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#22 試練
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「試練は簡単です。この牢屋の中で一か月の間魂の所有権を手放さないでください」
私は椅子に座りながら足を組みました。
「魂の所有権?」
「はい。『悪魔に魂を売るな』ということです」
「なんだ、それだけか」
「ええ、それだけです」
「ふははっ!」
子爵が不敵に笑います。そして鉄格子の前までつかつかと来ると、両手で格子をがっちり掴みました。
「あんまり俺を舐めるなよ、悪魔風情が!」
そこにいたのはそれまでの温厚で知的なランチマネー子爵ではなく、目的のために手段を選ばないどう猛な野獣のような男でした。
「ふふふ、やっと本性を現しましたね。私、そっちの方が好感が持てます」
「ほざけ!」
子爵が怒鳴ります。
「試練を始める前に一つ言わなければならないことがあります」
「なんだ?」
「あなたがここで一か月間生活するにあたり、私は必要なものすべてをあなたに提供することを約束します」
「……簡単過ぎる。裏があるな?」
「ご名答。ただしそのすべてに値札が付いています」
「やっぱりな」
こうして試練が始まりました。
◆◇
一日目
◆◇
次の日、私が地下牢へ行くと子爵は藁のベッドにこちらを向いて横臥していました。
「おはようございます。気分はどうですか?」
「悪くない。初めて藁のベッドで寝たが癖になる寝心地だ」
「それはよかったです」
「喉が渇いた。水をくれ」
子爵が体を起こしました。
「もちろんです。一杯金貨五十枚いただきます」
「……なるほどな。試練というのはそういうことか」
「はい」
「金貨の五十枚くらいくれてやる。俺には腐るほどの金があるからな」
「私を殺して奪った金でしょう?」
「そうだったかな?」
そう言うと、子爵は懐から小切手帳を取り出し、金額と署名を書き込みそれを切り離して私に投げて寄越しました。
一つ言っておきますが、金貨はたった一枚でもかなりの価値があります。農民なら四人家族で二か月は暮らせます。
二年前、エコーズ家はおよそ金貨八千枚の資産がありましたから、現在我が家を吸収したランチマネー子爵の総資産は金貨一万枚はくだらないでしょう。
「お水をどうぞ。痺れるくらいに冷やしておきました」
私は、魔法でコップ一杯の水を発現させ、鉄格子の中に置きました。
「毒は入っていないだろうな?」
「飲んでみればわかります」
「食えない奴め」
こうしてみるとどちらが悪魔かわからなくなります。一応私には角としっぽがありますが、それにしたって子爵の口調の荒々しさは、ジンやシャイターンを彷彿とさせます。
子爵は結露滴るコップを荒々しく掴むとあっという間に飲み干してしまいました。
◆◇
二日目
◆◇
子爵は牢の中を検分していました。間取りは真四角とても単純で、調度品は藁のベッドと小さな書き物机しかありません。
床や壁を叩いて強度の低い場所を探しているようですが、そもそもここはただの地下牢ではありません。魔法で別次元に隔離させた空間なのです。
ですので、どれだけ脱獄を企てようと無意味なのです。
「脱獄はあきらめた方が賢明ですよ」
「だろうな」
子爵は立ち止まり書き物机を椅子代わりに腰掛けました。
何か考えているようです。
「必要なものはありますか?」
「トイレがいるな」
子爵が顔を上げました。
「でしたら王宮で使われている最高級品をご用意できます」
「そんなのはいらない。一番安いトイレでいい」
「トイレはすべて一律のお値段です」
「いくらだ?」
「金貨二千枚になります」
「ふざけんな!」
子爵が私に詰め寄ります。
「これは一か月を通して使うことができます。ですのでこの値段になります」
◆◇
三日目
◆◇
私がいつものように地下牢へ向かうと、子爵は一日目と同じようにベッドに寝転んでいました。
「この様子だと食事もべらぼうな値段なんだろ?」
子爵が腹をさすりながら言いました。
「『べらぼう』と感じるかどうかはその人の置かれた状況によるでしょう?」
「一理あるな。俺の命より安い」
子爵が天井を仰ぎます。
「何を食べたいですか?」
「そうだな。最低限の食事パンを一切れとワインを一杯」
「随分と質素ですね」
「ああ、倹約の必要が生まれたからな」
「パンが金貨三百枚。ワイン一杯が金貨二百枚になります」
「ほらよ」
子爵は同じように小切手帳に金額とサインを書き、鉄格子の外に投げ捨てました。
