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5話
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ある日の休み時間。
俺が隣の席の坂下に雑誌を見せてもらっていたときのことだ。
ふと耳に届いた、ぼそりとした低い声。
……フランス語だ。
眠気を引きずるような声色で、東雲がシャルロットに問いかけていた。
「テ ラ プーラプランドル ジャポネ、ノン?」
(日本語覚えに来たんだろ。フランス語ばっかで意味あんのかよ?)
一瞬で空気が張りつめた気がした。
シャルロットは目を丸くし、それから唇を少し尖らせて俯く。
「Le français me manque un peu. …C’est mal ?」
(ちょっとだけ、フランス語が恋しくなっちゃったんだ。…ダメ?)
小首を傾げる仕草に、思わず息を呑む。
なにそれ……反則。可愛さの爆弾。
俺ですらキュンとしてんのに、東雲……お前、本当に無反応でいられるのか?
……と思ったら。
「タ ル マル デュ ペイ?」(ホームシックかよ)
ふっと笑って、東雲が手を伸ばした。
ぽん、ぽん――と金色の髪に触れる。
その瞬間、シャルロットの頬がふわっと桜色に染まった。
「……Mmh…」
小さく喉で鳴くような声を漏らし、目を伏せるシャルロット。
東雲はそれ以上何も言わず、また机に顔を埋めたけれど……初日よりずっと柔らかい空気だった。
俺は見た。
そして、思ってしまった。
──心を持たないドラゴンが、姫に惚れ始めている!!!
これは由々しき事態だ。
今まではドラゴンが姫に興味なかったから呑気にしてたけど、これはまずい。
机の上からはみ出した東雲の手の甲に、シャルロットがそっと指を添えている。
まるで宝物に触れるみたいに、大事そうに。
……痛い。
胸がズキズキする。
このまま黙ってたら……奪われる!
俺は姫を守る騎士なんだ!!
「なぁ!場所、変わってくれない?」
隣の坂下に頼みこみ、ガタッと机を引っ張る。ゴツン、と東雲の机にぶつけた。
「……は?! お前、何やってんだよ」
机の揺れで起きた東雲が、眉間に皺を寄せる。
でも俺は笑って宣言した。
「今日から、ここで勉強させてもらうから!」
「は? なんでだよ」
「シャルロットからフランス語習いたいし!」
「だったら席代わってやるよ」
東雲が立ち上がろうとした、そのとき。
「……Ne pars pas」
(……行かないで)
シャルロットが彼の腕をきゅっと掴んだ。
……そんなに東雲の隣がいいのかよ。
心がギュッと縮む。
でも、負けられない。
俺も反対側の腕を掴んだ。
「俺まだフランス語完璧じゃないから! 通訳してもらわないと困る!」
両側から掴まれた東雲は、天を仰いでから大きくため息をつく。
「……分かったから離せ」
ばっと振り払われたが、殴られることはなく、そのまま椅子にドスンと座り直した。
「……ちょっと離れろ。狭いだろ」
文句は言うが、そこにいてくれる。
……もしかして、俺のことも少しは認めてくれた?
そう思ってホッとした瞬間、シャルロットがぱちぱちと瞬きをした。
その視線が可愛くて胸がキュンとする。
今まで東雲にばかり向けられていた目線が、ついに俺にも……!
よし、やっぱ諦めない!!
────
「何だ田中、席そこに変わったのか?」
不意に先生に声をかけられ、ビクッとする。
「あ、えっと、第二外国語フランス語なんで! 勉強したくて!」
「……あぁ、それで東雲の隣か」
東雲の視線が突き刺さる。
怖い。でも退けない。
「ほんとはシャルロットの隣がいいんですけど、東雲くんが動いてくれないから、仕方なく!」
自分でもバカだと思う言い訳だが、先生が笑えば勝ちだ。
「あ~そういうことね~。じゃあ三人で仲良く勉強しろよ。東雲も頑張れ」
……通った!
心の中でガッツポーズを決める。
こうして、俺はシャルロットに“2番目に近い座席”を確保した。
ここからが本番だ。心も奪ってみせる!
