39 / 41
エピローグ
1
しおりを挟む「あ、あの…」
「はい」
「これから、どうしましょう」
「どうしましょうか」
「マスター、好きなものって何ですか?」
「…咲良さん]
「はい」
「まずはマスターってやめてほしいんですけど」
「はっ! …そ、そうですよね! も、森さん?」
「それも、固くないですか?」
「固いです。じゃあ…智之さん?」
マスターはちょっとまだ不満気だったけど、とりあえず納得してくれたみたいで、頷いた。
マスターと付き合うことになって今日が初めてのデートの日。
けど。会話も呼び方もぎこちないったらありゃしない。いい大人なのに。
いや、いい大人だからかな…。
透ともなんだかんだで3年も付き合ってたから、恋愛の始め方を完全に忘れてる。
「映画とか行きます?」
「咲良さん、どんなのが好きですか?」
「ホラー以外は観ます!」
「あ…」
マスターが言葉に詰まるから、ホラー映画押しなのが、わかってしまった。今、夏だし、無駄に恐怖モノ多いんだよねえ。う、でも苦手。夜トイレいけなくなる。
目的地は定めないで、待ち合わせの時間と場所だけ決めて、会うことにしたから、なんだかもうぐだぐだだなあ。
でもこのぐだぐだ感が、不思議とイライラしない。
「私、智之さんと2人で、ゆっくり話せるところだったら、何処でもいいんですけど」
「じゃあ映画はなしですね」
「そうですね。カフェでも行きます?」
「僕以外の人が淹れたコーヒーを咲良さんが飲んで『おいしい』とか満面の笑みで言われるのは、ちょっと面白くないんですけど」
ぼそっと言うマスターが、子どもっぽくて思わず吹き出してしまった。
「どうせ、大人げないですよ」
「あ、すみません。可愛かったから」
「可愛いって…」
「あ、すみません。マスターいつも隙がないから…」
「マスター?」
「間違えました~! 智之さん!」
お互い距離を掴み損ねて、かみ合ってないよ~。
やっぱり難しいのかなあ。そう思った時だった。
「僕の家で良ければ…」
「え!」
お邪魔していいのかな。過剰に反応してしまったのを、またマスターは誤解してしまう。
「いや、その! 邪な気持ちがあるわけじゃなく…いや全くゼロかっていうと、それも嘘になりますが」
やばい、必死過ぎるマスターが可愛い、可愛すぎる。でもまた可愛い言ったら、拗ねられそう。
どうしよう。こみあげてくる笑いが止まらない。
「いいですよ」
「え?」
「智之さんの家、行きましょ?」
パッと手出すと、マスターが握ってくれた。ちょっとくすぐったい。
でも、嬉しくて、私とマスターは手を繋いだまま、次の一歩を踏み出した。
ここから先、どうなるかなんてわかんない。また誰かを好きになるのが、怖くない、って言ったら嘘になる。
だって、私、一度地獄見てるから。
婚約を破棄されて、失意と絶望のどん底で、自分が世界中で一番不幸だと思ってた。
けど。
人生って何が起こるかわからない。わからないから、面白い。
透との婚約はダメになってしまったけれど、私は結局何も失ってないし、不幸でもない。
「智之さん」
「はい」
「プロポーズなんですけど…じっくり考えてからでいいですか?」
「もちろん、ゆっくりでいいですよ」
鷹揚に構えて答えてから、マスターはそれでも一抹の不安を覚えたのか、「ちなみにどれくらい?」と具体的な時間経過を尋ねてきた。
「…最低1年から…3年くらい?」
「えっ」
自分の見積もりより長かったのか、焦った声が出る。
「嘘です」
「焦ってるつもりはないんですが、なるべく早いと嬉しいです」
「はい」
くすくす笑いながら私は頷いた。――きっとそう遠くないだろう未来を予想しながら。
(完)
0
あなたにおすすめの小説
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
地味で無才な私を捨てたことを、どうぞ一生後悔してください。
有賀冬馬
恋愛
「お前のような雑用女、誰にでも代わりはいる」
そう言って私を捨てたディーン様。でも、彼は気づいていなかったのです。公爵家の繁栄を支えていたのは、私の事務作業と薬草の知識だったということに。
追放された辺境の地で、私はようやく自分らしく生きる道を見つけました。無口な辺境伯様に「君がいなければダメだ」と熱烈に求められ、凍っていた心が溶けていく。
やがて王都で居場所をなくし、惨めな姿で私を追いかけてきた元婚約者。
「もう、私の帰る場所はここしかありませんから」
絶望する彼を背に、私は最愛の人と共に歩み出します。
殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ
柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」
「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」
濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。
やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
サバ読み令嬢の厄介な婚約〜それでも学園生活を謳歌します!〜
本見りん
恋愛
療養中の体の弱い伯爵令嬢と、4つ年上の庶子の姉。
シルビア マイザー伯爵令嬢は生まれつき体が弱かった。そんな彼女には婚約者がおり、もうすぐ学園にも通う予定だったが……まさかの駆け落ち。
侯爵家との政略結婚を断れない伯爵家。それまで病弱で顔の知られていなかった妹の代わりに隠された庶子の姉フィーネがその身代わりになり学園に通うことに……。
まさかの4歳もサバを読んで。
───王立学園での昼下がり、昼食の後お喋りに花を咲かせる令嬢たち。
「───シルビア様は、本当に大人びて……いえ、……落ち着いていらっしゃるわねぇ」
「ま、まあ……。そうですかしら? うふふ?」
……そりゃ、そうですわよね。
だって本当は私、貴女方より4歳も年上なんですもの……!
今日もフィーネは儚げな笑顔(演技)で疑惑を躱しつつ、学園生活を楽しむ。しかしそんな彼女の婚約者は……。
サバ読み令嬢の、厄介な婚約の物語
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる