3 / 46
2話
しかも──フランス語だ。
「え?何て?」と皆がざわつく中、俺はぎりぎり聞き取れた。
“froid”は「寒い」って意味。
たぶん「今日ちょっと寒くない?」って言ったんだ。
──…えっ、いや、なんで!?
今はそんな季節じゃない。
今日なんか、ブレザーも着ずにシャツ1枚で十分な陽気だぞ。
何を思ってそんな言葉を掛けたのか。
……まさか東雲に喧嘩売るつもりじゃないよな!?
「日本の不良に挑んでみたかったんです!」みたいな、バッキバキの格闘系とかじゃないよな!?
全員の視線が東雲に集まる中──
東雲は小さくため息を吐き、顔を向けもせず、ボソッと低い声で突き放すように返した。
「クワ? イル フェ ショ」
(は? 暑いだろ)
一瞬で空気がピシリと凍る。
さっきのシャルロットの言葉が聞き取れなかった連中は、今の東雲の言葉もチンプンカンプンだろう。
──だが俺は、聞き取れてしまった。
あまりに自然で、滑らかすぎるフランス語。
シャルロットよりは少しゆっくりだけど、発音はネイティブレベルで、まるで昔からその言葉を使ってきたみたいだ。
勉強中の俺ですら、思わず聞き惚れたレベル。
……逆にちょっと怖い。何なんだよ、この完璧さ。
フランス語を分からない生徒ですら、何かヤバそうってのを肌で感じ取っているらしい。
シャルロットは、東雲の言葉にふっと肩をすくめて笑った。
「C’est vrai.(そうだね)」
……え、なんで笑った!?
今のどこに笑う要素あった!?
──っていうか、何だよ今のやり取り。山!川!みたいな暗号か!?
そう思ったが、東雲は興味なさそうに席へ腰を下ろす。
どうやら暗号でも何でもなさそうだ。
「東雲くんってフランス語できたんだ…」
「何て言ってたか分かった?」
「いや、早すぎて無理だった…」
教室がまたざわつき始めた頃、東雲は頬杖をついたまま完全に傍観モードだった。
そこへ先生の声。
「東雲、お前……フランス語分かるんだな!」
東雲は、ほんの一瞬だけ動きを止め、ぼそっと返す。
「………わかりません。」
いやいや、めっちゃ分かってたじゃん!!
──これはパンですか?
──いいえ、それは机です。
みたいな、初心者向け例文レベルの会話だっただろ!
しかも完璧な発音で!!
東雲、フランス語の授業いないよな!? どうなってんだ!?
「いやいや、発音ばっちりだったぞ~!よし、東雲。お前が面倒見てやってくれ!」
「…………なんで俺が…」
えっ!? シャルロットくんの面倒を東雲が!?
大丈夫か!? 殴られたりしないか!?
「相手に不足なし!」とか言ってタイマン始めたりしないよな!?
「──…勘弁しろよ」
マジで露骨に嫌そうな東雲と、先生の隣で“絵画から出てきました”みたいな顔で立つシャルロットくん。
今どんな気持ちなんだよ!?
「いいじゃないか!言葉が通じれば心も通じる!あ、佐藤、席替わってやれ~」
「…えっ、俺、移動!?」
「東雲の横にお前が座ってんだから仕方ないだろ!言葉が通じる方がシャルロットくんも安心だ!」
「えー、じゃあ仕方ないかー!」
ぶーぶー言いながらも、内心では喜びを隠せない顔で立ち上がる佐藤。
──いや、本当に安心か? 不安しかなくない?
東雲、めちゃくちゃ嫌そうな顔してるけど!?
シャルロットはそんな佐藤に小さく頭を下げ、やわらかく微笑んだ。
「Merci… アリガト・ゴザイマス」
……やば。可愛い。
舌ったらずでぎこちない発音。
けれど礼儀正しく頭を下げ、まっすぐな姿勢で席に着く姿は、それだけで絵になった。
その場にいた誰もが「応援したい」と思ったんじゃないか。
そして、東雲の隣に座ったシャルロットは──
「Je compte sur toi.(よろしくね)」
花が綻ぶような笑みを浮かべた。
しかし東雲は一瞥もせず、面倒臭そうにため息をひとつ。
──何て羨ましい!!!
東雲の二つ向こうに座る俺は、朝日に透ける金の髪を見ながら机に置いた手を握りしめた。
その笑顔を俺にも向けてほしい。
──やばい!!俺、シャルロットくんが好きだ──!!!
この日から、俺・田中善人の世界は変わっていくのだった。
「え?何て?」と皆がざわつく中、俺はぎりぎり聞き取れた。
“froid”は「寒い」って意味。
たぶん「今日ちょっと寒くない?」って言ったんだ。
──…えっ、いや、なんで!?
