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第41話 「負ける気がしない」
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「……いってぇ……」
気怠げに口を開くルーイ。
その佇まいは吐いた言葉とは違い、傷や痛みがあるようには見えず、威風堂々とすらしていた。
「あぁ……ったく……タリアとババアに何て言えばいいんだよ」
右手でガシガシと頭を掻いて七面倒臭そうに言う。
「グルルウゥアアァァアァァァ!」
魔獣はもうクレハを見ず、赤く爛々と輝く瞳をルーイへ向けていた。
まるで新しい玩具を与えられ、好きにしていいよと言われた子どものように、純粋無垢な咆哮を上げた。
そして、一瞬でルーイに肉薄する。
大上段に力一杯構えた体勢。後はコレを振り下ろすだけで目の前の玩具は壊れる。
ゆっくりとねぶるように壊した雌とは違い、雄はいきなり全力で壊し、その後にねちねちと部品を一つづつねじ切り、すり潰す。
そう考えていた。
「まぁいいや……今は目の前の問題から片付けねぇと……なっ!」
ルーイが一思いに木の棒を引き抜いた。
瞬間、今までとは比べ物にならない光が溢れ、空間を満たした。
「――――――!」
クレハも、デビルゴートすらも怯むほどの圧倒的な光。
その光は全てを包み込むように温かく、そしてどこまでも突き放すように冷たく輝く。
――光が収まる。
何が起きたのか分からず、血で霞むクレハの視界が捉えたもの。
それは件の木の棒を抜いたルーイの姿だった。
――それは木の棒ではなかった。
穂先は白藍色の鉱物で出来ていて、ルーン文字の他には見たこともない記号がビッシリと掘られている。
柄は何かの木だろう、長年の手垢と幾多の血が染み付いたようにドス黒いが不思議と嫌悪感を感じない。
口金の部分には血を編んだような細く赤い紐が二本、吹き荒れる暴風に舞っている。
石突にも穂先と同じ鉱物が埋め込まれ淡く、白藍色に輝いていた。
確実に〝封印の祠〟に関する重大な何かを伴った木の棒は、神々しさと禍々しさが混在する槍だった。
と、クレハが認識した途端、〝封印の祠〟を中心に展開されていた魔術方陣がひび割れ、まるで硝子が割れるような甲高い音と共に砕け散った。
「あー……絶対ヤベぇことした」
見る限りでは〝封印の祠〟には何の変化も訪れていない。
何かが沸き起こるわけでもなく、誰かが祠の中から踊り出てくるわけでもない。
――だが、今この世界の何かが確かに変化した。
何の根拠もないが、ルーイはそう確信した。
そして、それは地に伏すクレハも同じだった。
「グルルアアァアアァァァアァァ!」
咆哮を上げる魔獣。
先ほどの光を間近で浴び目を焼かれたのだろう、真っ赤な瞳からは更に紅い血涙が垂れ流れ、不気味な面貌が更に醜く歪んでいる。
口からは涎を吐き散らし、両手を回して暴れる様子は、まるで子どもが駄々をこねているようですらある。
「………………」
ルーイは魔獣の癇癪を冷めた目で見ながら、初めて手にする槍を自然と左前半身で構えた。
これまでのルーイの戦闘様式はナイフを用いた近接戦闘がメインで、場合によって弩《いしゆみ》を使用し遠距離狙撃と、そこに魔術を併用していくも様式だ。
剣ならハスラーと修行の一環で打ち合ったこともあったが、槍という長物を持つのは初めてだった。
なのに。
――斬。
「ゴオォォオオアアアアアアア!」
デビルゴートが振り回していた幹が、一瞬で三枚に下ろされた。
それだけではない。
掴んでいた指先までも、なます切りされている。
今宵初めて、デビルゴートが歓喜以外の感情による雄叫びを上げた。
ルーイが槍を振るう。
縦に振り下ろし、横に薙ぎ払い、斜に叩き付ける。
縦横無尽に槍を振るい、魔獣を圧倒する。
「ガアアアアァアアァァァアァァァァ!」
魔獣の咆哮すらも切り裂き、ドス黒い血雨がルーイの全身に降り注ぐ。
羽織っていた外套《がいとう》が返り血で染まる中、ルーイはいまさら自分の感覚に疑問を覚えた。
(……なんでこんなにしっくりくるんだ……?)
