6 / 24
#6 悪魔の六種族
しおりを挟む
四苦八苦して地下書庫へ続く階段を見つけたとき、時間は正午に差し掛かろうとしていました。もし鏡を見たら、きっと私の顔は相当げんなりしているでしょう。
階段はお城の隅にありました。そのせいか、階段を降るつれて肌に纏わり付くような陰気な感じがして私は身震いしました。心なしか壁にかかるランプも陰気さに飲まれて鈍重に揺らめいている気がします。
「地下書庫に何があるのでしょうか?」
びくびくしながら重く大きな扉を開けると、とんでもない広さの書庫が現れました。立ち並ぶ書棚も私の背丈の何倍もあります。
そして、その一番奥の書斎机――私の位置からだと点にしか見えません――にマスターが頬杖をついて私のことを待っていました。
私が急いで駆け寄ると、マスターは読んでいた本をゆっくりと閉じました。
「遅れてしまい申し訳ございません」
「謝ることは無い。初めての場所に迷わず来いというのが無理な話だ。むしろ久々にゆっくりと読書ができた。礼を言う」
「え……いやいやいや! そんな! 滅相もございません!」
これは一体何の間違いでしょう! 昨日のマスターとは大違いです。
「我が城を探索できたのではないか?」
「は、はい、それはもう!」
「では次から遅れることはないな」
「……」
そういうことでしたか。マスターはあえて情報を少なくすることで、お城の間取りを体で覚えさせようとしたみたいです。実際、かなり覚えられました。ほぼ半日の間お城中を駆けずり回っていましたからね。
「では本題に入ろう。そこに掛けるがよい」
マスターが机に向かうように置かれた椅子を指しました。そして、手に持っていた本を私に寄越しました。
題名は『悪魔大全』とあります。著者が掠れて読めませんが、紙の状態から相当古い本だということが分かりました。
「それは、昔の人間がおこがましくも我々悪魔のことを知ろうと書き記した書物だ。人間風情にしてはこれが中々面白く書かれている。しばらくはこれを教科書に悪魔について学ぶがよい」
「はい」
ずっしりと重い本を開くとすべて昔の言葉で書かれていました。幸い、私は教育係から古典文学について教わっていましたので、恐らく問題なく読めるはずです。
とはいえこれだけ分厚いのですから読むだけでも相当時間がかかりそうです。内容を覚えるとなると尚更時間がかかるでしょう。
「今日は我ら悪魔という種族について軽く教えてやろう」
「悪魔……」
改まった態度に思わず唾を飲みます。
「して、貴様は悪魔をどれくらい知っておるのだ?」
「ええと、お伽噺ではよく国を傾ける存在として登場していました。それ以上のこととなると……ちょっと」
「ふん、貴様でその程度となると、今の人間どももその程度しか知らないとみていいだろう。まあ、これが時代の流れという奴か。よし、その本の六ページを開け」
「開きました」
「なんて書いてある?」
「『悪魔の種類』について書かれています」
私がすべてを読み上げようとするのをマスターは手で遮り、
「そうだ。悪魔と一口に言えども、およそ六種類の種族に分類される。序列の上から順にマリッド、イフリート、シャイターン、ジン、ジャーン、インプだ。これより下の序列の悪魔もいることにはいるが、そんな有象無象など考えなくていい」
と続けました。
私の中で、悪魔とは国を滅ぼす者というイメージだったので、序列があったことに驚きです。しかも六種族も。ということはつまり、序列の高い悪魔はより簡単に国を滅ぼせるということでしょうか?
「あの、悪魔はインプでも国を滅ぼせるのでしょうか?」
「いや、国を滅ぼせるほどの力を持っているのはイフリート以上だ。インプなら精々人間一人を破滅させるくらいだろう」
「それでも十分過ぎますよ」
「そうか? インプ程度なら今の貴様でも使役できるぞ?」
「ええ!?」
私がインプを使役? それは何というか……非常に魅力的な話です。人でなくなった今、少しくらい悪魔らしいことをしてもいいのでは?