今はそんな季節じゃない。
今日なんか、ブレザーも着ずにシャツ1枚で十分な陽気だぞ。
何を思ってそんな言葉を掛けたのか。
……まさか東雲に喧嘩売るつもりじゃないよな!?
「日本の不良に挑んでみたかったんです!」みたいな、バッキバキの格闘系とかじゃないよな!?
全員の視線が東雲に集まる中──
東雲は小さくため息を吐き、顔を向けもせず、ボソッと低い声で突き放すように返した。
「クワ? イル フェ ショ」
(は? 暑いだろ)
一瞬で空気がピシリと凍る。
さっきのシャルロットの言葉が聞き取れなかった連中は、今の東雲の言葉もチンプンカンプンだろう。
──だが俺は、聞き取れてしまった。
あまりに自然で、滑らかすぎるフランス語。
シャルロットよりは少しゆっくりだけど、発音はネイティブレベルで、まるで昔からその言葉を使ってきたみたいだ。
勉強中の俺ですら、思わず聞き惚れたレベル。
……逆にちょっと怖い。何なんだよ、この完璧さ。
フランス語を分からない生徒ですら、何かヤバそうってのを肌で感じ取っているらしい。
シャルロットは、東雲の言葉にふっと肩をすくめて笑った。
「C’est vrai.(そうだね)」
……え、なんで笑った!?
今のどこに笑う要素あった!?
──っていうか、何だよ今のやり取り。山!川!みたいな暗号か!?
そう思ったが、東雲は興味なさそうに席へ腰を下ろす。
どうやら暗号でも何でもなさそうだ。
「東雲くんってフランス語できたんだ…」
「何て言ってたか分かった?」
「いや、早すぎて無理だった…」
教室がまたざわつき始めた頃、東雲は頬杖をついたまま完全に傍観モードだった。
そこへ先生の声。
「東雲、お前……フランス語分かるんだな!」
東雲は、ほんの一瞬だけ動きを止め、ぼそっと返す。
「………わかりません。」
いやいや、めっちゃ分かってたじゃん!!
──これはパンですか?
──いいえ、それは机です。
みたいな、初心者向け例文レベルの会話だっただろ!
しかも完璧な発音で!!
東雲、フランス語の授業いないよな!? どうなってんだ!?
「いやいや、発音ばっちりだったぞ~!よし、東雲。お前が面倒見てやってくれ!」
「…………なんで俺が…」
えっ!? シャルロットくんの面倒を東雲が!?
大丈夫か!? 殴られたりしないか!?
「相手に不足なし!」とか言ってタイマン始めたりしないよな!?
「──…勘弁しろよ」
マジで露骨に嫌そうな東雲と、先生の隣で“絵画から出てきました”みたいな顔で立つシャルロットくん。
今どんな気持ちなんだよ!?
「いいじゃないか!言葉が通じれば心も通じる!あ、佐藤、席替わってやれ~」
「…えっ、俺、移動!?」
「東雲の横にお前が座ってんだから仕方ないだろ!言葉が通じる方がシャルロットくんも安心だ!」
「えー、じゃあ仕方ないかー!」
ぶーぶー言いながらも、内心では喜びを隠せない顔で立ち上がる佐藤。
──いや、本当に安心か? 不安しかなくない?
東雲、めちゃくちゃ嫌そうな顔してるけど!?
シャルロットはそんな佐藤に小さく頭を下げ、やわらかく微笑んだ。
「Merci… アリガト・ゴザイマス」
……やば。可愛い。
舌ったらずでぎこちない発音。
けれど礼儀正しく頭を下げ、まっすぐな姿勢で席に着く姿は、それだけで絵になった。
その場にいた誰もが「応援したい」と思ったんじゃないか。
そして、東雲の隣に座ったシャルロットは──
「Je compte sur toi.(よろしくね)」
花が綻ぶような笑みを浮かべた。
しかし東雲は一瞥もせず、面倒臭そうにため息をひとつ。
──何て羨ましい!!!
東雲の二つ向こうに座る俺は、朝日に透ける金の髪を見ながら机に置いた手を握りしめた。
その笑顔を俺にも向けてほしい。
──やばい!!俺、シャルロットくんが好きだ──!!!
この日から、俺・田中善人の世界は変わっていくのだった。
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
前世が悪女の男は誰にも会いたくない
イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です
ーーーやってしまった。
『もういい。お前の顔は見たくない』
旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。
前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた
しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう
その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める
頑張って運命を回避しようとする話です
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。