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余談的挿話
①透の場合 後編
しおりを挟むお互いの親にも結婚する宣言して、式場も探し始めた。
「招待状は俺が作るよ。咲良、結婚式の準備忙しいだろ?」
「え、透に任せていいの?」
「ああ。それくらいは出来るから。とりあえずデザイン出来たら、見せるよ」
「ありがと」
憧れの咲良をもうすぐ自分のものに出来る――浮かれて舞い上がってた
わけでもないんだけれど、仕事上で俺はミスを犯してしまった。
ミス自体は挽回出来るもので、致命傷なわけじゃない。だけど。
「課長、私がフォローに行きます」
俺の尻拭いをしてくれたのは、咲良だった…。
「出来た女房もらえて良かったな」
何も出来ずに、会社に残ったままだった俺を、柏木課長はそう嘲笑した。
悔しいけど言い返せない。握った拳の中に爪が突き刺さった。
咲良がまだ出先から戻る前に、俺は会社を出て、いつもの道をとぼとぼ歩く。その時、スマホをあちこち傾けてる後輩の姿が目に入った――総務の白井さんて子だった。
「何してんの?」
その行動が傍目になんだか怪しくて、無視できずに寄って行った。
「あ、宮本さん」
白井さんは咄嗟にポケットにスマホを隠す。
「写真撮ってたの?」
「そうなんです! ちょっとロマンチックじゃないですか?」
白井さんはそう言って、中空を指さす。東京タワーのてっぺんに満月が乗っかってるように見える。
「へえ」
下を向いて歩いてたら、気が付かない風景だった。
「写真撮って投稿しようと思って。けど、難しいんですよね。私だとちょっと身長が…」
そう言って白井さんは思い切り腕を伸ばして、スマホを高く掲げる。それでも、てっぺんは切れてしまうらしい。
「貸して」
そう言って俺が撮った写真を、白井さんは大袈裟なくらい喜んでくれた。
俺と咲良は身長もほとんど一緒だから、こんな風に手を貸したことはない。だから、俺も嬉しくなった。落ち込んでた時だから、余計だろうか…誰かの役に立てたことが。
「ありがと」
俺がお礼を言うと、白井さんはきょとんとなった。
「そこ、私がお礼言うとこですよ~」
そう言ってきゃははと笑う。軽いなあ。
「ちょっと飲み行かない?」
こういう子だから、俺も気軽に誘えて、白井さんもすぐについてきた。
白井さんのインスタの写真を見せてもらいながら、話も酒もびっくりするくらい進んだ。こんな楽しいの久しぶり。
「宮本さん、飲み過ぎですよ~。帰りましょ? ね」
「ん、ああ…送るよ。家何処?」
「いいですよ。私送って行った後の、宮本さんの方が心配です」
「俺の心配なんていらねえよ! どうせ、仕事も出来ずに、女に庇われるような男なんだから」
グラスをダン!とテーブルに置いて、俺は情けない愚痴を吐き出す。
どうせ俺なんか。咲良はやっぱり高嶺の花で、俺はどうしたってあいつに相応しい鉢にはなれない。追いついて対等になりたいのに、なれなくて…。
「そんなことないです」
グラスを持った手に、白い手が重ねられた。
「私、ずっと宮本さん憧れてましたよ」
俺が咲良に憧れたように、俺に憧れてくれる女の子もいる…?
熱を帯びた手のひらと視線。やばいと思わなかったと言えば、嘘になる。
けど…結局俺はその危険な誘惑に抗えなかった。
「ずっと…好きだったんです」
「本当ですよ? 追っかけてたの知りませんでした?」
白井さんの嘘かホントかわかんない言葉に酔わされながら、彼女を抱いた。
そして――
「彼女の胎内には、今、僕の子どもがいる。3か月になるそうだ」
咲良の怒りを買う羽目になるのだけれど、後悔はしていない…多分。
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