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第8章 万事解決には程遠い
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しおりを挟むあの日――いつもみたいにカウンター席に座って、コーヒーを注文して、マスターが出してくれたそれを、当たり前に受け取って、カップに口をつけた。
今日はハワイコナ。まろやかでおいしい。
「咲良さんは本当においしそうに飲みますよね」
「え、そうですか?」
やだな、食い意地…とは言わないか、この場合なんだ?
私がずれたことを考えてると、マスターはやたら店内をあちこち見回して、他のお客さんの動向を確かめて、咳払いを1つ、コホンとしてから切り出した。
「良かったら…なんですが」
「はい」
「毎日、僕が咲良さんのためにコーヒー淹れたいんですけど」
「え? それは毎日ここに通え…的な?」
癒しとおいしいコーヒーを求めて、3日にあげず来てるけど、それじゃ足りなかったかな。
けど、私のズレた質問に、マスターは眉間に皺を寄せて、苦く笑う。
「違いますよ。そうじゃなくて…」
「はい」
私のプロポーズにマスターは、じぃっと私の顔を覗き込んでくる。やだな、そんなに見られたら恥ずかしいんだけど。もう夜でメイクだって崩れてるし。
「つまりその…まあプロポーズだったんですけど」
「!!!!」
カウンター席には背もたれがなくて、私はそのまま背後に倒れて行きそうになった。
「咲良さん!」
慌てたマスターがカウンターの脇から、私の背後に回って、身体を支えてくれて、事なきを得た。
「…す、すみません。そんなに嫌がられるとは思ってなくて」
「いや…じゃなくて、びっくりしただけです」
私がそう言うと、マスターはほっとしたのか、大きく息をついた。
「智ちゃんらしぃ~~~~」
マスターからはなんて聞いていたのか、冴木さんは私の話を聞いて、お腹を抱えて笑い出した。
「だってだってまさか、カウンター越しにプロポーズされるなんて思わないですよねえ」
「確かに! なんだってそんなところで」
「私が聞きたいですよ」
「うんうん。で? どうするの?」
「マスターは好きなんですけど」
「うん」
「恋愛感情って言われると、またちょっと違うような気がして…。それに今はまだ、結婚なんて考えられないし。それに、マスターのこと、良く知らないし」
「今度は失敗したくないもんねえ」
「そうですよ! だから…まあお付き合い、から?」
一応悩みに悩んだ末の結論を告げると、冴木さんの方がびっくりしてた。
「え! いいの? 10も年上のオジサンなのに!」
「だ…ダメですか?」
「いや咲良ちゃんがいいなら、おばちゃんは嬉しいよ」
「今日これから…マスターの店に行くことになってて…じゃあ、失礼しますね」
冴木さんに捕まると長そうだから、私は適当に切り上げて、事務所を出た。
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