初めて握ったはずなのに、まるで普段使っているナイフのように、いやそれ以上に馴染む。
そんな奇妙な感覚がルーイの手に、身体に、心に浸透している。
身体能力が向上しているわけではない。身体の動きはいつも通りか、むしろ手負いで鈍いくらいだ。
だが、この槍を手にした瞬間から、ある種の全能感すら覚えている。
「……負ける気がしない」
「ゴァッ! ガッ、アアァァ」
何故これほどしっくり来るのか、とか、どうしてこんな場所にこんな槍がぶっ刺さっていたのか、とか。
疑問は尽きなかったが、それら全てを考えるのも面倒になり、ただただ無我夢中で槍を振るう。
デビルゴートもただやられるだけではない。
残ったもう片方の手で拳を握り、足を振り上げ、捻くれた角すらも使って必死に抵抗している。
そして、その攻撃の全てをルーイは防ぎ、いなし、反らして受け流す。
かと思えば、ルーイが槍で切り裂き、貫き、叩き伏せる。
先程までとは真逆の構図がそこにはあった。
気怠げに口を開くルーイ。
その佇まいは吐いた言葉とは違い、傷や痛みがあるようには見えず、威風堂々とすらしていた。
「あぁ……ったく……タリアとババアに何て言えばいいんだよ」
右手でガシガシと頭を掻いて七面倒臭そうに言う。
「グルルウゥアアァァアァァァ!」
魔獣はもうクレハを見ず、赤く爛々と輝く瞳をルーイへ向けていた。
まるで新しい玩具を与えられ、好きにしていいよと言われた子どものように、純粋無垢な咆哮を上げた。
そして、一瞬でルーイに肉薄する。
大上段に力一杯構えた体勢。後はコレを振り下ろすだけで目の前の玩具は壊れる。
ゆっくりとねぶるように壊した雌とは違い、雄はいきなり全力で壊し、その後にねちねちと部品を一つづつねじ切り、すり潰す。
そう考えていた。
「まぁいいや……今は目の前の問題から片付けねぇと……なっ!」
ルーイが一思いに木の棒を引き抜いた。
瞬間、今までとは比べ物にならない光が溢れ、空間を満たした。
「――――――!」
クレハも、デビルゴートすらも怯むほどの圧倒的な光。
その光は全てを包み込むように温かく、そしてどこまでも突き放すように冷たく輝く。
――光が収まる。
何が起きたのか分からず、血で霞むクレハの視界が捉えたもの。
それは件の木の棒を抜いたルーイの姿だった。
――それは木の棒ではなかった。
穂先は白藍色の鉱物で出来ていて、ルーン文字の他には見たこともない記号がビッシリと掘られている。
柄は何かの木だろう、長年の手垢と幾多の血が染み付いたようにドス黒いが不思議と嫌悪感を感じない。
口金の部分には血を編んだような細く赤い紐が二本、吹き荒れる暴風に舞っている。
石突にも穂先と同じ鉱物が埋め込まれ淡く、白藍色に輝いていた。
確実に〝封印の祠〟に関する重大な何かを伴った木の棒は、神々しさと禍々しさが混在する槍だった。
と、クレハが認識した途端、〝封印の祠〟を中心に展開されていた魔術方陣がひび割れ、まるで硝子が割れるような甲高い音と共に砕け散った。
「あー……絶対ヤベぇことした」
見る限りでは〝封印の祠〟には何の変化も訪れていない。
何かが沸き起こるわけでもなく、誰かが祠の中から踊り出てくるわけでもない。
――だが、今この世界の何かが確かに変化した。
何の根拠もないが、ルーイはそう確信した。
そして、それは地に伏すクレハも同じだった。
「グルルアアァアアァァァアァァ!」
咆哮を上げる魔獣。
先ほどの光を間近で浴び目を焼かれたのだろう、真っ赤な瞳からは更に紅い血涙が垂れ流れ、不気味な面貌が更に醜く歪んでいる。
口からは涎を吐き散らし、両手を回して暴れる様子は、まるで子どもが駄々をこねているようですらある。
「………………」
ルーイは魔獣の癇癪を冷めた目で見ながら、初めて手にする槍を自然と左前半身で構えた。
これまでのルーイの戦闘様式はナイフを用いた近接戦闘がメインで、場合によって弩《いしゆみ》を使用し遠距離狙撃と、そこに魔術を併用していくも様式だ。
剣ならハスラーと修行の一環で打ち合ったこともあったが、槍という長物を持つのは初めてだった。
なのに。
――斬。
「ゴオォォオオアアアアアアア!」
デビルゴートが振り回していた幹が、一瞬で三枚に下ろされた。
それだけではない。
掴んでいた指先までも、なます切りされている。
今宵初めて、デビルゴートが歓喜以外の感情による雄叫びを上げた。
ルーイが槍を振るう。
縦に振り下ろし、横に薙ぎ払い、斜に叩き付ける。
縦横無尽に槍を振るい、魔獣を圧倒する。
「ガアアアアァアアァァァアァァァァ!」
魔獣の咆哮すらも切り裂き、ドス黒い血雨がルーイの全身に降り注ぐ。
羽織っていた外套《がいとう》が返り血で染まる中、ルーイはいまさら自分の感覚に疑問を覚えた。
(……なんでこんなにしっくりくるんだ……?)
初めて握ったはずなのに、まるで普段使っているナイフのように、いやそれ以上に馴染む。
そんな奇妙な感覚がルーイの手に、身体に、心に浸透している。
身体能力が向上しているわけではない。身体の動きはいつも通りか、むしろ手負いで鈍いくらいだ。
だが、この槍を手にした瞬間から、ある種の全能感すら覚えている。
「……負ける気がしない」
「ゴァッ! ガッ、アアァァ」
何故これほどしっくり来るのか、とか、どうしてこんな場所にこんな槍がぶっ刺さっていたのか、とか。
疑問は尽きなかったが、それら全てを考えるのも面倒になり、ただただ無我夢中で槍を振るう。
デビルゴートもただやられるだけではない。
残ったもう片方の手で拳を握り、足を振り上げ、捻くれた角すらも使って必死に抵抗している。
そして、その攻撃の全てをルーイは防ぎ、いなし、反らして受け流す。
かと思えば、ルーイが槍で切り裂き、貫き、叩き伏せる。
先程までとは真逆の構図がそこにはあった。
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