24 / 41
第6章 追い詰められたネズミとネコ
③
しおりを挟む「御園さん?」
裏口の施錠をしっかりして、振り返ったマスターは、私の顔を見て、驚愕してる。
「な、なんでここ…」
「あ、えっと…」
何で、って貴方のお店に来るのに、いちいち理由必要でしょうか。
そんなことわざわざ聞くのはやっぱり、マスターにとっても、見られたくない場面だったからかな。
マスターと彼に寄り添うように立つ冴木さん。
やっぱりそういう関係だったんだ…。
「え、えっと…お邪魔しました」
反射的に、私は踵を返して、2人から遠ざかろうとする。
「御園さん!」
けど、またこの前みたいに、マスターが追っかけてきて、今度は私の二の腕をがしっと掴んだ。
「あの…絶対何か誤解してると思うんですけど」
私の腕をつかんだまま、マスターはもう一方の手を、額に当てながら言う。なんだかすごく気分悪そうだ。
「え?」
誤解って…だって、恋人同士以外に受け取りようがない。智ちゃん、光さん、なんて呼び合ってるし、お互いの仕事、罵りつつリスペクトし合ってるし。
そもそも、マスターと冴木さんがどういう関係だとしても、私には関係ない。私は復讐に燃える女なんだから、うん。
けど、マスターは必死な顔で、私に言う。
「あの人、私の叔母なんです」
「へ?」
叔母って、親の姉妹を意味するあの叔母?
中年女性を意味するおばさんでなく。
「だ、だって」
苗字違うし、年も近いし。
「私の姉が智ちゃんの母親なの。けど、私と姉さんは年が離れてて、4つしか年の変わらない甥っ子に叔母さん呼ばわりされたくないでしょ?」
「僕もいい年なんで、智ちゃん扱いされるのは、不本意なんですが」
言われてみれば、整った顔立ちとか、似てないこともない…?
「貴方が生まれた時から、そう呼んでるのよ。今更変えられないわよ。それより、病院行くわよ?」
「いいですよ、寝てれば治るし」
「病院行って、お薬処方してもらった方が、確実に早く良くなるわよ? 1週間もお休みしてごらんなさい、あんなお店、あっという間にお客さんいなくなるから」
「……」
どうやらマスターの体調不良で、お店は臨時休業だったみたい。
冴木さんに言いくるめられて、マスターは店の裏の駐車場に停めてあった白いSUVに乗り込んだ。あれ、レンジローバー…(高い、らしい。お父さんの憧れの車だ)
「マスター、病気なんですか?」
「や、熱がちょっとあるだけ…」
「そんなこと言って無理して働いてると、すぐ肺炎とかなるのよ。もう若くないんだから」
「…光さんは一言多いですよ」
「弁護士ですから! 喋べってナンボよ」
マスター完全にやりこめられてる。
マスターが助手席に乗ると、光さんは運転席側に回り込んでから、私の方をじぃっと見た。
「咲良ちゃん、今から時間ある?」
「え?」
「私、この人病院まで送ってく時間はあるんだけど、付き添いまでは出来ないの。もし、時間あったら付き合ってくれない?」
マスターにも冴木さんにもお世話になってる。私は迷わずに答えた。
「いいですよ」
私がリアシートに座ると、マスターはぎょっとしたような顔で、こっちを振り返った。
「なんで御園さんが…」
「病院付き合ってくれるって。今日の報告も聞きたいし、ちょうどいいかなと思って」
「…相変らず強引ですね」
「合理的って言ってくれる?」
走り出した車の中で、私はさっきまでの透とのやりとりを話した。
致命的な失敗を犯したと悔やんでいたのに、冴木さんは私の憂いを笑い飛ばす。
「1回目から、すんなりうまくなんて行かないわよ~。そもそも実態のないものへの賠償請求でしょ? 100万請求します、はい、払います、なんて素直に応じるケース稀だから」
「…そ、そうなんですか?」
「逆の立場だったとして、咲良ちゃんだったら、、黙って払う?」
「いえ、やっぱりあれこれ調べてからでないと…」
「ほらね。そういうことよ」
冴木さんと話してると、気分が軽くなって、何でも大丈夫な気になってくる。これも話術の一つなのかな。
「今日、宮本さんと会われたんですか?」
マスターは前方から振り向いて、心配そうな声と視線を投げてくれる。
「そうなんです。けど失敗でした」
マスターに心配掛けまいと、私は明るく笑い飛ばした。
冴木さんが車を停めたのは、週末も外来受け付けてる救急病院だった。立派な門構えを見て、既にマスターはうんざりしてる。
「ほら、保険証出して、問診表書きなさいよ。それくらい出来るでしょ?」
