婚約者にフラれたので、復讐しようと思います

紗夏

文字の大きさ
21 / 41
余談的挿話

①透の場合 後編

しおりを挟む

お互いの親にも結婚する宣言して、式場も探し始めた。

「招待状は俺が作るよ。咲良、結婚式の準備忙しいだろ?」
「え、透に任せていいの?」
「ああ。それくらいは出来るから。とりあえずデザイン出来たら、見せるよ」
「ありがと」

憧れの咲良をもうすぐ自分のものに出来る――浮かれて舞い上がってた
わけでもないんだけれど、仕事上で俺はミスを犯してしまった。

ミス自体は挽回出来るもので、致命傷なわけじゃない。だけど。


「課長、私がフォローに行きます」

俺の尻拭いをしてくれたのは、咲良だった…。

「出来た女房もらえて良かったな」

何も出来ずに、会社に残ったままだった俺を、柏木課長はそう嘲笑した。

悔しいけど言い返せない。握った拳の中に爪が突き刺さった。

咲良がまだ出先から戻る前に、俺は会社を出て、いつもの道をとぼとぼ歩く。その時、スマホをあちこち傾けてる後輩の姿が目に入った――総務の白井さんて子だった。


「何してんの?」

その行動が傍目になんだか怪しくて、無視できずに寄って行った。


「あ、宮本さん」

白井さんは咄嗟にポケットにスマホを隠す。

「写真撮ってたの?」
「そうなんです! ちょっとロマンチックじゃないですか?」

白井さんはそう言って、中空を指さす。東京タワーのてっぺんに満月が乗っかってるように見える。



「へえ」

下を向いて歩いてたら、気が付かない風景だった。


「写真撮って投稿しようと思って。けど、難しいんですよね。私だとちょっと身長が…」

そう言って白井さんは思い切り腕を伸ばして、スマホを高く掲げる。それでも、てっぺんは切れてしまうらしい。


「貸して」

そう言って俺が撮った写真を、白井さんは大袈裟なくらい喜んでくれた。
俺と咲良は身長もほとんど一緒だから、こんな風に手を貸したことはない。だから、俺も嬉しくなった。落ち込んでた時だから、余計だろうか…誰かの役に立てたことが。


「ありがと」

俺がお礼を言うと、白井さんはきょとんとなった。


「そこ、私がお礼言うとこですよ~」

そう言ってきゃははと笑う。軽いなあ。


「ちょっと飲み行かない?」

こういう子だから、俺も気軽に誘えて、白井さんもすぐについてきた。


白井さんのインスタの写真を見せてもらいながら、話も酒もびっくりするくらい進んだ。こんな楽しいの久しぶり。


「宮本さん、飲み過ぎですよ~。帰りましょ? ね」
「ん、ああ…送るよ。家何処?」
「いいですよ。私送って行った後の、宮本さんの方が心配です」
「俺の心配なんていらねえよ! どうせ、仕事も出来ずに、女に庇われるような男なんだから」

グラスをダン!とテーブルに置いて、俺は情けない愚痴を吐き出す。


どうせ俺なんか。咲良はやっぱり高嶺の花で、俺はどうしたってあいつに相応しい鉢にはなれない。追いついて対等になりたいのに、なれなくて…。


「そんなことないです」

グラスを持った手に、白い手が重ねられた。


「私、ずっと宮本さん憧れてましたよ」



俺が咲良に憧れたように、俺に憧れてくれる女の子もいる…?

熱を帯びた手のひらと視線。やばいと思わなかったと言えば、嘘になる。

けど…結局俺はその危険な誘惑に抗えなかった。



「ずっと…好きだったんです」
「本当ですよ? 追っかけてたの知りませんでした?」

白井さんの嘘かホントかわかんない言葉に酔わされながら、彼女を抱いた。



そして――
「彼女の胎内には、今、僕の子どもがいる。3か月になるそうだ」

咲良の怒りを買う羽目になるのだけれど、後悔はしていない…多分。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢アリスは他に想う人のいる相手と結婚した。 政略結婚ではあったものの、家族から愛されず、愛に飢えていた彼女は生まれて初めて優しくしてくれる夫をすぐに好きになった。 しかし、結婚してから三年。 夫の初恋の相手である王女殿下が国に帰って来ることになり、アリスは愛する夫から離婚を告げられてしまう。 絶望の中でアリスの前に現れたのはとある人物で……!?

処理中です...