【完結】Reste, mon étoile. −君にもう一度会いたくて−

豊川夢久

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32話

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「それで?君たちは、どうしてこの子を追ってたのかな?」

そう問われて、どこから話せばいいのかとロロと視線を向け合った。

「あの、俺たち東雲梓真くんの友達で、プリントを預かってきたんです。家まで行こうと思ったんですけど、彼の弟っぽい子がいたから、渡そうと思って追いかけたら、逃げられちゃって」

「…なるほど。そのプリントは見せてもらえる?」

俺は鞄から、少し折れたプリントの束を取り出して差し出した。
警察官は受け取ると、ざっと目を通しながら頷く。

「確かに学校のだな。……ふむ」

そして、隣でお茶をすすっている少年に視線を向ける。
「君のお兄ちゃん、学校からも心配されてるぞ。ちゃんと渡してやれるか?」

少年はぷいと顔をそらし、黙り込んだままだった。
その反応に、警察官は小さく息をつき、俺たちへ視線を戻す。

「……じゃあ、僕がプリントを預かって家まで送り届ける。それでいいかな?」

その提案に、少年が「それ…嘘なんじゃないの?」と呟いた。

「いや、嘘じゃないよ。ちゃんと名前も書いてある。ほら。」

そう言って少年に見せると、少年がジトッとした瞳を向けてきた。

「……兄ちゃんの…本当は何なの?」

「いや、だから、友達なんだって!」

そんな押し問答を繰り返していると、ロロが小さく口を挟んだのだった。

「ボク、おにいちゃん、ひく、ピアノ、すき」
「……ピアノ…?」

その言葉に少年がぴくりと反応した。

「フランスで、ひいてくれた」
「兄ちゃんがフランスに行ってた時のこと知ってんの?!」

ロロの言葉に、少年がガバッと立ち上がって、さっきまでのことが嘘のように食いついてきたのだった。

「ボク、ありがとう、いいたくて、にほんきた」
「フランスにいた時の、友達ってこと…?」

その言葉に、ロロが小さく首を横に振った。

「Non…いまのアズサのともだち」

少年はぽかんとロロを見つめていたが、やがて小さく吹き出した。
「変な日本語」
そう言いながらも、さっきまでの刺々しさはもうなかった。

警察官が湯飲みを片付けながら言う。
「……プリント預かるか、家まで連れていってやるか、どっちかにしたらどうだ?」

少年は一瞬ためらったように視線を落とし、それからぽつりと答えた。
「……預かるよ。だって家に連れて行ったって会えないし。」

「会えないの?」と俺。

「だって、この時間バイトだし。」
「あ、だったら、明日の朝は?」
「朝も会えないよ。バイトだもん。」

「朝も……?」
「うん。学校行く前に行ってるって起きた時、兄ちゃんいたことないよ。」

さらりと告げられた生活の断片が、妙に重く胸に落ちる。
昼間の学校も、夜のバイトも、朝の仕事も──十七歳が全部背負うには、あまりにも多い。

ロロは何か言いかけたが、唇を噛んで黙った。
俺も同じだった。言葉が見つからない。

少年は少し居心地悪そうにしながらも、手を差し出す。
「……じゃあ、プリントちょうだい。見るかどうか分かんないけど渡すから。」

「ありがとう、頼むな。」
プリントを手渡すと、少年はそれを胸に抱えた。

お巡りさんが俺たちを見て、小さくうなずく。
「気をつけて帰るんだぞ。」

少年がランドセルを揺らして去って行くのを見届けていると、
静かになった派出所に、湯呑みの置かれる小さな音が響いた。

「……それで、君たちは何でわざわざあの子を追いかけたの?さっきのプリントに住所も挟まってたの見たよ。」

そう問われて、ロロと顔を見合わせる。

「…あの子が東雲の弟なら、何か話聞けないかなって思って」
「……そう言えば、フランスに留学してたことも知ってたんだもんね。」
「──お巡りさんも留学してたこと、知ってるんですか?」
「……まぁ、ある程度の事情はね。」

お巡りさんはそう言って、湯呑みを片付けながら続けた。
「東雲くん、夜は交通整理のバイトやってて、朝は新聞配達でほとんど家にいないよ。あの歳で掛け持ちしてるのは、……弟のためだろうな。」

「…弟の」
「あの子、足早かっただろ?推薦も来るんじゃないかって言われてるんだけど、私学だから学費高いらしくてね。お父さんが健在だったなら、そんなことしなくても良かったんだろうけど…」

ロロは何も言わなかった。
ただ、視線を落としたまま、握りしめた拳だけがわずかに震えていた。
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