財産目当てに殺された私の魂は悪魔公に拾われました。

鉛風船

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#19 旅路にはスパイスを

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 馬車というのは凄いもので、人間が押してもうんともすんとも言わない荷物を、いとも簡単に運んでくれます。しかもそれにプラスして人間も運んでいるのだから尚更です。

 しかしながら、悪魔はもっと凄いのです。

 悪魔のジンが擬態した馬は、馬八頭分の力があります。つまり八馬力です。ですので、今回用意した四頭馬車は一台で三十二馬力、それを二台使うので六十四馬力になります。

 足の速いこと速いこと。

 あっという間に道程の半分まで来てしまいました。本来なら丸々一日かけてかかる道のりを半日で来てしまったのです。子爵をはじめ付き人や護衛の私兵も目を丸くしています。

 馭者ですか?

 彼なら既に私が魔法をかけて言いなりにさせているので何も言いません。

「この馬はどうやって手配したんだ?」

 子爵が興奮気味に私へ尋ねます。

「これは私の故郷にしか生息していない馬になります。足の速さが普通の馬と比べて二倍くらいあります」

「二倍も!?」

 本当は八倍ですが、そこは適当に誤魔化しましょう。ここにきて変に怪しまれたくありません。

「今回の休暇のために特別にご用意しました」

「どうしてもっと早くこの馬のことを教えてくれなかった? これがあれば運輸業の方にも進出できるぞ」

「申し訳ございません」

「いや、いいんだ。今日は休暇だからな。仕事のことを考えるのは帰って来てからにしよう」

 今日は休暇当日。私は馬に擬態させたジンの牽く四頭馬車に揺られながら、車窓に映る景色に目を奪われつつ子爵の冗談に合わせていました。

「この速さで驚くほど揺れが少ないな」

「はい、この馬のために特別に荷台を改修させました」

「そこまで手配しているのか。相当金がかかったのではないか?」

「気になりますか?」

「聞かないでおこう。これくらいの出費を気にしては僕の器が知れるからね」

 子爵は手を振ります。

 それからしばらくしていよいよ湖畔が近付いてきたとき、馭者が馬車の速度を緩め始めました。そして馭者台と荷台を繋ぐ小窓から馭者が顔を覗かせます。

「旦那様。この先路肩に馬車が止まっています」

「馬車?」

「三人の男女がこちらに手を振っていますが如何しましょう?」

「どんなみなりだ?」

「一人は男です。商人の格好をしています。後の二人は女です。こちらは商人の家族でしょうね」

「そうか。馬車が壊れたのかもしれないな。話を聞いて助けが必要なら助けてやれ」

「かしこまりました」

 そうして私たちを乗せた馬車は件の馬車の前で止まり、子爵が顔を出します。

「ランチマネー子爵!?」

「ああ、如何にも。なにがあった?」

「それが馬車の車軸が壊れたみたいで、立ち往生しているのです」

 三人は今しがたまで自分で修理していたようで、額には大粒の汗を浮かべています。

「そうか。おいお前たち! 彼らの修理を手伝ってやれ!」

「「かしこまりました」」

 子爵の号令に合わせて護衛として連れてきた四人の兵士が後ろの馬車から飛び出してくると、一列に整列して商人の前に並びました。

「そんな滅相もございません! 子爵のお手を煩わせるなど」

「気にするな。多少の遅れなどむしろ本来の到着予定時間に戻るだけだ」

 こちらの事情を知らない商人は頭上に疑問符を浮かべながら、

「あ、ありがとうございます」

 と言いました。

 車窓から顔を引っ込めた子爵は大きな欠伸をして足を伸ばします。

「せっかく休暇が長くなるのにいいんですか?」

「構わないさ。ここで休めばいい。修理が終わったら教えてくれ。僕はここで寝る。イェスたちも彼らを手伝いなさい」

「わかりました」

 その時でした。外から叫び声が上がりました。

 私たちが慌てて外に出ると、そこには倒れ伏す四人の兵士とニタニタと笑う商人、そしていつの間に現れたのか十人以上の荒くれ者が馬車を取り囲んでいたのです。

「あんたがランチマネー子爵かい?」

「ああ、そうだ」

「ちょっくら俺たちに付き合ってもらうぜ」
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