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③運命の夜
しおりを挟む王妃になるべく生まれ、育てられたも同然のアデリードだ。リヒトの宣言は、単に裏切りの告白のみならず、アデリードから希望も未来も奪ったも同然であった。
何を言えばいいのだろう。リヒトを詰ればいいのか、泣いて嫌だと縋ってみせればいいのか、ヘルガを傷つければ気が済むのか。ひとつだけ思ったことがある。自分の想定を超えた事態になった時、頭の中は真っ白になって、的確に相手を罵る言葉も、恨み言を言いながら流す涙の一粒も出てこないものだと。
「アデル…?」
反応の薄いアデリードに、リヒトは逆に心配になったらしく、彼女の顔を覗き込む。暗闇でも明るく輝く銀色の髪。若葉のような緑色の瞳。どちらも大好きだったのに。
ここで取り乱して怒りまくったり、涙を流して心変わりを責めるには、アデリードはプライドが高すぎた。いずれの行為も、アデリードがヘルガに負けたと認める行為だ。そんなことは絶対に許さない、許されるわけがない。
「わかりました――」
気丈にアデリードが微笑んだ時だった。ルミエールがアデリードの元に来て、そっと耳打ちをする。その内容に、アデリードは言葉を失った。
次から次へと。一体なんだっていうんだろう。
「殿下」
「どうした、アデル。顔色が悪い」
「今、宮廷より早馬が来て、国王陛下が急遽お亡くなりになったとのこと。急ぎ、戻れと、王妃様よりのご命令だそうです」
アデリードは、エルミールが言ったそのままを、リヒトに伝える。
リヒトも顔色を失い、言葉を失う。
とりあえず、パーティーを中止しなくては。アデリードは、まだ冷静な頭で、そう判断し、ホールに戻ろうとする。
そのアデリードの背中に、リヒトが食い下がってきた。
「嘘だ…。夕刻お会いした時は健勝であられたのに、たった数時間でそんな」
リヒトはポロポロと涙を零していた。突然の父親の訃報に際し、リヒトが信じられない思いなのはわかる。
けれど、疑問をアデリードにぶつけられても、どうすることも出来ない。
「兄上。城に戻りましょう。アデルとも城で話した方がいい」
失意の兄の代わりに、そう促したのはクラウスだった。
「え」
私まで? アデリードは首を傾げる。
「亡くなったのは国王陛下…」
父が亡くなったのに、クラウスはこの場の誰よりも冷静に言う。繰り返し言われたことで、アデルにもクラウスの言いたいことが理解できた。
即ち――国王崩御となれば、すぐに王太子即位の運びとなる。となれば、王太子の婚約者のアデリードも、即王太子リヒトと結婚。王妃となる――慣例に倣えば、そういった流れになるはずだ。
(ということはよ)
国王が亡くなって直後に甚だ不謹慎な想像だとわかってはいるのだが、アデリードの心に一筋の光が差し込んだ。
(ヘルガは王妃になれるような身分ではないのだし、やっぱり婚約破棄を破棄して、私を妃に…って、考え直してくれたりしないかしら)
アデリードの18歳の誕生日はこうして、とんでもない騒動の中でお開きとなり、アデリードとクラウス、リヒト、ヘルガは4人、漆黒の闇の中をひた走る馬車に乗り込んだのである。
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