「お買い上げありがとうございます」
私は満面の笑みで頭を下げました。
私は椅子に座りながら足を組みました。
「魂の所有権?」
「はい。『悪魔に魂を売るな』ということです」
「なんだ、それだけか」
「ええ、それだけです」
「ふははっ!」
子爵が不敵に笑います。そして鉄格子の前までつかつかと来ると、両手で格子をがっちり掴みました。
「あんまり俺を舐めるなよ、悪魔風情が!」
そこにいたのはそれまでの温厚で知的なランチマネー子爵ではなく、目的のために手段を選ばないどう猛な野獣のような男でした。
「ふふふ、やっと本性を現しましたね。私、そっちの方が好感が持てます」
「ほざけ!」
子爵が怒鳴ります。
「試練を始める前に一つ言わなければならないことがあります」
「なんだ?」
「あなたがここで一か月間生活するにあたり、私は必要なものすべてをあなたに提供することを約束します」
「……簡単過ぎる。裏があるな?」
「ご名答。ただしそのすべてに値札が付いています」
「やっぱりな」
こうして試練が始まりました。
◆◇
一日目
◆◇
次の日、私が地下牢へ行くと子爵は藁のベッドにこちらを向いて横臥していました。
「おはようございます。気分はどうですか?」
「悪くない。初めて藁のベッドで寝たが癖になる寝心地だ」
「それはよかったです」
「喉が渇いた。水をくれ」
子爵が体を起こしました。
「もちろんです。一杯金貨五十枚いただきます」
「……なるほどな。試練というのはそういうことか」
「はい」
「金貨の五十枚くらいくれてやる。俺には腐るほどの金があるからな」
「私を殺して奪った金でしょう?」
「そうだったかな?」
そう言うと、子爵は懐から小切手帳を取り出し、金額と署名を書き込みそれを切り離して私に投げて寄越しました。
一つ言っておきますが、金貨はたった一枚でもかなりの価値があります。農民なら四人家族で二か月は暮らせます。
二年前、エコーズ家はおよそ金貨八千枚の資産がありましたから、現在我が家を吸収したランチマネー子爵の総資産は金貨一万枚はくだらないでしょう。
「お水をどうぞ。痺れるくらいに冷やしておきました」
私は、魔法でコップ一杯の水を発現させ、鉄格子の中に置きました。
「毒は入っていないだろうな?」
「飲んでみればわかります」
「食えない奴め」
こうしてみるとどちらが悪魔かわからなくなります。一応私には角としっぽがありますが、それにしたって子爵の口調の荒々しさは、ジンやシャイターンを彷彿とさせます。
子爵は結露滴るコップを荒々しく掴むとあっという間に飲み干してしまいました。
◆◇
二日目
◆◇
子爵は牢の中を検分していました。間取りは真四角とても単純で、調度品は藁のベッドと小さな書き物机しかありません。
床や壁を叩いて強度の低い場所を探しているようですが、そもそもここはただの地下牢ではありません。魔法で別次元に隔離させた空間なのです。
ですので、どれだけ脱獄を企てようと無意味なのです。
「脱獄はあきらめた方が賢明ですよ」
「だろうな」
子爵は立ち止まり書き物机を椅子代わりに腰掛けました。
何か考えているようです。
「必要なものはありますか?」
「トイレがいるな」
子爵が顔を上げました。
「でしたら王宮で使われている最高級品をご用意できます」
「そんなのはいらない。一番安いトイレでいい」
「トイレはすべて一律のお値段です」
「いくらだ?」
「金貨二千枚になります」
「ふざけんな!」
子爵が私に詰め寄ります。
「これは一か月を通して使うことができます。ですのでこの値段になります」
◆◇
三日目
◆◇
私がいつものように地下牢へ向かうと、子爵は一日目と同じようにベッドに寝転んでいました。
「この様子だと食事もべらぼうな値段なんだろ?」
子爵が腹をさすりながら言いました。
「『べらぼう』と感じるかどうかはその人の置かれた状況によるでしょう?」
「一理あるな。俺の命より安い」
子爵が天井を仰ぎます。
「何を食べたいですか?」
「そうだな。最低限の食事パンを一切れとワインを一杯」
「随分と質素ですね」
「ああ、倹約の必要が生まれたからな」
「パンが金貨三百枚。ワイン一杯が金貨二百枚になります」
「ほらよ」
子爵は同じように小切手帳に金額とサインを書き、鉄格子の外に投げ捨てました。
「お買い上げありがとうございます」
私は満面の笑みで頭を下げました。
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