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ゴミの中の宝石
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体をタオルで大雑把に拭いてやるも、尻尾だけはいつまで経ってもべっちょべちょ。
乾く気配すらない。
「お腹が空きましてよ……」
しょぼんと耳を垂らす背中に、申し訳なさがこみ上げる。
「待ってろ。動くなよ?」と声をかけて、キッチンへ向かった。
「さすがに……まんまは食えないよな」
油揚げは切られていない一枚ぺら。
コジャクから見れば、巨大な布団サイズだ。
しかも、そのまま出したら顔のまわりが油でベタベタになるのは目に見えている。
せっかく風呂に入ったのに、二回戦は勘弁だ。
手で引きちぎりながら皿を探す。
だが、当然ながら一人暮らしの男の台所に、可愛い皿などあるはずもない。
“浅い”“深い”“でかい”“小さい”──その程度のラインナップだ。
ふと、思い出した。
以前何かを買った時、オマケでついてきたプラスチックの皿があったはずだ。
花とミツバチの絵が描かれた、やたら可愛いアレ。
吉井さんにあげようかと思ったが、あまりに幼すぎてやめたんだった。
棚の上を見上げると、箱ごと鎮座していた。
「ここか……」
箱を開け、皿を取り出す。
ついでに病院でもらったペット用のフードパウチを絞り出し、その上に油揚げをトッピング。
「おぉ……美味そうじゃん」
まるでお子様ランチのようなビジュアル。
てっぺんに国旗でも立てたら完成だ。
自画自賛しつつ、皿を持って行き「ほら」と差し出した。
「やはりセンスのない人間は、何をしてもセンスがありませんことね。」
ズバッと刺さった。
俺の心にクリーンヒット。
思わず皿を引き戻しかける。
「……食いたくなきゃ、食わなくていいんだぞ」
「それしかありませんのでしょ? いただきますわ」
「食うなら文句言うな!」
そう言って皿を置き直すと、コジャクはふくれっ面のまま、はぐはぐと食べ始めた。
それがあまりにも美味そうで、俺の腹まで鳴りそうになる。
だが、その前に俺にはもう一つミッションが残っていた。
──あのべっちょべちょの尻尾を乾かす、というやつだ。
コジャクの後ろに座り、タオルで一本ずつ拭いていく。
……が、やってもやっても終わらない。
「ちょっと待て」
同じ尻尾を何度も拭いてるのか?
いや、違う。増えてる。明らかに増えてる。
もう、うじゃうじゃ。
“うじゃうじゃ”という言葉がここまで似合う生き物もそうはいない。
思いついた。ドライヤーだ。
ドライヤーで一本ずつ乾かせば、さすがに終わりが見えるはず。
──結果。終わらなかった。
ドライヤー、背中にくっつける。ドライヤー、背中にくっつける。
気づけば、同じ動きを延々と繰り返していた。
「待て待て待て。今、何本やった?」
乾いた尻尾を数えてみる。
一本、二本──九本。
「ちょっ……何をなさってますの? ワタクシのプリチーな尻尾に何をしてますの?」
「いいから黙ってろ。動くな、分かんなくなるだろ」
一本、二本、三本──
指先に触れるたび、尻尾がぴくぴくと小さく震える。
「十……十一、十二……十八、十九、二十……」
「まだ数えてますの!? いくつあると思ってますの!?」
「それを今数えてんだよ……二十三、二十四……二十五」
最後の一本を左手に渡し終えたところで、俺は動きを止めた。
「……二十五。」
思わず、声に出ていた。
「二十五ぉ?」
自分で数えておいて、もう一度頭の中で反芻する。
普通の狐は尻尾一本。妖怪になって九本。
そのさらに上を行く、二十五本。
「ワッサワサにも程があるだろ……っていうか、これ、全部乾かすのか……?」
思わず天井を見上げる。
ふわふわ、わっさわさ──まだまだ終わらない濡れた尻尾。
