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尾行
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街に出てみると、案外平穏そのものだった。
(……ルシルの件もあったし、もっと殺伐としていると思っていたが…)
……いや、自分が未だ戦争の影から抜け出せていないのかも知れない。目を閉じればいつだって思い浮かぶ、血の焦げる匂いと、鮮血の色彩。
(『超人部隊』も今、生存が確認できているのはアラクネだけだ……他は…きっと…)
……そんな事を考えていると、ふと足が止まった。金槌の音だ。
一定のリズムで鉄を打つ音が響いている。
「……探せばあるものだな」
鉄材を溶接して繋ぎ合わせたような小屋の中に、その男はいた。金床に向けて、一心に槌を振るう。男が槌を振るうたびに、明かり一つない部屋に火花が散る。
「……失礼する」
「…誰だ?」
男はこちらを見向きもせずに、金槌を振るい続けていた。
「修繕を依頼したい」
「………あん?」
こちらを向いた男の顔には、白い髭が生えていた。顔にはかなりの皺が刻まれている。歳はいくつだろうか?高齢ではありそうだが。
「……ほぉ、アンタぁその顔…」
「依頼を受けてくれるか?」
「その前に名乗って貰いテェんだが?」
鍛治屋らしい男は、眼光鋭くシグルトを見据える。
「………悪いが、話せん」
「あ?ソイツァなんだ?『訳は話せねぇけど、仕事はして欲しい』って事か?話にならん、帰んな」
男はぶっきらぼうに返すが、シグルトは食い下がる。
「……金は払う」
「…………」
「通常の3倍だ。受けてくれないか」
「………はぁ…」
男は再び振り返ると、シグルトの顔を見据えて話し始める。
「………一つだけ聞かせろ。アンタ……正規軍か?」
「違う。訳は話せないが、これだけは断言する。俺は『アトラ正規軍』では無い」
シグルトの言葉を聞いた後、しばらく下を見て思考していた男は、やがて顔を上げると手を開く。
「5だ…通常の5倍は貰う。オメェさんが正規軍の連中ってんなら5倍でも突っぱねてたが、そうじゃねぇなら5倍で手を打ってやる。オメェさん見たいな怪しいモンの依頼は面倒ごとが多いからな、その迷惑料も入れてある………で、どうする?」
「……分かった、5倍払う。頼めるか」
「……ハンッとりあえず見せてみろ。話はそれからだ」
男はシグルトの曲剣を受け取ると、鞘から引き抜き刀身を眺める。
(……おいおい…コイツァ…)
……分かる、もう随分なげぇ事鍛治をやっているんだ。理解っちまう。
この剣は幾度となく人を、それも一人や二人でもなく、無数の人を斬り殺している。それに刃こぼれの様子もおかしい。業物の筈なのに、断頭台にかけたような刃のこぼれ方。えらい馬鹿力で叩きつけないとこうはならない。
一体何と戦ってきたんだ……
男はチラリとシグルトを見る。
(……訳は話せねぇ…か……)
普通、通常の5倍だと言われたら憤慨して出ていってもおかしくないが……それだけこの曲剣に思い入れがあるのか、或いはこの剣以外もはや使う気が無いか……
「……業物だな、ファルシオンか」
「……良く分かったな」
「この手の剣は、技量もねぇのに使いたがる馬鹿が後を絶たなくてな。ほとんど新品のまま遺品になっちまう事が多い」
男は、『ファルシオン』と呼ばれたシグルトの曲剣を眺めながら憂鬱そうに続ける。
「だが、オメェさんは……随分と使い熟してる。武器に認められてらぁな」
「……そんな事まで分かるのか」
「それが俺ァの仕事よ……少し出てな。やってやる。金はこれと引き換えに払え」
「…分かった」
シグルトは、鍛冶屋を後にすると、スラム街とは反対方向に歩き出した。
人気の無いところまで来ると、誰にでもなく呟く。
「……いつまで付けて来ている」
シグルトの言葉の後に、死角から一人の青年が薄ら笑いで姿を現した。
青年は緩やかな帯を巻いた装束を纏っている。ローブのようなもので、どことなく極東の雰囲気を感じる。出立からして剣士だろうか。リングの片耳ピアスをしているが、顔は至って穏やかで好青年。だが、その顔がどこか怪しい雰囲気を醸し出している。
青年は穏やかに話し始める。