……その瞬間のシャルロットの視線が、
まるで「うるさい犬でも見てる」ように、氷みたいに冷たかったことに気づかないまま――。
俺が隣の席の坂下に雑誌を見せてもらっていたときのことだ。
ふと耳に届いた、ぼそりとした低い声。
……フランス語だ。
眠気を引きずるような声色で、東雲がシャルロットに問いかけていた。
「テ ラ プーラプランドル ジャポネ、ノン?」
(日本語覚えに来たんだろ。フランス語ばっかで意味あんのかよ?)
一瞬で空気が張りつめた気がした。
シャルロットは目を丸くし、それから唇を少し尖らせて俯く。
「Le français me manque un peu. …C’est mal ?」
(ちょっとだけ、フランス語が恋しくなっちゃったんだ。…ダメ?)
小首を傾げる仕草に、思わず息を呑む。
なにそれ……反則。可愛さの爆弾。
俺ですらキュンとしてんのに、東雲……お前、本当に無反応でいられるのか?
……と思ったら。
「タ ル マル デュ ペイ?」(ホームシックかよ)
ふっと笑って、東雲が手を伸ばした。
ぽん、ぽん――と金色の髪に触れる。
その瞬間、シャルロットの頬がふわっと桜色に染まった。
「……Mmh…」
小さく喉で鳴くような声を漏らし、目を伏せるシャルロット。
東雲はそれ以上何も言わず、また机に顔を埋めたけれど……初日よりずっと柔らかい空気だった。
俺は見た。
そして、思ってしまった。
──心を持たないドラゴンが、姫に惚れ始めている!!!
これは由々しき事態だ。
今まではドラゴンが姫に興味なかったから呑気にしてたけど、これはまずい。
机の上からはみ出した東雲の手の甲に、シャルロットがそっと指を添えている。
まるで宝物に触れるみたいに、大事そうに。
……痛い。
胸がズキズキする。
このまま黙ってたら……奪われる!
俺は姫を守る騎士なんだ!!
「なぁ!場所、変わってくれない?」
隣の坂下に頼みこみ、ガタッと机を引っ張る。ゴツン、と東雲の机にぶつけた。
「……は?! お前、何やってんだよ」
机の揺れで起きた東雲が、眉間に皺を寄せる。
でも俺は笑って宣言した。
「今日から、ここで勉強させてもらうから!」
「は? なんでだよ」
「シャルロットからフランス語習いたいし!」
「だったら席代わってやるよ」
東雲が立ち上がろうとした、そのとき。
「……Ne pars pas」
(……行かないで)
シャルロットが彼の腕をきゅっと掴んだ。
……そんなに東雲の隣がいいのかよ。
心がギュッと縮む。
でも、負けられない。
俺も反対側の腕を掴んだ。
「俺まだフランス語完璧じゃないから! 通訳してもらわないと困る!」
両側から掴まれた東雲は、天を仰いでから大きくため息をつく。
「……分かったから離せ」
ばっと振り払われたが、殴られることはなく、そのまま椅子にドスンと座り直した。
「……ちょっと離れろ。狭いだろ」
文句は言うが、そこにいてくれる。
……もしかして、俺のことも少しは認めてくれた?
そう思ってホッとした瞬間、シャルロットがぱちぱちと瞬きをした。
その視線が可愛くて胸がキュンとする。
今まで東雲にばかり向けられていた目線が、ついに俺にも……!
よし、やっぱ諦めない!!
────
「何だ田中、席そこに変わったのか?」
不意に先生に声をかけられ、ビクッとする。
「あ、えっと、第二外国語フランス語なんで! 勉強したくて!」
「……あぁ、それで東雲の隣か」
東雲の視線が突き刺さる。
怖い。でも退けない。
「ほんとはシャルロットの隣がいいんですけど、東雲くんが動いてくれないから、仕方なく!」
自分でもバカだと思う言い訳だが、先生が笑えば勝ちだ。
「あ~そういうことね~。じゃあ三人で仲良く勉強しろよ。東雲も頑張れ」
……通った!
心の中でガッツポーズを決める。
こうして、俺はシャルロットに“2番目に近い座席”を確保した。
ここからが本番だ。心も奪ってみせる!
……その瞬間のシャルロットの視線が、
まるで「うるさい犬でも見てる」ように、氷みたいに冷たかったことに気づかないまま――。
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