「出来ますから、世話焼かないでいいですよ。――咲良さんも。あとは一人で平気なので、光さん、何処か最寄りの駅まで…」
「あ、私、大丈夫ですから。マスター、家までお送りします」
「良かったねえ。智ちゃん」
にまにまとほくそ笑みながら、冴木さんが言うと、マスターは端正な顔立ちをげんなりとさせて、深くため息をついた。
「…あ、あの私、帰った方がいいですか?」
待合室の椅子に腰かける前に、私はマスターに尋ねる。
「帰られた方がいいと思いますよ。こんなところで、健康なあなたが、病気でももらったらどうするんですか」
丁寧ではあるけれど、いつになく厳しい口調。けど、それは全部私の側に立った意見だった。こんな時まで、私の心配しなくていいのに。
諸々の恩を返すのは今しかない!
却って不退転の決意を固める私。
「…健康には自信あるので、大丈夫です。それに予防対策もあります」
ポーチからマスクを取り出して、耳に掛けると、マスターは諦めたように笑った。
2
あなたにおすすめの小説
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
地味で無才な私を捨てたことを、どうぞ一生後悔してください。
有賀冬馬
恋愛
「お前のような雑用女、誰にでも代わりはいる」
そう言って私を捨てたディーン様。でも、彼は気づいていなかったのです。公爵家の繁栄を支えていたのは、私の事務作業と薬草の知識だったということに。
追放された辺境の地で、私はようやく自分らしく生きる道を見つけました。無口な辺境伯様に「君がいなければダメだ」と熱烈に求められ、凍っていた心が溶けていく。
やがて王都で居場所をなくし、惨めな姿で私を追いかけてきた元婚約者。
「もう、私の帰る場所はここしかありませんから」
絶望する彼を背に、私は最愛の人と共に歩み出します。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました
鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」
そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。
王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。
私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。
けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。
華やかな王宮。
厳しい王妃許育。
揺らぐ王家の威信。
そして――王子の重大な過ち。
王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。
離縁を望んでも叶わない義妹。
肩書きを失ってなお歩き直す王子。
そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。
ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。
婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
サバ読み令嬢の厄介な婚約〜それでも学園生活を謳歌します!〜
本見りん
恋愛
療養中の体の弱い伯爵令嬢と、4つ年上の庶子の姉。
シルビア マイザー伯爵令嬢は生まれつき体が弱かった。そんな彼女には婚約者がおり、もうすぐ学園にも通う予定だったが……まさかの駆け落ち。
侯爵家との政略結婚を断れない伯爵家。それまで病弱で顔の知られていなかった妹の代わりに隠された庶子の姉フィーネがその身代わりになり学園に通うことに……。
まさかの4歳もサバを読んで。
───王立学園での昼下がり、昼食の後お喋りに花を咲かせる令嬢たち。
「───シルビア様は、本当に大人びて……いえ、……落ち着いていらっしゃるわねぇ」
「ま、まあ……。そうですかしら? うふふ?」
……そりゃ、そうですわよね。
だって本当は私、貴女方より4歳も年上なんですもの……!
今日もフィーネは儚げな笑顔(演技)で疑惑を躱しつつ、学園生活を楽しむ。しかしそんな彼女の婚約者は……。
サバ読み令嬢の、厄介な婚約の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる