財産目当てに殺された私の魂は悪魔公に拾われました。

鉛風船

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#23 試練 その二

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 ◆◇
 七日目
 ◆◇


 さて、試練がはじまって一週間が経ちました。その間に子爵は金貨を五千枚使いました。内訳としてはトイレに金貨二千枚、残りは食料です。

 残りの資産は金貨五千枚くらいでしょうか?

 子爵は残り三週間をその金額で過ごさなければなりませんから、一層使い方を考えなければなりません。とは言うものの、トイレのような大きな出費がない限りあまり心配はないと考えているでしょう。

 私はいつものように地下牢へ行くと、随分とやつれた子爵がいました。

 髪は脂ぎってぼさぼさ、伸び放題の無精ひげは浮浪者のようです。しかも、高貴な服が垢で汚れたせいでかえってみすぼらしく見えます。

「一週間体を洗っていないと流石に少し臭いますね」

「ふん、これくらいの我慢たいしたことはない。それよりいいのか? あと三週間、俺にはまだまだ金があるぞ?」

「ご心配なく。試練はこれからですから」

 私はニコリと微笑みます。

「これは敢えて聞くまでもないと思っていたから聞かなかったんだが、お前は最初に生活に必要なものをすべて提供すると言ったな。もし俺が脱獄に使える道具が必要だと言ったらどうするんだ?」

 子爵がギトギトの髪の毛を後ろへ撫でつけながら言います。

「たとえばどんなものですか?」

「あからさまな物だと――つるはし」

「いいですよ」

「何?」

「それが生活に必要なら金貨三千枚で差し上げます」

「……」

 子爵は私の目を眼差します。その目に猜疑の色が浮かんでいるので、私の言葉の意味の真価を測っているようです。

「嘘ではありません。最初に言ったことを違えるつもりは毛頭ありません」

 子爵は眉間にしわを寄せ、唇を噛み締めました。そして、

「……いいや、止めておく」

 と言うと、そっぽを向いてしまいました。

「どうしてです?」

「お前は悪魔だ。絶対に俺にとって致命的な裏がある」

「そうですか。気が向いたらいつでも声を掛けて下さい」

「くたばれ悪魔!」


 ◆◇
 十四日目
 ◆◇


 二週間が経ちました。子爵もこの生活に順応し、水は一日二杯、食事は二日に一回に取る形に落ち着きました。相変わらずお風呂は入っていないので一層浮浪者感が増しましたが、眼光は鋭く光っています。

 一日当たりの使用金額を平均化したところ、金貨三百枚になりました。二週目の使用金額は金貨二千百枚となり、合計で七千六百枚となりました。

「もうすぐ折り返し地点ですね」

「もう半月が過ぎたのか。案外耐えられるものだな」

 子爵は相変わらずの減らず口で不敵に笑います。

「そこで、私はあなたに新たな選択肢を与えようと思います」

「選択肢?」

「はい。今まで私はお金を対価に必要なものを提供してきましたが、そこにもう一つ対価にできるものを増やそうというわけです」

「生憎俺は金以外出せるものは無いぞ」

「いえいえ、あるでしょう? もう一つ出せるものが。私は悪魔ですよ?」

「魂か?」

 あわよくば得られるのなら。

 はなから期待していませんが。

「別にそれ以外でも可です。例えば腕とか、足とか」

「……やっぱりな。悪魔にしては変な試練だと思ったが、ようやくしっぽを現したか」

 悪魔だけに。

「お見通しでした? 流石子爵、鋭いですね」

「仮に選択肢が増えたからと言ってそれを選ぶはずないだろう」

「別に今取ろうってわけではありません。あなたが死んだ後に頂こうって話です」

「つまり、必要なものの対価に俺が死んだら手足を取られるということか?」

「そうです。いいでしょう?」

「どうかな」

 子爵はそれ以上答えることなく、ベッドに横になると向こうを向いてしまいました。


 ◆◇
 二十一日目
 ◆◇

 残すところ十日となりました。子爵は目に見えてやつれてきています。指の肉まで痩せて骨と皮ばかりになったほか、頬もこけて生ける屍といういで立ちです。

 いよいよどちらが悪魔かわかりません。

 最近、私は牢の前に豪華な食事を広げ、配下のジャジャと共に舌鼓を打つことが日課になっています。これ見よがしに食べていると、子爵の恨めし気な目を感じます。私が目を向けると、その瞬間子爵はサッと目を逸らすのです。

 これが大変面白く、私はここで食事をすることが癖になってしまいました。

 そして今日、子爵が細い左腕を牢の中から突き出しました。

「……腕をやる。食い物をくれ」

「いいんですか? 今まで体を大切にしていたじゃないですか」

「構わん」

「わかりました」

 私は指をパチンと鳴らし、紙とペンを取り出すと誓約に必要な文句を書き出し、自分のサインをしました。

「ここにサインをお願いします」

 子爵は私の示した場所にサインをしました。すると、紙がめらめらと燃えだし灰になってしまいました。

「これで契約完了です。あなたの腕は死後私の物になります。そして、これが対価です」

 私はもう一度指を鳴らしました。牢の中に大きなテーブルが出現し豪華な料理が並びます。

「……これが対価」

「沢山召し上がってください。ですが気を付けて下さいね。この料理は保存が利きません。一時間したら消えてしまいます。それまでに食べ切るのもいいですが、弱った体に暴食は毒です。ごゆっくりどうぞ」

 子爵は説明の途中には既に料理に食いついていました。
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