いちばんになりたい

紗夏

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第2話 淳弥

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 淳弥の一方的な要求に麻衣香の態度は豹変した。

 

「な、に言ってんの? 何言っちゃってんの? 何で、あたしが淳くんから、別れつきつけられなきゃいけないの?」
「君は、悪くないよ。ただ、彼女に子どもが出来たんだ」
「それが、何? 散々不貞を働いておいて、更に妻を裏切ろうっていうの?」

麻衣香の据わりきった瞳が、開き直った答弁が、淳弥の背中に悪寒を這い回らせる。驚愕の淳弥の表情とは対照的に、麻衣香はけらけらと笑い出した。


「ほんとにねえ、あの子が刺されれば良かったのにねえ…使えないったらないよね。それに、淳くんも何やってんの? どうして、あんな子庇ってるの?」
「麻衣…?」
「私が、なんにも知らないとでも思ってた? 全部、知ってるよ、淳くんが向こうでやってきたことなんて。――糸井夕希が妊娠してることもね」
「――!!」

自分が、今日知った事実を、妻は広島にいながら、知っていたという。いつから、知っていたのか。いつから、疑っていたのか。常に監視されていたみたいで、薄気味悪いことこ上ない。

 

「…どうやって…」
「そんなこと教えるわけないでしょ? 離婚なんてしたら、私、糸井夕希に何するかわかんないよ? …ねえ、淳くん。牟田に糸井夕希を襲わせたのは、私なんだ、って言ったら信じる?」
「……」

信じない信じたくない。けれど。小さくしか報道されなかった事件の犯人の名まで、何故麻衣香は知っていて、知り合いのように呼んでいるのか。

 

(――同じだ、森崎の時と)

守るつもりが全然守れていなかった。麻衣香の狂気の矛先が、既に糸井夕希に向いていたなんて。計り知れない罪悪感と絶望感が、淳弥を襲う。

 

「麻衣…っ」
「もう、こっちに帰って来なよ。淳くんには、あたししかいない、ってよくわかったでしょ?」

一転したしおらしい笑顔、健気な言葉。けれど、その裏に潜んでる狂気をイヤという程知ってしまっては、もう愛おしいなんて感情は皆無で、ひたすら恐怖だった。

淳弥が麻衣香の元にさえ戻れば、これまでの不貞行為は目をつぶる、糸井夕希には手出しはしない。麻衣香からの交換条件だった。

 

「こっちに帰ってくるの楽しみにしてるね。淳くんの大好きなカキフライ作って待ってるから」

 

仕事があるから、と麻衣香は淳弥の退院を前に、一度広島に帰ってしまう。

 


退院の日。
淳弥は自分の家に帰る前に、タクシーで夕希の家に寄った。けれど、糸井の表札はもうなく、部屋のカーテンも外されている。慌てて、ラインを探したが、とっくに友達登録は解除になっていて、検索しても出て来なかった。直接の電話も、メアドも、全て契約が切れている、と電子音が流れるだけ。

 

糸井夕希は淳弥の前から姿を消してしまっていた。

 

 

 

                                           淳弥side 完 
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