月下のヴェアヴォルフ

幽零

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刺斬

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「また会えて嬉しいですよ」

怪しい微笑みを浮かべる青年は、にこやかにシグルトに話しかける。

「ここでは少し目立ちますね」

そう言うと、青年は酒場のマスターらしき人間と二、三言葉を交わした後、何かを受け取る。

「僕に着いてきて下さい」

青年は穏やかに話すと、酒場の奥にある下り階段へと向かった。

「……ん?大丈夫。罠なんて有りませんよ」

笑いつつ話す青年を見て、シグルトは小声でアラクネに指示を出すと青年の後を着いていく。



「……この場所は地下にあるのに、さらに下に行くのか?」

「あなた方にとっても、その方が都合が良いと思いまして。あんな面々の前で正体を言われたくは無いでしょう?」

「………」


階段を下がりきった所に、鉄製の扉が現れる。青年はマスターから受け取った鍵を差し込むと、扉を開く。


扉の奥には、闘技場のような場所があった。傍らには上の酒場よりも質の良いソファやベッドなどもある。

「まぁ、この酒場のVIPルームのような感じですよ。機密性も充分。その扉もこの部屋も完全に防音です」

「………」

シグルトは警戒しつつ、闘技場のような円形のタイルが並ぶ床の上へと立つ。

「とはいえ、使われ方は拷問やお偉いさん方の性的娯楽に使われてるのが殆ど。まぁ、そこらにある家具や什器は良い品質のものです。そちらのお連れの方は休まれては?」

「……」

アラクネは警戒しつつも、ソファに腰掛ける。


それを見てにこりと笑うと、青年はシグルトの前まで歩くと、正面に立つ。

「では、構えて下さい」

「……何」

「あなた方と話がしたいのは本当なのですが、どうにも私と話す前に一度手を合わせた方が疑いも晴れると思いまして」

青年は帯を巻いたローブのしたから、一振りの剣を出した。

(長い……いや、それだけじゃない。重心のばらつきも無い。あれはただのロングソードでは無いな……恐らくは刺突直剣の類か…)

曰く、刺すも斬るも可能な剣だ。業物に相違ない。

「……俺には戦う利点がない」

「ん~……あ、賞金稼ぎ達を唆したのは僕です。これで理由は出来たのでは?」

「……なんだと」

「ですから、あなた方の情報をそれとなく彼らに流したのですよ。そうすれば貴方たちはここに来ると思いましてね」


表情を見るに本当らしい。青年は刺突直剣を片手で構えると、シグルトに剣を抜くように仕草をする。


「………覚悟はいいな」


シグルトは両腰からファルシオンを引き抜くと、構えた。月は出ていない。だが、関係ない。


「では……」


青年はゆらりと動くと、そのまま流れるような動作で仕掛けてくる。リーチを生かした刺突攻撃……だが。


「……甘いぞ」

「…おっと」

シグルトは青年の刺突直剣が当たる直前に、ファルシオンの刃の丸みを生かして受け流す。剣を流された青年は正面が空いてしまった。


(……終わりだ)


シグルトはもう片方に手にしたファルシオンを振りかざす。


「……グッ!?」


だが青年は刺突直剣を離さないまま、受け流された遠心力を利用して、回し蹴りを放つ。不意をつかれたシグルトは直撃してしまった。


「……二刀流ですが、受け流しパリィができるとは……武器に見合った腕前をお持ちのようですね」

青年はにこやかに笑う。


(……刺突直剣に気を取られていた。丈の長いローブは足さばきを読み取らせない為の装備か…リーチを生かした立ち回りかと思いきや……この男…)


この男、剣術だけでなく格闘術にも覚えがある。恐らく戦闘スタイルは、刺突直剣の剣術と格闘術の組み合わせ。


(あの動き辛そうなローブに足を取られずに動けるだけでも高い技量が伺える……これは油断すれば…負けるかもな)


シグルトはファルシオンを逆手持ちに持ち変え、姿勢を低くする。

「おや」


青年も察したようだ。方針はヒットアンドアウェイの立ち回りに切り替える。

「では、僕も」

青年は刺突直剣を水平に構え、左手を添える。刺突による致命傷狙いだろう。


(ならば……)


シグルトは脚に力を入れて駆け出す。


(技の発動前に仕掛けるッ!!)

シグルトのファルシオンが、動き出す前の青年に向かって振り抜かれる。



……だが。


「………ッッ!?」


振り抜いたファルシオンは、添えられた左手によって受け流された。

(手甲をしているから予測は出来た筈ッ!だが……裏拳で「受け流しパリィ」だとッ!?)



その技には、見覚えがあった。



(『受け流しからの致命打パリィスタブ』ッ!!?)



青年の真の狙いは発動速度に物を言わせた刺突では無く、相手の攻撃を受け流した後の隙を狙った一撃だった。

青年の刺突直剣は、シグルトの胸元目掛けて一直線に飛んでくる。


だが、それは直撃寸前でピタリと止まった。


「……なぜ止める」

「いやいや…貴方の曲剣、僕の首元にかかっているじゃないですか」


青年とシグルトは、お互い寸前の状態で硬直していた。


(……この人…僕にパリィされた筈なのに、その後もう片方の手で相打ちを狙ってきた…なるほど…やっぱり彼らは本物だ…)

青年は微笑みの裏で思考を回す。

そう、シグルトは自身の攻撃を受け流されたあの瞬間、もう片方の手に持ったファルシオンで青年の首を狙っていた。


青年は剣を下げると、横目でアラクネを見て言葉を紡ぐ。

「もう決着は着きましたから、そんなに警戒しないで下さい。もとより、殺すつもりは有りませんから」

言われて、アラクネは射出寸前のワイヤーを巻きとった。

「では、改めて聞きたいのですが。あなた方は『超人部隊モンスターズ』なのですか?」

聞かれたシグルトは、ファルシオンを納刀しながら答える。

「………それを知ってどうするんだ」

対して青年は、相変わらず微笑みながら言葉を紡ぐ。

「間違っていたら申し訳ないのですが、貴方たちは『アトラ正規軍』を敵に回しているのでは?」

青年は続ける。

「果ては、この国の英雄…ルシルすら殺そうとしている…違いますか?」

青年の言葉に対して、ソファで寝そべっていたアラクネが答える。

「それで?何が言いたいんだよ君」

「僕も、貴方たちの旅に同行したい」

「………」


シグルトは、青年の腹の底を見据えかねていた。

「……何故だ。ハッキリ言うが、賞金稼ぎでもした方が余程儲かるだろう。それほどの腕前だ」

シグルトの言葉に、青年は困ったような顔をして答えた。

「僕には、ある目的がありまして。その為には『アトラ正規軍』を敵に回すしか道が無いのです。つまり、僕と貴方たちは利害が一致する」

そこまで言うと、アラクネがソファの上から再び口を挟む。

「それよりさ、いい加減名乗ってよ。口説くの下手か?」

「おっと、これは失礼」

青年は姿勢を正すと、シグルトとアラクネに向かって言葉を発する。


「僕は『ダンテ』。貴方たち『超人部隊モンスターズ』の……まぁ、ファンのようなものですよ」



怪しい微笑みの青年、ダンテと名乗るその男は、未だ腹の底を見せずにいた。


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