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ゴミの中の宝石
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「蓮井さーん、どうぞ」
名前を呼ばれ、俺はダンボールを抱えて診察室へ入る。
中では白衣の先生がカルテをめくりながら、こちらを見た。
「さて、えーっと動物を拾ったとか?」
「はい、キツネっぽいけど、もしかしたらハイブリッドかもって……」
「ハイブリッドねぇ。最近わけわからないのも多いから。」
「あー、なんか“孔雀狐(くじゃっこ)”とか……(本人が言ってました)」
「くじゃっこ……? 聞いたことないな。ちょっと見せてもらえる?」
「あ、お願いします」
先生が箱の蓋を持ち上げると、コジャクはやや警戒しながらも、体を起こした。
「うん、顔はやっぱりキツネだね。骨格もほぼ同じだし。毛並みも綺麗だね。
……ふむ、内臓の位置も正常、心音も問題なし。元気そうだ」
先生は慣れた手つきで体を軽く押さえ、聴診器を当てていく。
コジャクはじっとしていたが、時々「ふんっ」と鼻を鳴らして不服そうだ。
「違いと言えば、やっぱり尻尾の数かな。…にしても、ずいぶん多そうだね」
「そうなんです。でも、数えさせてくれなくて」
「なるほど。じゃあ、せっかくだし数えてみようか」
先生が穏やかな笑みを浮かべ、そっと後ろに手を伸ばす。
その瞬間──
「ひゃあんっ!? 何をなさいますの!!」
コジャクがびくっと跳ね、次の瞬間にはくるりと丸まった。
もふもふの尾が一斉に広がり、身体をすっぽり包み込む。
診察台の上には、完璧な球体。
「……おぉ」
「……おやおや」
先生と俺、同時に声が漏れた。
「……防御形態、ですかね」
「たぶん……そうだと思います」
丸くなったままの毛玉が、ぷるぷる震えている。
尻尾の隙間から、青い目がチラッとこちらを覗いた。
「……尻尾、触られるのが嫌いみたいで」
「うん。よく分かりました。」
そう穏やかに笑った先生は「ちょっと失礼」と言って、コジャクの体を弄ると、器用にお尻の穴に体温計を差し込んだ。
その瞬間──
「ちょっ…!!ワタクシのプリチーなお尻の穴に何をされるのですか!! この変態!!」
「こらっ、シッ!!」
慌てて声を掛けるが、コジャクの罵詈雑言は止まらない。
「サイテーですわ!」「不意を打つなんて失礼極まりないですわ!」「やめなさい!!」「なんて卑劣な!!」「ばか!!」
だが、怒りの言葉たちがどんどん語彙を失っていく。
(……もう、わけがわからないままに泣き叫んでるみたいだな)
哀れに思いながらも、先生の様子をうかがう。
だが、先生の表情は一切変わらなかった。
「体温も正常の範囲内だね。
性別は、おそらく女の子だけど、はっきりとは分からないな。
最近のハイブリッドは、生殖器を体内に隠してるタイプもあるからね。
あと、マイクロチップは埋め込まれてなさそうだから、以前の飼い主は不明。今の所、この子に合致する行方不明届もない。」
淡々と説明を続ける先生の姿に、プロの凄みを感じた。
……だが、その次の一言で、背筋がゾワッとした。
「見た目は狐っぽいけど、鳴き声は、ちょっと犬っぽい気もするね」
犬っぽい──?
(……まさか)
さっきから先生は、コジャクの罵声にまったく反応していない。
ということは──。
(先生には、コジャクの言葉が……日本語に聞こえてないのか?)
名前を呼ばれ、俺はダンボールを抱えて診察室へ入る。
中では白衣の先生がカルテをめくりながら、こちらを見た。
「さて、えーっと動物を拾ったとか?」
「はい、キツネっぽいけど、もしかしたらハイブリッドかもって……」
「ハイブリッドねぇ。最近わけわからないのも多いから。」
「あー、なんか“孔雀狐(くじゃっこ)”とか……(本人が言ってました)」
「くじゃっこ……? 聞いたことないな。ちょっと見せてもらえる?」
「あ、お願いします」
先生が箱の蓋を持ち上げると、コジャクはやや警戒しながらも、体を起こした。
「うん、顔はやっぱりキツネだね。骨格もほぼ同じだし。毛並みも綺麗だね。
……ふむ、内臓の位置も正常、心音も問題なし。元気そうだ」
先生は慣れた手つきで体を軽く押さえ、聴診器を当てていく。
コジャクはじっとしていたが、時々「ふんっ」と鼻を鳴らして不服そうだ。
「違いと言えば、やっぱり尻尾の数かな。…にしても、ずいぶん多そうだね」
「そうなんです。でも、数えさせてくれなくて」
「なるほど。じゃあ、せっかくだし数えてみようか」
先生が穏やかな笑みを浮かべ、そっと後ろに手を伸ばす。
その瞬間──
「ひゃあんっ!? 何をなさいますの!!」
コジャクがびくっと跳ね、次の瞬間にはくるりと丸まった。
もふもふの尾が一斉に広がり、身体をすっぽり包み込む。
診察台の上には、完璧な球体。
「……おぉ」
「……おやおや」
先生と俺、同時に声が漏れた。
「……防御形態、ですかね」
「たぶん……そうだと思います」
丸くなったままの毛玉が、ぷるぷる震えている。
尻尾の隙間から、青い目がチラッとこちらを覗いた。
「……尻尾、触られるのが嫌いみたいで」
「うん。よく分かりました。」
そう穏やかに笑った先生は「ちょっと失礼」と言って、コジャクの体を弄ると、器用にお尻の穴に体温計を差し込んだ。
その瞬間──
「ちょっ…!!ワタクシのプリチーなお尻の穴に何をされるのですか!! この変態!!」
「こらっ、シッ!!」
慌てて声を掛けるが、コジャクの罵詈雑言は止まらない。
「サイテーですわ!」「不意を打つなんて失礼極まりないですわ!」「やめなさい!!」「なんて卑劣な!!」「ばか!!」
だが、怒りの言葉たちがどんどん語彙を失っていく。
(……もう、わけがわからないままに泣き叫んでるみたいだな)
哀れに思いながらも、先生の様子をうかがう。
だが、先生の表情は一切変わらなかった。
「体温も正常の範囲内だね。
性別は、おそらく女の子だけど、はっきりとは分からないな。
最近のハイブリッドは、生殖器を体内に隠してるタイプもあるからね。
あと、マイクロチップは埋め込まれてなさそうだから、以前の飼い主は不明。今の所、この子に合致する行方不明届もない。」
淡々と説明を続ける先生の姿に、プロの凄みを感じた。
……だが、その次の一言で、背筋がゾワッとした。
「見た目は狐っぽいけど、鳴き声は、ちょっと犬っぽい気もするね」
犬っぽい──?
(……まさか)
さっきから先生は、コジャクの罵声にまったく反応していない。
ということは──。
(先生には、コジャクの言葉が……日本語に聞こえてないのか?)
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