婚約者にフラれたので、復讐しようと思います

紗夏

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第8章 万事解決には程遠い

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しーーーーーーーん。

そんな擬音語が聞こえてきそうなくらい、事務所の応接室は静まり返った。

やば。派手にやり過ぎた。後悔しても、遅い。

とりあえず乗り出してた上半身を戻そ。そう思った瞬間、テーブルの上に、ぽたっと何かの雫が落ちた。


ぎゅって身を縮こまらせて、声を殺して、美雪が泣いてた。
私、ばかは嫌いだし、この子のしたことも、きっと一生許せない…けど。


「透」

スマホを取り出して、私はその中からブクマしてた美雪のインスタのページを開いた。


うわ、以前に奈津と見た時より、写真が増えてる! エコー写真が胎児がでかくなったせいで、画面に収まりきらず、却って意味の分からないシルエットに!

…でも、その意味のわからない写真の横に、美雪が必ずちょっとずつ文章を添えてる。


○月×日検診。10w2d。順調に大きくなってる。体重は平均よりちっちゃいみたい。私が悪阻でご飯食べられてないからですか、って聞いたら、違います、って言われた、良かった。

○月×日。下腹部出血。怖くなってすぐに病院に行った。赤ちゃんは元気って言われたけど、ちょっと私が疲れてるみたい。点滴を打ってもらう。人生初めて。なかなか終わらなくて、寝ちゃった。でも、終わったら元気100倍!…は大袈裟だけど、5倍くらいにはなった。
透くんの赤ちゃん、大事に守らなきゃ。そのためには、私がしっかりしないと!


拙い文章だけど。でも単純な分、美雪の言葉には迷いはない。
さらっと読んでから、透にスマホを渡す。


「これ読んでも、あんたは自分の子じゃないって疑うの? 美雪はちゃんと母になろうとしてるんだよ? あんたは、何やってんの? 透。それとも、赤ちゃん生まれて、DNA鑑定でもしてもらってからでないと、あんたは父親にはなれないの?」
「……」

透はぶすっとした顔で、私にスマホを突っ返して来た。

「美雪、ごめん」

そして美雪にも不愛想ながら、謝罪する。


「…み、御園さん、あり…がと…ございます…っ。私、あなたのこと嫌な人だって…思ってたけど、いい人だったんですね」

一言多いし。別にあんたに『いい人』言われても、嬉しくないし。
そもそも接触もなかった私のこと、どうして…。


「――ねえ」
「はい」
「私のこと嫌な奴って思ってた…ってどうして?」

本人に面と向かって聞くことじゃないのはわかっていたけれど、引っかかることがあって、どうしても確かめずにはいられなかった。
私の質問に、明らかに挙動不審になる人物がいる。そいつをちらちら目の端っこで追っかけながら、私は更に質問を重ねた。


「前にも課長とデキてるとか、何とか言ってたじゃない…? あれって…誰から聞いたの?」
「さ、咲良、今、そんな話は…」
「なんで! 慰謝料減額の理由にしてるんだから、立派に話し合いの案件のひとつでしょ?」

横槍入れてきた透をぴしゃっと封じ込める。
もう答えはわかりきってるな、こりゃ。

美雪はきょとんとしながらも、おずおずと口を開く。梵さんも冴木さんも、彼女の言葉の行方を黙って見守る。


「…透さんが言ってましたけど…違うんですか?」


…ああもう。情状酌量の余地なし。

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