背を丸めながらドライヤーを当てるうちに、肩も背中もガチガチだ。
──もう、絶対に風呂には入れない。
俺は静かに、そう胸に誓った。
乾く気配すらない。
「お腹が空きましてよ……」
しょぼんと耳を垂らす背中に、申し訳なさがこみ上げる。
「待ってろ。動くなよ?」と声をかけて、キッチンへ向かった。
「さすがに……まんまは食えないよな」
油揚げは切られていない一枚ぺら。
コジャクから見れば、巨大な布団サイズだ。
しかも、そのまま出したら顔のまわりが油でベタベタになるのは目に見えている。
せっかく風呂に入ったのに、二回戦は勘弁だ。
手で引きちぎりながら皿を探す。
だが、当然ながら一人暮らしの男の台所に、可愛い皿などあるはずもない。
“浅い”“深い”“でかい”“小さい”──その程度のラインナップだ。
ふと、思い出した。
以前何かを買った時、オマケでついてきたプラスチックの皿があったはずだ。
花とミツバチの絵が描かれた、やたら可愛いアレ。
吉井さんにあげようかと思ったが、あまりに幼すぎてやめたんだった。
棚の上を見上げると、箱ごと鎮座していた。
「ここか……」
箱を開け、皿を取り出す。
ついでに病院でもらったペット用のフードパウチを絞り出し、その上に油揚げをトッピング。
「おぉ……美味そうじゃん」
まるでお子様ランチのようなビジュアル。
てっぺんに国旗でも立てたら完成だ。
自画自賛しつつ、皿を持って行き「ほら」と差し出した。
「やはりセンスのない人間は、何をしてもセンスがありませんことね。」
ズバッと刺さった。
俺の心にクリーンヒット。
思わず皿を引き戻しかける。
「……食いたくなきゃ、食わなくていいんだぞ」
「それしかありませんのでしょ? いただきますわ」
「食うなら文句言うな!」
そう言って皿を置き直すと、コジャクはふくれっ面のまま、はぐはぐと食べ始めた。
それがあまりにも美味そうで、俺の腹まで鳴りそうになる。
だが、その前に俺にはもう一つミッションが残っていた。
──あのべっちょべちょの尻尾を乾かす、というやつだ。
コジャクの後ろに座り、タオルで一本ずつ拭いていく。
……が、やってもやっても終わらない。
「ちょっと待て」
同じ尻尾を何度も拭いてるのか?
いや、違う。増えてる。明らかに増えてる。
もう、うじゃうじゃ。
“うじゃうじゃ”という言葉がここまで似合う生き物もそうはいない。
思いついた。ドライヤーだ。
ドライヤーで一本ずつ乾かせば、さすがに終わりが見えるはず。
──結果。終わらなかった。
ドライヤー、背中にくっつける。ドライヤー、背中にくっつける。
気づけば、同じ動きを延々と繰り返していた。
「待て待て待て。今、何本やった?」
乾いた尻尾を数えてみる。
一本、二本──九本。
「ちょっ……何をなさってますの? ワタクシのプリチーな尻尾に何をしてますの?」
「いいから黙ってろ。動くな、分かんなくなるだろ」
一本、二本、三本──
指先に触れるたび、尻尾がぴくぴくと小さく震える。
「十……十一、十二……十八、十九、二十……」
「まだ数えてますの!? いくつあると思ってますの!?」
「それを今数えてんだよ……二十三、二十四……二十五」
最後の一本を左手に渡し終えたところで、俺は動きを止めた。
「……二十五。」
思わず、声に出ていた。
「二十五ぉ?」
自分で数えておいて、もう一度頭の中で反芻する。
普通の狐は尻尾一本。妖怪になって九本。
そのさらに上を行く、二十五本。
「ワッサワサにも程があるだろ……っていうか、これ、全部乾かすのか……?」
思わず天井を見上げる。
ふわふわ、わっさわさ──まだまだ終わらない濡れた尻尾。
背を丸めながらドライヤーを当てるうちに、肩も背中もガチガチだ。
──もう、絶対に風呂には入れない。
俺は静かに、そう胸に誓った。
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