37 / 46
36話
しおりを挟む
小さく息を吐いて、言葉を発したのは東雲だった。
東雲がフランス語だったのは、ロロに合わせるためだったのか。
それとも、当時に戻ってしまったからだったのか。
「── ヌ トゥ ルガルド パ」
(──お前に関係ないだろ)
「関係なくない!」
間髪入れずに返した言葉に、東雲が一瞬言葉に詰まる。
けれど、それでも視線を逸らすことも、背を向けることもしなかった。
……そういうところが、すごく東雲らしいと思った。
きっと、あの時も──。
坂田瑛人の靴に画鋲が入れられた“事件”のときも。
疑いの目が一斉に東雲に向いたあの時も、「やってない」という意見を曲げずに、黙って大人たちの言葉に立ち向かっていたのだろう。
──“友人“に裏切られ、誰も信じてくれなくても、それでも。
逃げるより、真正面から全部を受け止めるほうを選んだんだ。
だから今も──ロロの言葉から逃げようとしていない。
ただ、その答えを口にする勇気が、まだ出せないだけなんだ。
ロロが一歩、東雲との距離を詰めた。
その瞳はまるで、逃げ道を探す隙を与えないみたいに真っ直ぐだ。
「梓真… 僕は、あのときの君を覚えてる」
その声は、静かだけど揺るぎない。
「君は、ピアノを続けるべきだよ!」
風が吹き抜けて、東雲の髪が揺れる。
けれど彼は、まだ何も言わなかった。
黙ったまま、その言葉を飲み込んでいるように見えた。
「──俺はもうピアノをやめたんだ」
「やめてない。だって、君はまだ諦められていないんだろ?」
「違う、俺はもう舞台を降りたんだ」
「降りたって、また登ればいいだけじゃないか…!」
2人の話は平行線のまま──だけど、視線はそらさなかった。
「お前に何の関係があるんだよ!」
そして、ロロが語りかけるように続ける。
「…僕は、あの時の輝くように笑う君が、また見たいんだ。」
当時ロロを救ったという、あの時のピアノの凄さは俺には知る術がなかった。
だけど、ロロのその一言に、どれだけの意味が込められているのか。
でも、東雲の指先がほんの一瞬、ピクリと動いたのを見逃さなかった。
「あの時の“君“か…」
薄く笑った東雲が、言葉を選ぶように視線を揺らした。
「悪いな…あの時の俺はもういない。あいつは死んだ。
ピアノを弾こうにも、指が動かないんだ。
──そんなんでピアニストを名乗れるかよ」
それまで絶対に逃げようとしなかった東雲の目が、初めてロロから逸らされた。
“Je croyais avoir un ami, mais c’était une statue.“
(友達だと思っていたけど、あいつは“石の像“だった)
かつて唯一信じていた“友人”。
梓真を裏切り、何も言わずに背を向けた男。
そんなやつに、どうして梓真が負けなきゃいけないんだ。
「Cette statue n’a jamais été ton ami !!」
(“石の像“は、君の友達なんかじゃなかったんだよ!!)
その言葉に、東雲の目が見開かれて、どうして知ってる、とでも言うような色に変わっていく。
「Je suis amer ! Ne cède pas à cette malédiction ! Tu rejoueras du piano !!」
(僕は悔しい!そんな呪いに屈するな!君はまたピアノを弾くんだ!!)
ロロの声は震えていた。
怒りだけじゃない──失望でもない。
東雲に届かないことへの焦りと、何かを奪われるような切迫感が、言葉を押し出していた。
「Je t’ai cherché ! Parce que j’aimais le piano que tu jouais !」
(僕は君を探してたんだ!君の奏でるピアノが好きだったから!)