「嬉しそうだな」
「い、いえ……別にインプをペットにしたいだなんて思っていませんよ?」
「……」
マスターは何か言いたげな様子でしたが、結局何も言わず教科書を指さしました。
「話を続ける。次の項目を読んでみろ」
「はい。『各序列ごとの有名な悪魔』について書かれています。ええっと……『マリッドで有名なのは次の五体である。まずはグリード・ディラン』……え?」
私がマスターを見ると、マスターはニヤリと笑います。
「これが我がこの本を好きな理由だ。他のマリッド共を差し置いて我の名が記されている。フハハッ!」
「マリッド……え?」
「そうだ、いかにも我はマリッドのグリード・ディランだ」
どうやら私のマスターは世界最強クラスの悪魔なようです。
階段はお城の隅にありました。そのせいか、階段を降るつれて肌に纏わり付くような陰気な感じがして私は身震いしました。心なしか壁にかかるランプも陰気さに飲まれて鈍重に揺らめいている気がします。
「地下書庫に何があるのでしょうか?」
びくびくしながら重く大きな扉を開けると、とんでもない広さの書庫が現れました。立ち並ぶ書棚も私の背丈の何倍もあります。
そして、その一番奥の書斎机――私の位置からだと点にしか見えません――にマスターが頬杖をついて私のことを待っていました。
私が急いで駆け寄ると、マスターは読んでいた本をゆっくりと閉じました。
「遅れてしまい申し訳ございません」
「謝ることは無い。初めての場所に迷わず来いというのが無理な話だ。むしろ久々にゆっくりと読書ができた。礼を言う」
「え……いやいやいや! そんな! 滅相もございません!」
これは一体何の間違いでしょう! 昨日のマスターとは大違いです。
「我が城を探索できたのではないか?」
「は、はい、それはもう!」
「では次から遅れることはないな」
「……」
そういうことでしたか。マスターはあえて情報を少なくすることで、お城の間取りを体で覚えさせようとしたみたいです。実際、かなり覚えられました。ほぼ半日の間お城中を駆けずり回っていましたからね。
「では本題に入ろう。そこに掛けるがよい」
マスターが机に向かうように置かれた椅子を指しました。そして、手に持っていた本を私に寄越しました。
題名は『悪魔大全』とあります。著者が掠れて読めませんが、紙の状態から相当古い本だということが分かりました。
「それは、昔の人間がおこがましくも我々悪魔のことを知ろうと書き記した書物だ。人間風情にしてはこれが中々面白く書かれている。しばらくはこれを教科書に悪魔について学ぶがよい」
「はい」
ずっしりと重い本を開くとすべて昔の言葉で書かれていました。幸い、私は教育係から古典文学について教わっていましたので、恐らく問題なく読めるはずです。
とはいえこれだけ分厚いのですから読むだけでも相当時間がかかりそうです。内容を覚えるとなると尚更時間がかかるでしょう。
「今日は我ら悪魔という種族について軽く教えてやろう」
「悪魔……」
改まった態度に思わず唾を飲みます。
「して、貴様は悪魔をどれくらい知っておるのだ?」
「ええと、お伽噺ではよく国を傾ける存在として登場していました。それ以上のこととなると……ちょっと」
「ふん、貴様でその程度となると、今の人間どももその程度しか知らないとみていいだろう。まあ、これが時代の流れという奴か。よし、その本の六ページを開け」
「開きました」
「なんて書いてある?」
「『悪魔の種類』について書かれています」
私がすべてを読み上げようとするのをマスターは手で遮り、
「そうだ。悪魔と一口に言えども、およそ六種類の種族に分類される。序列の上から順にマリッド、イフリート、シャイターン、ジン、ジャーン、インプだ。これより下の序列の悪魔もいることにはいるが、そんな有象無象など考えなくていい」
と続けました。
私の中で、悪魔とは国を滅ぼす者というイメージだったので、序列があったことに驚きです。しかも六種族も。ということはつまり、序列の高い悪魔はより簡単に国を滅ぼせるということでしょうか?
「あの、悪魔はインプでも国を滅ぼせるのでしょうか?」
「いや、国を滅ぼせるほどの力を持っているのはイフリート以上だ。インプなら精々人間一人を破滅させるくらいだろう」
「それでも十分過ぎますよ」
「そうか? インプ程度なら今の貴様でも使役できるぞ?」
「ええ!?」
私がインプを使役? それは何というか……非常に魅力的な話です。人でなくなった今、少しくらい悪魔らしいことをしてもいいのでは?
「嬉しそうだな」
「い、いえ……別にインプをペットにしたいだなんて思っていませんよ?」
「……」
マスターは何か言いたげな様子でしたが、結局何も言わず教科書を指さしました。
「話を続ける。次の項目を読んでみろ」
「はい。『各序列ごとの有名な悪魔』について書かれています。ええっと……『マリッドで有名なのは次の五体である。まずはグリード・ディラン』……え?」
私がマスターを見ると、マスターはニヤリと笑います。
「これが我がこの本を好きな理由だ。他のマリッド共を差し置いて我の名が記されている。フハハッ!」
「マリッド……え?」
「そうだ、いかにも我はマリッドのグリード・ディランだ」
どうやら私のマスターは世界最強クラスの悪魔なようです。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる