婚約者にフラれたので、復讐しようと思います

紗夏

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第6章 追い詰められたネズミとネコ

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「御園さん?」

裏口の施錠をしっかりして、振り返ったマスターは、私の顔を見て、驚愕してる。

「な、なんでここ…」
「あ、えっと…」

何で、って貴方のお店に来るのに、いちいち理由必要でしょうか。
そんなことわざわざ聞くのはやっぱり、マスターにとっても、見られたくない場面だったからかな。

マスターと彼に寄り添うように立つ冴木さん。
やっぱりそういう関係だったんだ…。



「え、えっと…お邪魔しました」

反射的に、私は踵を返して、2人から遠ざかろうとする。


「御園さん!」

けど、またこの前みたいに、マスターが追っかけてきて、今度は私の二の腕をがしっと掴んだ。


「あの…絶対何か誤解してると思うんですけど」

私の腕をつかんだまま、マスターはもう一方の手を、額に当てながら言う。なんだかすごく気分悪そうだ。


「え?」

誤解って…だって、恋人同士以外に受け取りようがない。智ちゃん、光さん、なんて呼び合ってるし、お互いの仕事、罵りつつリスペクトし合ってるし。

そもそも、マスターと冴木さんがどういう関係だとしても、私には関係ない。私は復讐に燃える女なんだから、うん。


けど、マスターは必死な顔で、私に言う。


「あの人、私の叔母なんです」
「へ?」

叔母って、親の姉妹を意味するあの叔母?
中年女性を意味するおばさんでなく。


「だ、だって」

苗字違うし、年も近いし。


「私の姉が智ちゃんの母親なの。けど、私と姉さんは年が離れてて、4つしか年の変わらない甥っ子に叔母さん呼ばわりされたくないでしょ?」
「僕もいい年なんで、智ちゃん扱いされるのは、不本意なんですが」

言われてみれば、整った顔立ちとか、似てないこともない…?


「貴方が生まれた時から、そう呼んでるのよ。今更変えられないわよ。それより、病院行くわよ?」
「いいですよ、寝てれば治るし」
「病院行って、お薬処方してもらった方が、確実に早く良くなるわよ? 1週間もお休みしてごらんなさい、あんなお店、あっという間にお客さんいなくなるから」
「……」

どうやらマスターの体調不良で、お店は臨時休業だったみたい。


冴木さんに言いくるめられて、マスターは店の裏の駐車場に停めてあった白いSUVに乗り込んだ。あれ、レンジローバー…(高い、らしい。お父さんの憧れの車だ)


「マスター、病気なんですか?」
「や、熱がちょっとあるだけ…」
「そんなこと言って無理して働いてると、すぐ肺炎とかなるのよ。もう若くないんだから」
「…光さんは一言多いですよ」
「弁護士ですから! 喋べってナンボよ」

マスター完全にやりこめられてる。


マスターが助手席に乗ると、光さんは運転席側に回り込んでから、私の方をじぃっと見た。


「咲良ちゃん、今から時間ある?」
「え?」
「私、この人病院まで送ってく時間はあるんだけど、付き添いまでは出来ないの。もし、時間あったら付き合ってくれない?」

マスターにも冴木さんにもお世話になってる。私は迷わずに答えた。

「いいですよ」

私がリアシートに座ると、マスターはぎょっとしたような顔で、こっちを振り返った。

「なんで御園さんが…」
「病院付き合ってくれるって。今日の報告も聞きたいし、ちょうどいいかなと思って」
「…相変らず強引ですね」
「合理的って言ってくれる?」

走り出した車の中で、私はさっきまでの透とのやりとりを話した。



致命的な失敗を犯したと悔やんでいたのに、冴木さんは私の憂いを笑い飛ばす。

「1回目から、すんなりうまくなんて行かないわよ~。そもそも実態のないものへの賠償請求でしょ? 100万請求します、はい、払います、なんて素直に応じるケース稀だから」
「…そ、そうなんですか?」
「逆の立場だったとして、咲良ちゃんだったら、、黙って払う?」
「いえ、やっぱりあれこれ調べてからでないと…」
「ほらね。そういうことよ」


冴木さんと話してると、気分が軽くなって、何でも大丈夫な気になってくる。これも話術の一つなのかな。


「今日、宮本さんと会われたんですか?」

マスターは前方から振り向いて、心配そうな声と視線を投げてくれる。

「そうなんです。けど失敗でした」

マスターに心配掛けまいと、私は明るく笑い飛ばした。


冴木さんが車を停めたのは、週末も外来受け付けてる救急病院だった。立派な門構えを見て、既にマスターはうんざりしてる。


「ほら、保険証出して、問診表書きなさいよ。それくらい出来るでしょ?」
「出来ますから、世話焼かないでいいですよ。――咲良さんも。あとは一人で平気なので、光さん、何処か最寄りの駅まで…」
「あ、私、大丈夫ですから。マスター、家までお送りします」
「良かったねえ。智ちゃん」

にまにまとほくそ笑みながら、冴木さんが言うと、マスターは端正な顔立ちをげんなりとさせて、深くため息をついた。


「…あ、あの私、帰った方がいいですか?」

待合室の椅子に腰かける前に、私はマスターに尋ねる。


「帰られた方がいいと思いますよ。こんなところで、健康なあなたが、病気でももらったらどうするんですか」

丁寧ではあるけれど、いつになく厳しい口調。けど、それは全部私の側に立った意見だった。こんな時まで、私の心配しなくていいのに。

諸々の恩を返すのは今しかない!
却って不退転の決意を固める私。


「…健康には自信あるので、大丈夫です。それに予防対策もあります」

ポーチからマスクを取り出して、耳に掛けると、マスターは諦めたように笑った。

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