。
「今回、何をやっても上手く行かない。いつもなら上手く行っている事が今回に限って失敗する。そう思う事が多々ありますね。」
「ああ、ある。だから何かに祟られているのではないかと思った。」
「それはあなたの宿業ですね。祟りではありません。これだけは避けられません。しかしこのまま失敗したままで終わる宿業ではありません。必ず上がります。そこまでどれだけ耐えられるかです。ここであなたの本当の力が試されていると思って下さい。」
あつこさんは熱く話を続けた。
本人は冷静にいつも通り話をしているのだが、颯太と周平はいつも一緒にバカ話が2分おきに入るような占いしかして見ていないので、今回のような真剣な占いを見たて熱く感じたのだった。
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