「なぁんだ、バレていたんですか」
青年は鈴のような声で穏やかに呟く。
「……要件は何だ」
「いえいえ、ただ気になりましてね。あなた方が……」
右手を出しつつ、青年は続ける。
「『超人部隊』だと聞きまして」
「………」
シグルトは、腰裏に隠したナイフを引き抜くと、殺気を放つ。
「おぉっと、怖い怖い。まだ何も言ってないじゃあ無いですか」
「……何が目的だ」
「いえいえ、言ったでしょう?僕はただ気になっただけですよ」
「……違うと言ったら?」
「う~ん…あなた達が話してたんだし、そんな事は無いと思うんだけど……」
青年は困ったような顔をした後に、再び穏やかに微笑むと言葉を紡ぐ。
「じゃあ、また会いに来ますね。その時にもう一度お話ししましょう」
青年は踵を返して、歩いて行く。
「……おい、逃げる…ッ……?」
ヒュウと風が吹き、目をかばって視界を遮る。再び前を向いた時には、既に青年の姿は無かった。
「……厄介な奴に目をつけられたな」
………足元付近まであるローブに足を取られずに歩いていた。姿勢から見ても手練だろう。一番厄介なのは何を考えてるかが分からない所だ。あの微笑みの下で一体何を企んでいるのだろうか。
とりあえずナイフをしまう。
(アラクネに報告するべきか?いや、また付けられている可能性もあるが………)
シグルトの視線は、だんだんと捕食者の眼光に変わる。
(……どうする、アラクネに報告しに戻るか?いや……奴が『正規軍』と通じている可能性もある。このまま追って………殺すか?)
少しして、シグルトはふぅと一息つくと首を振って思考を続ける。
(……落ち着け、もう戦争は終わった)
そもそも『正規軍』と通じていて殺そうと近寄って来ていたのならば、今頃俺はあの怪しい青年と殺し合いをしている最中だっただろう。それも『正規軍』に情報が伝わっていればの話だ。しかも自分で「また来る」と言っていた。人気の無い場所なのだ、殺すにしても機会を改める必要は無かっただろう。
第一、奴が『正規軍』と通じている確証は無い。
「……どちらにせよ、武器を受け取ってからの方が良さそうだな」
シグルトは武器の修繕が終わる数日間、どうやってアラクネを相手すれば良いのか頭を抱えた。
(……ルシルの件もあったし、もっと殺伐としていると思っていたが…)
……いや、自分が未だ戦争の影から抜け出せていないのかも知れない。目を閉じればいつだって思い浮かぶ、血の焦げる匂いと、鮮血の色彩。
(『超人部隊』も今、生存が確認できているのはアラクネだけだ……他は…きっと…)
……そんな事を考えていると、ふと足が止まった。金槌の音だ。
一定のリズムで鉄を打つ音が響いている。
「……探せばあるものだな」
鉄材を溶接して繋ぎ合わせたような小屋の中に、その男はいた。金床に向けて、一心に槌を振るう。男が槌を振るうたびに、明かり一つない部屋に火花が散る。
「……失礼する」
「…誰だ?」
男はこちらを見向きもせずに、金槌を振るい続けていた。
「修繕を依頼したい」
「………あん?」
こちらを向いた男の顔には、白い髭が生えていた。顔にはかなりの皺が刻まれている。歳はいくつだろうか?高齢ではありそうだが。
「……ほぉ、アンタぁその顔…」
「依頼を受けてくれるか?」
「その前に名乗って貰いテェんだが?」
鍛治屋らしい男は、眼光鋭くシグルトを見据える。
「………悪いが、話せん」
「あ?ソイツァなんだ?『訳は話せねぇけど、仕事はして欲しい』って事か?話にならん、帰んな」
男はぶっきらぼうに返すが、シグルトは食い下がる。
「……金は払う」
「…………」
「通常の3倍だ。受けてくれないか」
「………はぁ…」
男は再び振り返ると、シグルトの顔を見据えて話し始める。
「………一つだけ聞かせろ。アンタ……正規軍か?」
「違う。訳は話せないが、これだけは断言する。俺は『アトラ正規軍』では無い」
シグルトの言葉を聞いた後、しばらく下を見て思考していた男は、やがて顔を上げると手を開く。
「5だ…通常の5倍は貰う。オメェさんが正規軍の連中ってんなら5倍でも突っぱねてたが、そうじゃねぇなら5倍で手を打ってやる。オメェさん見たいな怪しいモンの依頼は面倒ごとが多いからな、その迷惑料も入れてある………で、どうする?」
