財産目当てに殺された私の魂は悪魔公に拾われました。

鉛風船

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#24 最終話 『魂』

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 ◆◇
 二十八日目
 ◆◇


 いよいよ試練も終わりのときが近付いてきました。

 子爵は自身の左腕を売って以来毎日体の部位を一つずつ売り、今や売れる部位は魂のみになってしまいました。なんということでしょう。彼はこれから二日間何も食べずに過ごさねばならないのです。

 ですが子爵がそれに耐えられるでしょうか?

 一か月間欠かさず飲んでいた水の一杯も飲めないのです。

 それはともかく、体の部位を売って得た食料のお陰でしょうか? 子爵の肌に艶が戻ったような気がします。

 尤も、子爵はお風呂に入っていませんし服も変えていませんので、これが気のせいであることは間違いないのですが。それでも、目に生気が戻っていることは間違いありません。彼の両目は再び野獣のようにギランギラン光り出したのですから。

「あと少しですね」

「……ああ。ここを耐えれば俺の勝ちだ」

「それはそうと、子爵はここを出たら何をするつもりですか?」

「屋敷に帰るつもりだ」

「それはちょっと難しいですよ?」

「何故だ?」

 子爵が眉をひそめる。

 私は今日の新聞を子爵の前に投げ出しました。新聞には『ランチマネー子爵自身の妻を毒殺か!?』という見出しがでかでかと書かれ、子爵の似顔絵も描かれています。

「なんだこれは!?」

 子爵の両目が飛び出んばかりに見開かれます。

「どうしたんでしょう? 誰かが新聞屋に垂れ込んだのでしょうか?」

「クソッタレッ! よくもやってくれたなッ!」

 子爵は新聞をくしゃくしゃに丸め私に投げつけます。が、新聞は私に当たる前に見えない壁に阻まれ、ポトリと落ちました。

「別に子爵を殺す方法は一つではありません。あなたの悪事を世間に晒すことでも十分抹殺できます」

「フーッ……フーッ!」

「どうします? 屋敷に戻ります?」

「フーッ……フーッ……」

「戻ってもあなたは妻殺しの罪で死刑ですけど」

「フーッ……フーッ……」

「それともここで美味しい料理を食べますか?」

 子爵は唇を血が出るほど噛み締めていましたが、すべてを悟ったのか脱力しガクリと床に膝をつきました。そして、

「……とびきり美味いものを頼む」

 と言いました。

「では、対価に魂を頂きます」


 ◆◇
 三十日目 試練最終日 達成まで残り数分
 ◆◇


 遂にこのときがやって来ました。

 子爵は干からびたミミズのように無様に地面に転がっています。死んではいませんが相当衰弱しているように見えます。

 まるで生ける屍です。

 私が話しかけてもろくに返事は返ってこず、呻き声ばかりが牢に響くのでまったく面白くありません。子爵の威勢のいい啖呵を聞きたいのにがっかりです。

「おめでとうございます! 子爵は見事試練を達成いたしました!」

「……」

「元気がないですね。喜ばないんですか?」

「……」

「私ばかりが喜ぶのもおかしな話なので一緒に喜んでくださいよ」

「……」

 私は牢の鍵を開けました。それでも子爵は牢から出て来ません。

「これで子爵は自由の身です。どうぞお好きなところへ行ってください」

「……」

「では私が勝手に外に転移させますよ? いいですか?」

「……」

「じゃあしちゃいますね。いいですね?」

「……」

 返事がないので私は子爵を外に転移させることにしました。

 いつまでもここにいても困りますからね。

 パチン。

 私が指を鳴らすと子爵は煙のように消え失せてしまいました。


 ◆◇


「あいつはどこに転移したんです?」

 私の後ろからジャジャが現れました。

「ん? 裁判所の前」

「うわあ、流石我が主いい性格をしています」

「でしょ? 悪魔的でしょ?」

「はい」

「じゃあ、復讐も終わったことだしマスターに報告しに行こうっと」

 私は地下牢を後にしました。
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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.08.30 鉛風船

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解除

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