狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

文字の大きさ
6 / 24
ゴミの中の宝石

6

しおりを挟む
「蓮井さーん、どうぞ」

 名前を呼ばれ、俺はダンボールを抱えて診察室へ入る。
 中では白衣の先生がカルテをめくりながら、こちらを見た。

「さて、えーっと動物を拾ったとか?」

「はい、キツネっぽいけど、もしかしたらハイブリッドかもって……」

「ハイブリッドねぇ。最近わけわからないのも多いから。」

「あー、なんか“孔雀狐(くじゃっこ)”とか……(本人が言ってました)」

「くじゃっこ……? 聞いたことないな。ちょっと見せてもらえる?」

「あ、お願いします」

 先生が箱の蓋を持ち上げると、コジャクはやや警戒しながらも、体を起こした。

「うん、顔はやっぱりキツネだね。骨格もほぼ同じだし。毛並みも綺麗だね。
 ……ふむ、内臓の位置も正常、心音も問題なし。元気そうだ」

 先生は慣れた手つきで体を軽く押さえ、聴診器を当てていく。
 コジャクはじっとしていたが、時々「ふんっ」と鼻を鳴らして不服そうだ。

「違いと言えば、やっぱり尻尾の数かな。…にしても、ずいぶん多そうだね」

「そうなんです。でも、数えさせてくれなくて」

「なるほど。じゃあ、せっかくだし数えてみようか」

 先生が穏やかな笑みを浮かべ、そっと後ろに手を伸ばす。

 その瞬間──

「ひゃあんっ!? 何をなさいますの!!」

 コジャクがびくっと跳ね、次の瞬間にはくるりと丸まった。
 もふもふの尾が一斉に広がり、身体をすっぽり包み込む。

 診察台の上には、完璧な球体。

「……おぉ」
「……おやおや」

 先生と俺、同時に声が漏れた。

「……防御形態、ですかね」

「たぶん……そうだと思います」

 丸くなったままの毛玉が、ぷるぷる震えている。
 尻尾の隙間から、青い目がチラッとこちらを覗いた。

「……尻尾、触られるのが嫌いみたいで」

「うん。よく分かりました。」

 そう穏やかに笑った先生は「ちょっと失礼」と言って、コジャクの体を弄ると、器用にお尻の穴に体温計を差し込んだ。

 その瞬間──

「ちょっ…!!ワタクシのプリチーなお尻の穴に何をされるのですか!! この変態!!」

「こらっ、シッ!!」

 慌てて声を掛けるが、コジャクの罵詈雑言は止まらない。
「サイテーですわ!」「不意を打つなんて失礼極まりないですわ!」「やめなさい!!」「なんて卑劣な!!」「ばか!!」
 だが、怒りの言葉たちがどんどん語彙を失っていく。

(……もう、わけがわからないままに泣き叫んでるみたいだな)

 哀れに思いながらも、先生の様子をうかがう。
 だが、先生の表情は一切変わらなかった。

「体温も正常の範囲内だね。
 性別は、おそらく女の子だけど、はっきりとは分からないな。
 最近のハイブリッドは、生殖器を体内に隠してるタイプもあるからね。
 あと、マイクロチップは埋め込まれてなさそうだから、以前の飼い主は不明。今の所、この子に合致する行方不明届もない。」

 淡々と説明を続ける先生の姿に、プロの凄みを感じた。

 ……だが、その次の一言で、背筋がゾワッとした。

「見た目は狐っぽいけど、鳴き声は、ちょっと犬っぽい気もするね」

 犬っぽい──?

(……まさか)

 さっきから先生は、コジャクの罵声にまったく反応していない。
 ということは──。

(先生には、コジャクの言葉が……日本語に聞こえてないのか?)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...