一歩、また一歩と踏み込み、もう袖を掴むほどの距離まで近づく。
それでも東雲は瞬きすらしなかった。
「──…だったらお前は、思い出の俺と一緒に生きてくれ」
音のない刃物みたいな声。
熱を帯びた空気を一瞬で冷やすその一言に、ロロの足が止まった。
東雲がフランス語だったのは、ロロに合わせるためだったのか。
それとも、当時に戻ってしまったからだったのか。
「── ヌ トゥ ルガルド パ」
(──お前に関係ないだろ)
「関係なくない!」
間髪入れずに返した言葉に、東雲が一瞬言葉に詰まる。
けれど、それでも視線を逸らすことも、背を向けることもしなかった。
……そういうところが、すごく東雲らしいと思った。
きっと、あの時も──。
坂田瑛人の靴に画鋲が入れられた“事件”のときも。
疑いの目が一斉に東雲に向いたあの時も、「やってない」という意見を曲げずに、黙って大人たちの言葉に立ち向かっていたのだろう。
──“友人“に裏切られ、誰も信じてくれなくても、それでも。
逃げるより、真正面から全部を受け止めるほうを選んだんだ。
だから今も──ロロの言葉から逃げようとしていない。
ただ、その答えを口にする勇気が、まだ出せないだけなんだ。
ロロが一歩、東雲との距離を詰めた。
その瞳はまるで、逃げ道を探す隙を与えないみたいに真っ直ぐだ。
「梓真… 僕は、あのときの君を覚えてる」
その声は、静かだけど揺るぎない。
「君は、ピアノを続けるべきだよ!」
風が吹き抜けて、東雲の髪が揺れる。
けれど彼は、まだ何も言わなかった。
黙ったまま、その言葉を飲み込んでいるように見えた。
「──俺はもうピアノをやめたんだ」
「やめてない。だって、君はまだ諦められていないんだろ?」
「違う、俺はもう舞台を降りたんだ」
「降りたって、また登ればいいだけじゃないか…!」
2人の話は平行線のまま──だけど、視線はそらさなかった。
「お前に何の関係があるんだよ!」
そして、ロロが語りかけるように続ける。
「…僕は、あの時の輝くように笑う君が、また見たいんだ。」
当時ロロを救ったという、あの時のピアノの凄さは俺には知る術がなかった。
だけど、ロロのその一言に、どれだけの意味が込められているのか。
でも、東雲の指先がほんの一瞬、ピクリと動いたのを見逃さなかった。
「あの時の“君“か…」
薄く笑った東雲が、言葉を選ぶように視線を揺らした。
「悪いな…あの時の俺はもういない。あいつは死んだ。
ピアノを弾こうにも、指が動かないんだ。
──そんなんでピアニストを名乗れるかよ」
それまで絶対に逃げようとしなかった東雲の目が、初めてロロから逸らされた。
“Je croyais avoir un ami, mais c’était une statue.“
(友達だと思っていたけど、あいつは“石の像“だった)
かつて唯一信じていた“友人”。
梓真を裏切り、何も言わずに背を向けた男。
そんなやつに、どうして梓真が負けなきゃいけないんだ。
「Cette statue n’a jamais été ton ami !!」
(“石の像“は、君の友達なんかじゃなかったんだよ!!)
その言葉に、東雲の目が見開かれて、どうして知ってる、とでも言うような色に変わっていく。
「Je suis amer ! Ne cède pas à cette malédiction ! Tu rejoueras du piano !!」
(僕は悔しい!そんな呪いに屈するな!君はまたピアノを弾くんだ!!)
ロロの声は震えていた。
怒りだけじゃない──失望でもない。
東雲に届かないことへの焦りと、何かを奪われるような切迫感が、言葉を押し出していた。
「Je t’ai cherché ! Parce que j’aimais le piano que tu jouais !」
(僕は君を探してたんだ!君の奏でるピアノが好きだったから!)
一歩、また一歩と踏み込み、もう袖を掴むほどの距離まで近づく。
それでも東雲は瞬きすらしなかった。
「──…だったらお前は、思い出の俺と一緒に生きてくれ」
音のない刃物みたいな声。
熱を帯びた空気を一瞬で冷やすその一言に、ロロの足が止まった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました
あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」
誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け
⚠️攻めの元カノが出て来ます。
⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。
⚠️細かいことが気になる人には向いてません。
合わないと感じた方は自衛をお願いします。
受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。
攻め:進藤郁也
受け:天野翔
※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。
※タグは定期的に整理します。
※批判・中傷コメントはご遠慮ください。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる