狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

文字の大きさ
10 / 24
ゴミの中の宝石

10

しおりを挟む
 体をタオルで大雑把に拭いてやるも、尻尾だけはいつまで経ってもべっちょべちょ。
 乾く気配すらない。

「お腹が空きましてよ……」

 しょぼんと耳を垂らす背中に、申し訳なさがこみ上げる。
「待ってろ。動くなよ?」と声をかけて、キッチンへ向かった。

「さすがに……まんまは食えないよな」

 油揚げは切られていない一枚ぺら。
 コジャクから見れば、巨大な布団サイズだ。
 しかも、そのまま出したら顔のまわりが油でベタベタになるのは目に見えている。
 せっかく風呂に入ったのに、二回戦は勘弁だ。

 手で引きちぎりながら皿を探す。
 だが、当然ながら一人暮らしの男の台所に、可愛い皿などあるはずもない。
 “浅い”“深い”“でかい”“小さい”──その程度のラインナップだ。

 ふと、思い出した。
 以前何かを買った時、オマケでついてきたプラスチックの皿があったはずだ。
 花とミツバチの絵が描かれた、やたら可愛いアレ。
 吉井さんにあげようかと思ったが、あまりに幼すぎてやめたんだった。

 棚の上を見上げると、箱ごと鎮座していた。

「ここか……」

 箱を開け、皿を取り出す。
 ついでに病院でもらったペット用のフードパウチを絞り出し、その上に油揚げをトッピング。

「おぉ……美味そうじゃん」

 まるでお子様ランチのようなビジュアル。
 てっぺんに国旗でも立てたら完成だ。
 自画自賛しつつ、皿を持って行き「ほら」と差し出した。

「やはりセンスのない人間は、何をしてもセンスがありませんことね。」

 ズバッと刺さった。
 俺の心にクリーンヒット。

 思わず皿を引き戻しかける。

「……食いたくなきゃ、食わなくていいんだぞ」

「それしかありませんのでしょ? いただきますわ」

「食うなら文句言うな!」

 そう言って皿を置き直すと、コジャクはふくれっ面のまま、はぐはぐと食べ始めた。
 それがあまりにも美味そうで、俺の腹まで鳴りそうになる。

 だが、その前に俺にはもう一つミッションが残っていた。

 ──あのべっちょべちょの尻尾を乾かす、というやつだ。

 コジャクの後ろに座り、タオルで一本ずつ拭いていく。
 ……が、やってもやっても終わらない。

「ちょっと待て」

 同じ尻尾を何度も拭いてるのか?
 いや、違う。増えてる。明らかに増えてる。

 もう、うじゃうじゃ。
 “うじゃうじゃ”という言葉がここまで似合う生き物もそうはいない。

 思いついた。ドライヤーだ。
 ドライヤーで一本ずつ乾かせば、さすがに終わりが見えるはず。

 ──結果。終わらなかった。

 ドライヤー、背中にくっつける。ドライヤー、背中にくっつける。
 気づけば、同じ動きを延々と繰り返していた。

「待て待て待て。今、何本やった?」

 乾いた尻尾を数えてみる。
 一本、二本──九本。

「ちょっ……何をなさってますの? ワタクシのプリチーな尻尾に何をしてますの?」

「いいから黙ってろ。動くな、分かんなくなるだろ」

 一本、二本、三本──
 指先に触れるたび、尻尾がぴくぴくと小さく震える。

「十……十一、十二……十八、十九、二十……」

「まだ数えてますの!? いくつあると思ってますの!?」

「それを今数えてんだよ……二十三、二十四……二十五」

 最後の一本を左手に渡し終えたところで、俺は動きを止めた。

「……二十五。」

 思わず、声に出ていた。

「二十五ぉ?」

 自分で数えておいて、もう一度頭の中で反芻する。
 普通の狐は尻尾一本。妖怪になって九本。
 そのさらに上を行く、二十五本。

「ワッサワサにも程があるだろ……っていうか、これ、全部乾かすのか……?」

 思わず天井を見上げる。
 ふわふわ、わっさわさ──まだまだ終わらない濡れた尻尾。
 背を丸めながらドライヤーを当てるうちに、肩も背中もガチガチだ。

 ──もう、絶対に風呂には入れない。

 俺は静かに、そう胸に誓った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猛獣のお世話係

しろねこ。
恋愛
「猛獣のお世話係、ですか?」 父は頷き、王家からの手紙を寄越す。 国王が大事にしている猛獣の世話をしてくれる令嬢を探している。 条件は結婚適齢期の女性で未婚のもの。 猛獣のお世話係になった者にはとある領地をあげるので、そこで住み込みで働いてもらいたい。 猛獣が満足したら充分な謝礼を渡す……など 「なぜ、私が?私は家督を継ぐものではなかったのですか?万が一選ばれたらしばらく戻ってこれませんが」 「その必要がなくなったからよ、お義姉さま。私とユミル様の婚約が決まったのよ」 婚約者候補も家督も義妹に取られ、猛獣のお世話係になるべくメイドと二人、王宮へ向かったが…ふさふさの猛獣は超好み! いつまでもモフっていたい。 動物好き令嬢のまったりお世話ライフ。 もふもふはいいなぁ。 イヤな家族も仕事もない、幸せブラッシング生活が始まった。 完全自己満、ハピエン、ご都合主義です! 甘々です。 同名キャラで色んな作品を書いています。 一部キャラの台詞回しを誤字ではなく個性として受け止めて貰えればありがたいです。 他サイトさんでも投稿してます。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

処理中です...