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余談的挿話
①透の場合 前編
しおりを挟む憧れとコンプレックス――俺が咲良に抱き続けているもの
「お前、御園と付き合ってるんだって?」
何処で聞きつけてきたのか、俺に真っ先にそのことを聞いてきたのは、同期の橋本だった。
「ああ」
隠す必要もないし、いずれわかってしまうこと。俺が即座に頷くと、橋本は「いいなあ」と感嘆のため息を漏らした。
美人で仕事が出来る咲良は、同期の男たちの高嶺の花的存在で、誰が最初に手を伸ばすか、みんなで牽制し合ってた。
「やっぱり同じ課って有利だよなあ」
「アドバンテージは有効に使わないとな」
とは言っても、フラれたら、その時は会社にいられなくなるくらい、しんどい。ハイリスクハイリターン。そんな賭け、よくやったなと、自分で自分を褒めたいくらいだ。
実際、咲良が俺のどこを気に入ってくれたのか、わかんないんだけど。
たまたま同じ日に、取引先で仕事がおして、戻ってきた営業課のフロアには、もう俺と咲良しかいなかった。
「片付けて帰ろうか」
「腹減ったから、なんか食べて行かない?」
「…宮本くん、何食べたいの?」
「御園さんは?」
「せーので、言って、同じものだったら、いいよ」
咲良の赤い唇の両端が心持ち上がる。ぞくっとしながら、咲良の掛け声に合わせて、言った。シンクロしてるといいなと願いながら。
「ラーメン」
2人の声がかぶさった。…やった。思わずガッツポーズした俺に、咲良はくすくす笑いながら言う。
「私、担々麺のおいしいとこ知ってるよ?」
そう言って咲良の案内で行った中華料理屋の担々麺は、俺には辛くて、水を何杯もお代わりしながら、死ぬ気で食べた。
咲良は慣れてるのか、辛いの平気なのか、けろっとしてるのに。
「辛いの苦手だった?」
「いや…そういうわけでは」
「でも涙目なってるよ?」
せっかくのチャンスだったのに、あー俺、カッコ悪い。
「つーか何でラーメン言ってたのに、担々麺?」
「え、担々麺てラーメンじゃないの?」
「や、そりゃくくりで言えば同じかもしれないけど」
「ごめんね、今度は宮本くんの好きな物付き合うよ」
サバサバしたその物言いと、『今度』って言葉に感動して、帰り道に思わず言ってた。
「俺たち付き合わない?」
まさか「いいよ」ってあっさり返事が来るなんて思わなかった。
性格は真逆なんだけど、それが妙にしっくり行って、付き合って三年目。俺は咲良にプロポーズした。
見栄張ってホテルのプチスイートで、ベタにバラの花束抱えて。
「私、仕事やめないよ?」
「いーよ」
「あんまりお料理うまくないよ」
「いーよ。咲良がいいんだ、俺…」
「透の寛大なとこ、私も好き」
ぎゅって抱きしめて、そのままキスして、ベッドにダイブ。
そのまま何事もなく行くって、思ってた――
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