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第8章 万事解決には程遠い
③
しおりを挟む「ありがとうございました」
冴木さんに言って、私は深々と頭を下げた。
陽当たりが良すぎて、夏場は気温が上がり過ぎるとかで、今日は遮光性のカーテンが引かれ、昼間なのに室内は薄暗い。
あのごたごたの交渉から1か月。
今日やっと、透から慰謝料が満額振り込まれてきたのだ。ボーナス日の次の日ってとこが、財布事情丸見えで笑えるけど、お金に罪はない。
「本当にお世話になりました。これ今回の依頼料です」
私はさっき銀行で降ろして来たお金が入った封筒を冴木さんに渡した。
「ありがとう。なんか悪いわね。私への報酬払ったら、たいして残らなくなっちゃうでしょ」
「いえ、そんなことは…それに、金額の問題ではなかったので。やっとこれで、悪夢から目覚められた、って感じなんです」
「うん、すっきりした顔してる、咲良ちゃん」
そう言われて、つい顔が緩んでしまう。
そして私は2週間前のことを思い出していた――
――あの日、2人の女の間で都合良く立ち回ってたことがバレて。
「――透…?」
「透くん…?」
前方からとサイド。二人から名を呼ばれて、透はもう学校で立たされてる生徒みたいに、泣き出しそうな情けない顔になってた。
「どういうこと…?」
「彼女さんに浮気されてるかも、って言ってましたよね?」
「か、かもしれない…ってだけだし」
「それで美雪の同情引いたってこと? で、更にそれをネタに慰謝料減額要求してきたってこと? せこっ」
「サイテー…」
2人の女から口々に責められて、透は更にちっちゃくなって、「ごめんなさい、ごめんなさい」繰り返した。
示談書もその場で書かせて、判を押してもらって、一応私と透の交渉は成立。
だけど、当然だけど美雪と透はその後もひと悶着あったみたい。
美雪の仕事の問題だ。
美雪は寿退社を決め込んでいたのに、透の方から「収入が減りそうだし、私への慰謝料は親からの借金で払ってるから、いずれ返さなきゃいけない。だから君も働いて欲しい」って懇願されて、また揉めたとか。
最初は別れ話も美雪の方から出たくらいなんだけど、子どものこともあるから、当たり前だけど別れられなくて、結局渋々結婚することにした――ってのは、経理の奈津が美雪と同期の子から小耳にはさんだ話を教えてくれた。
そりゃ、あんな情けないとこ見せられた上にそんなこと言われたら、、百年の恋も冷めるわ。
しかもこんだけばたばたの結婚で、美雪はただでさえ、会社に残りにくいのに…って、同期の子に愚痴をこぼしてるみたいだけど、はっきり言って自業自得だし。
私としては、とっととやめて欲しかったけど、美雪を通して、透のその後がわかるのは、ちょっと楽しみ。気分はすっかり被害者から傍観者だ。
私と透はもう職場が違うから、接点なくなってわからないけれど、どうもあの日から、完全に美雪の方が立場が上になっちゃったらしい。
他人事ではあるけれど、この先あの2人大丈夫なのか? って心配になっちゃう。
まあ、もう私には関係ないんだけれど。
「この後はどうするの?」
「今まで通りに仕事に邁進します。縁遠くなりそうだけど」
「そう?」
冴木さんは私の言葉に首を傾げて、思わせぶりにふふっと笑った。
どうやら私の身に起きた変化を、既に知ってるらしい。
冴木さんからの指摘に、私は赤くなってしどろもどろになってしまう。
「いや…その…あれは…」
透からの婚約破棄もびっくりしたけど、あの破壊力はそれ以上だった。
実は、3日前、突然マスターにプロポーズされてしまったのだ。
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