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第8章 万事解決には程遠い
②
しおりを挟むしーーーーーーーん。
そんな擬音語が聞こえてきそうなくらい、事務所の応接室は静まり返った。
やば。派手にやり過ぎた。後悔しても、遅い。
とりあえず乗り出してた上半身を戻そ。そう思った瞬間、テーブルの上に、ぽたっと何かの雫が落ちた。
ぎゅって身を縮こまらせて、声を殺して、美雪が泣いてた。
私、ばかは嫌いだし、この子のしたことも、きっと一生許せない…けど。
「透」
スマホを取り出して、私はその中からブクマしてた美雪のインスタのページを開いた。
うわ、以前に奈津と見た時より、写真が増えてる! エコー写真が胎児がでかくなったせいで、画面に収まりきらず、却って意味の分からないシルエットに!
…でも、その意味のわからない写真の横に、美雪が必ずちょっとずつ文章を添えてる。
○月×日検診。10w2d。順調に大きくなってる。体重は平均よりちっちゃいみたい。私が悪阻でご飯食べられてないからですか、って聞いたら、違います、って言われた、良かった。
○月×日。下腹部出血。怖くなってすぐに病院に行った。赤ちゃんは元気って言われたけど、ちょっと私が疲れてるみたい。点滴を打ってもらう。人生初めて。なかなか終わらなくて、寝ちゃった。でも、終わったら元気100倍!…は大袈裟だけど、5倍くらいにはなった。
透くんの赤ちゃん、大事に守らなきゃ。そのためには、私がしっかりしないと!
拙い文章だけど。でも単純な分、美雪の言葉には迷いはない。
さらっと読んでから、透にスマホを渡す。
「これ読んでも、あんたは自分の子じゃないって疑うの? 美雪はちゃんと母になろうとしてるんだよ? あんたは、何やってんの? 透。それとも、赤ちゃん生まれて、DNA鑑定でもしてもらってからでないと、あんたは父親にはなれないの?」
「……」
透はぶすっとした顔で、私にスマホを突っ返して来た。
「美雪、ごめん」
そして美雪にも不愛想ながら、謝罪する。
「…み、御園さん、あり…がと…ございます…っ。私、あなたのこと嫌な人だって…思ってたけど、いい人だったんですね」
一言多いし。別にあんたに『いい人』言われても、嬉しくないし。
そもそも接触もなかった私のこと、どうして…。
「――ねえ」
「はい」
「私のこと嫌な奴って思ってた…ってどうして?」
本人に面と向かって聞くことじゃないのはわかっていたけれど、引っかかることがあって、どうしても確かめずにはいられなかった。
私の質問に、明らかに挙動不審になる人物がいる。そいつをちらちら目の端っこで追っかけながら、私は更に質問を重ねた。
「前にも課長とデキてるとか、何とか言ってたじゃない…? あれって…誰から聞いたの?」
「さ、咲良、今、そんな話は…」
「なんで! 慰謝料減額の理由にしてるんだから、立派に話し合いの案件のひとつでしょ?」
横槍入れてきた透をぴしゃっと封じ込める。
もう答えはわかりきってるな、こりゃ。
美雪はきょとんとしながらも、おずおずと口を開く。梵さんも冴木さんも、彼女の言葉の行方を黙って見守る。
「…透さんが言ってましたけど…違うんですか?」
…ああもう。情状酌量の余地なし。
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