狐は喋るし、俺は疲れてる〜25尾のキツネのコジャク〜

豊川夢久

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ゴミの中の宝石

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 投稿は後にしよう。
 そんなことを思いながら、蓮井はスマホを伏せてベッドに横になった。
 朝から疲れることばかりで、寝たら全部なかったことにならないかな──と、現実逃避という名の昼寝を決め込む。

 まぶたがゆっくりと落ちていった。

 ──気づけば、部屋の中が淡いオレンジ色に染まっていた。
 外はもう夕方だ。

 体を起こそうとしたとき、腹のあたりに妙な温かさを感じた。
 そっと視線を下げると、そこには小さく丸まったコジャクの姿。
 尻尾をもふもふと体に巻きつけ、顔を完全に隠している。
 コジャクも眠っているのか、じっと動かない。

(喋らないと……一緒にいても、静かでいいんだけどな)

「……おい。どこが顔だよ」

 尻尾をそっと持ち上げてみる。
 ──が、すぐに別の尻尾がふわりと動いて、顔を覆い隠した。
 今度は横から。
 ……やっぱりダメだ。どこからどう見ても“金色の毛玉”にしか見えない。

「……お前、綿毛の化身とかじゃないのか?」

 25本もある尻尾。
 どれを退けても、どれかが邪魔をする。
 顔が見えたと思えば、また別の尻尾が動いて塞ぐ。
 まるで意地でも姿を見せたくないらしい。

 長い格闘の末、ようやく鼻先がちょこんと覗いた。
 ぴくぴくと微かに動くそれが、なんとも言えず可愛い。
 もう少し角度を変えて──と、そっとスマホを構える。

 カシャ。

 撮れた写真は、ふわふわの尾の中にぽつんと浮かぶ、黒い鼻の一点。
 どう見ても“生物”というより“謎の生命体”。

「……いや、案外これはこれでアリかもしれないぞ」

 妙に気になる人が、もしかしたら現れるかもしれない。
 そう思いながら、写真を選択して譲渡ページの下書きに貼りつけ、“公開”を押した。

 正直、ちょっとだけドキドキしている。
 もし連絡が来たらどうしよう。
 どんな流れで譲渡するんだろう。
 もし、問い合わせが殺到したら──。

(先着順か? いや、コジャクが懐いた人を選ぶべきか? やっぱり)

 ……そんな妄想をしていたが、当然のように夜になっても反応はなかった。

 閲覧数「1」。
 登録者「0」。

「……まぁ、だよな」

 蓮井は深くため息をつき、スマホを放り投げた。
 やっぱり顔写真は必要だ。
 人間のマッチングアプリだって、顔がないとスルーされる。
 動物だって、きっと同じこと。

(……お前も、“選ばれない側”なのか)

 そう思った瞬間、胸の奥がわずかに痛んだ。
 不思議と、コジャクの寝息が少しだけ愛おしく感じた。

 ──が。

 次の瞬間、腹の上でふるふると動く気配。
 目を覚ましたコジャクが、すくっと立ち上がり、言った。

「あなた、いつになったらダージリン淹れてくださるの?!」

 その一言で、愛おしさは粉々に砕け散ったのだった。
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