「……分かった、5倍払う。頼めるか」
「……ハンッとりあえず見せてみろ。話はそれからだ」
男はシグルトの曲剣を受け取ると、鞘から引き抜き刀身を眺める。
(……おいおい…コイツァ…)
……分かる、もう随分なげぇ事鍛治をやっているんだ。理解っちまう。
この剣は幾度となく人を、それも一人や二人でもなく、無数の人を斬り殺している。それに刃こぼれの様子もおかしい。業物の筈なのに、断頭台にかけたような刃のこぼれ方。えらい馬鹿力で叩きつけないとこうはならない。
一体何と戦ってきたんだ……
男はチラリとシグルトを見る。
(……訳は話せねぇ…か……)
普通、通常の5倍だと言われたら憤慨して出ていってもおかしくないが……それだけこの曲剣に思い入れがあるのか、或いはこの剣以外もはや使う気が無いか……
「……業物だな、ファルシオンか」
「……良く分かったな」
「この手の剣は、技量もねぇのに使いたがる馬鹿が後を絶たなくてな。ほとんど新品のまま遺品になっちまう事が多い」
男は、『ファルシオン』と呼ばれたシグルトの曲剣を眺めながら憂鬱そうに続ける。
「だが、オメェさんは……随分と使い熟してる。武器に認められてらぁな」
「……そんな事まで分かるのか」
「それが俺ァの仕事よ……少し出てな。やってやる。金はこれと引き換えに払え」
「…分かった」
シグルトは、鍛冶屋を後にすると、スラム街とは反対方向に歩き出した。
人気の無いところまで来ると、誰にでもなく呟く。
「……いつまで付けて来ている」
シグルトの言葉の後に、死角から一人の青年が薄ら笑いで姿を現した。
青年は緩やかな帯を巻いた装束を纏っている。ローブのようなもので、どことなく極東の雰囲気を感じる。出立からして剣士だろうか。リングの片耳ピアスをしているが、顔は至って穏やかで好青年。だが、その顔がどこか怪しい雰囲気を醸し出している。
青年は穏やかに話し始める。
「なぁんだ、バレていたんですか」
青年は鈴のような声で穏やかに呟く。
「……要件は何だ」
「いえいえ、ただ気になりましてね。あなた方が……」
右手を出しつつ、青年は続ける。
「『超人部隊』だと聞きまして」
「………」
シグルトは、腰裏に隠したナイフを引き抜くと、殺気を放つ。
「おぉっと、怖い怖い。まだ何も言ってないじゃあ無いですか」
「……何が目的だ」
「いえいえ、言ったでしょう?僕はただ気になっただけですよ」
「……違うと言ったら?」
「う~ん…あなた達が話してたんだし、そんな事は無いと思うんだけど……」
青年は困ったような顔をした後に、再び穏やかに微笑むと言葉を紡ぐ。
「じゃあ、また会いに来ますね。その時にもう一度お話ししましょう」
青年は踵を返して、歩いて行く。
「……おい、逃げる…ッ……?」
ヒュウと風が吹き、目をかばって視界を遮る。再び前を向いた時には、既に青年の姿は無かった。
「……厄介な奴に目をつけられたな」
………足元付近まであるローブに足を取られずに歩いていた。姿勢から見ても手練だろう。一番厄介なのは何を考えてるかが分からない所だ。あの微笑みの下で一体何を企んでいるのだろうか。
とりあえずナイフをしまう。
(アラクネに報告するべきか?いや、また付けられている可能性もあるが………)
シグルトの視線は、だんだんと捕食者の眼光に変わる。
(……どうする、アラクネに報告しに戻るか?いや……奴が『正規軍』と通じている可能性もある。このまま追って………殺すか?)
少しして、シグルトはふぅと一息つくと首を振って思考を続ける。
(……落ち着け、もう戦争は終わった)
そもそも『正規軍』と通じていて殺そうと近寄って来ていたのならば、今頃俺はあの怪しい青年と殺し合いをしている最中だっただろう。それも『正規軍』に情報が伝わっていればの話だ。しかも自分で「また来る」と言っていた。人気の無い場所なのだ、殺すにしても機会を改める必要は無かっただろう。
第一、奴が『正規軍』と通じている確証は無い。
「……どちらにせよ、武器を受け取ってからの方が良さそうだな」
シグルトは武器の修繕が終わる数日間、どうやってアラクネを相手すれば良いのか頭を抱えた。
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