22 / 41
第6章 追い詰められたネズミとネコ
①
しおりを挟む日曜日、約束の時間ぴったりに、透はうちに現れた。
通勤に使ってるのより、もうちょっと上質のスーツに身を包んだ透は、少しやつれていた。まあ、血色良かったらおかしいよね。
上がって来るなり、透のご両親は、いきなり土下座でもせんばかりの勢いで、謝り始めた。
「この度はうちの息子がとんだご迷惑を…」
「本当に申し訳ないことをして…」
透のお父さんとお母さんには、何の責任も過失もないのに。うちの親も余りに恐縮されちゃって、逆に困って、「まあまあ、人の心は縛れないですから」なんていう始末。
こんだけお父さんたちが申し訳なさそうにしてるのに、当の本人はしれーっとしてる。どういう神経してるんだろ。
透のお母さんから、白井家とのやりとりも少しだけ聞けた。
白井家では、寧ろ娘のデキ婚を歓迎ムードらしい。子だくさんのおうちで、六男二女の美雪は2人目の女の子。うーん、すごいな。
産めよ増やせよ、って戦後か。
美雪が既に妊娠中なこともあり、また別の女性と婚約してたっていう事実もあるから、結婚式はしない予定らしい。やったとしても、ドレスとタキシード着ての写真撮影くらいって。
うん、その方がいいんじゃないかな、って思う。少なくとも、会社の人間はそんな式行きにくいよ。
「咲良ちゃん…。今回は本当になんて言っていいのか…。私、咲良ちゃんが娘になってくれる日を楽しみにしてたのに」
透のお母さんに手を握られて、涙ながらに訴えられて、却って困ってしまう。何もなければ、あと3か月でその予定だったのに。
「…咲良には悪いとは思ってるよ」
母親の涙を見て、透は今日初めて、謝罪の言葉を口にした。
「悪いじゃないわよ、あんたは! 私たちだけでなく、会社の人にまで迷惑掛けて…」
「それなりの報いは受けてるよ」
「え?」
柏木課長、何か言ったかしたのかな、透の思わせぶりなセリフが気にかかった。
けど、当の本人はいたたまれなくなったらしい。
「後は咲良と話し合いで決めるよ。咲良」
「え」
「ここじゃあれだから、外で話そう」
透に言われてふらふらついて行ってしまったのは、私自身も透との醜いやりとりを見せたくなかったから。
だけど、この時実家を出たことを、後で悔やむことになるんだけれど。
透は迷いのない足取りで、近くの裏通りのレストランに入っていく。予め予約してあったんだろう、奥の個室に通された。
食事をする時間でもないのに、ワインとグラス、それにチーズも出てきた。赤ワインに合いそうな濃いブルーチーズ。苦手なんだけどな。
「せっかくだから、乾杯でもしよっか」
ワインの入ったグラスを傾けて、透が言う。
「…何に乾杯? そういう気分じゃないんだけど」
言いながら、私は冴木さんが作ってくれた書類をテーブルに出した。
2
あなたにおすすめの小説
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
地味で無才な私を捨てたことを、どうぞ一生後悔してください。
有賀冬馬
恋愛
「お前のような雑用女、誰にでも代わりはいる」
そう言って私を捨てたディーン様。でも、彼は気づいていなかったのです。公爵家の繁栄を支えていたのは、私の事務作業と薬草の知識だったということに。
追放された辺境の地で、私はようやく自分らしく生きる道を見つけました。無口な辺境伯様に「君がいなければダメだ」と熱烈に求められ、凍っていた心が溶けていく。
やがて王都で居場所をなくし、惨めな姿で私を追いかけてきた元婚約者。
「もう、私の帰る場所はここしかありませんから」
絶望する彼を背に、私は最愛の人と共に歩み出します。
殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ
柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」
「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」
濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。
やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる