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第一章 始まり
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お風呂を出た僕はシュウさんのでかいTシャツを着た。僕の来ていた服は全部処分されてしまっていて、今はシュウさんの服しか着させて貰えない。シュウさんの服なので当たり前だが.....デカい。だから僕が着るとワンピースみたいになってしまう。
と、それは置いといて。
早くこの部屋から出なくては。
もう、仕込みは終わったからあとは僕の合図次第だ。
ドキドキしながらチラリとリビングの方を覗くと、ちょうどパンツ一丁のシュウさんがこちらに背を向けていた。
(今だ!!)
寝室を出て、リビングの玄関へ続くドアの元へと忍び足で駆ける。そして音を立てずにドアを開けスルりとリビングから出た。寝室のドアを音もなく閉めるのは難しかった為、少し開いたままになっている。それがシュウさんに見つかるのは時間の問題だ。だから早くこのおぞましい部屋から出なくちゃいけない。
(でももうあとは玄関だけだ。シュウさんはまだ調理中で、しかも今まで僕が逃げる素振りをしなかったからか、そこまで警戒してないように見える。だけど、なんか――)
なんだか簡単にここまで来れたせいかなんとも言えない不安と違和感が僕を襲う。玄関へと続く廊下で立ち止まった僕はなにか見落としていないか考えるが、そんなもの見当たらずただただ不安が募るだけだった。
(......そうだ。なんか見張られてるような.....見張られてる?)
僕は急いで振り返った。
しかしそこには誰もいない。
「はぁ....考えすぎかな。もう後には引けないんだし、行くしかないよね」
もうリッパーで斬ってしまった。前に進むしかない。
そう決心すると僕は玄関の方を見据え足を進めた。
しかしその時――
「どこ行くんだ」
「っ!?!?」
聞こえた声から距離を取るように玄関側へ飛び退く。顔を上げると僕を無表情で見下ろすシュウさんが立っていた。
(いつの間に!?)
音もなく、気配もなく、そして影子の揺らぎもなかった。
いや、影子の揺らぎに関してはもう捨てていた。この人には何故か揺らぎがない。まるで透明人間のようだからだ。だから音と気配に注意していた。
なのに、こうも気づけないとは!
「テメェが影子の揺らぎを見れるように俺だって見れるんだぜ?寝室を出て俺に用かと思ったんだが、コソコソと玄関に向かってくじゃねぇか!!それでもまだ、思い直して戻るっつうなら見て見ぬふりしようと思ってたんだが.....」
見張られてる感覚は影子を通して見られていたからか!!クソっ!見落としてた。
僕ができるんだからシュウさんもできる可能性を考えるべきだった。影子の揺らぎを見ることは僕にしかできないことだと思っていた自分を殴ってやりたい。
今まで周りにできる人が居なかったせいで天狗になっていた自分をっ!!
「見て見ぬふりをしてやろうと思ったのに.....テメェは足を進めた。それは俺から逃げる行為だぞ」
「.......」
ゆっくりとだがシュウさんが一歩一歩近づいてくる。その分僕も後ろに下がるのだが、ついにトンと背がドアにぶつかった。これ以上は下がれない。
しかしシュウさんはそこで足を止めた。その距離約2メートル。玄関の段差があるためシュウさんの顔がいつもより上にあって、見上げるのが辛い。でもここで目を逸らすと僕が終わるので逸らすことは出来ない、しちゃいけない。
「何とか言えよオイ」
「......」
ゴクリと唾を飲む。
真っ赤な瞳は僕をずっと見つめており、その赤のせいで身が竦みそうだった。
でも、踏ん張る。
「......」
「......」
僕とシュウさんの間に漂う緊迫した空気が高まるのを感じる。
そして遂にーー
「テメェ.....俺から逃げるんならその脚切り落とすっつったよなぁァ!!!」
(今だ!)
「助けて!!!」
シュウさんが一歩踏み出した瞬間そう叫ぶと、シュウさんの顔に縦状の一本の赤い線が刻まれた。
ブシュッ!!
「は?っ、がぁぁああああ!?!?」
手で顔を抑えているが、指の隙間から血が流れている。
僕は混乱しているだろうシュウさんを尻目にいつの間にか斬り崩されているドアを踏みつけ外に出た。
あともう少し.....。
「待て弥斗ォ!!!」
振り向くと顔と手を血塗れしたシュウさんが怒りの表情で、下に降りる階段を塞ぐように立っていた。顔の右側を抑えるように手で抑えているため、右目か何かを負傷したのだろう。思ったより攻撃が浅くて僕は後悔するが、もうシュウさんに傷をつけることは出来そうにない。
「階段はこっちだぜ?....あ?なんでそんなフラフラして――」
「僕はフラフラしてません。このマンションがフラフラしているのです」
「は?」
シュウさんの呆けた声と共に轟音が響く。
そしてガゴンッ!!と大きな音が鳴ったと思ったら身体が傾いた。
(ユーベラスが崩壊を始めたんだ!!)
轟音轟かすユーベラス。
それでも追いかけようとしてくるシュウさんから逃げなければ。今しかない。
「では、さようなら!!願わくば死ね!!!」
僕はシュウさんが居る方向とは逆の方に走り出し、そして飛び出した。空にへと。
「クソがああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
背後からの背筋も凍りそうな叫びにビビるが決して振り返りはしない。
僕はここから出るんだ!
自分が監禁されているのがかの有名な『ユーベラス』ということを教えてくれたのは優斗さんだ。どういうつもりで教えてくれたのか分からないが、ユーベラスについてはテレビの特集でその外装や立地は知っていた。だからユーベラスは15階建ての横広いマンションで、その隣には10階建ての普通にマンションがあるというのも知っている。
僕が監禁されてるのはきっと、多分、おそらく!最上階だから隣のマンション向かって飛び降りれば助かるかもしれない。なに、降りるのはほんの5階分だ。
シュウさんも予測できまい。
だから空にへと飛び出した。
この後は....
「信じてるよ!?!?」
切り裂く刃!!
そう念じると正方形の瓦礫がユーベラスから僕の足元に弾き出された。
それを踏み次に足を踏み出そうとすると、そこには既に正方形の瓦礫が。
僕は階段を下るように、時には登るように高さを調整しながら何とかユーベラスの隣のマンションの屋上に降り立った。
時間でいえば数秒の出来事だ。
ユーベラスを振り向けば土煙と悲鳴、轟音が未だに響き渡っている。
僕はそれを見届けることもせず、ただシュウさんから逃げきれた喜びを噛み締めこのマンションを後にした。
と、それは置いといて。
早くこの部屋から出なくては。
もう、仕込みは終わったからあとは僕の合図次第だ。
ドキドキしながらチラリとリビングの方を覗くと、ちょうどパンツ一丁のシュウさんがこちらに背を向けていた。
(今だ!!)
寝室を出て、リビングの玄関へ続くドアの元へと忍び足で駆ける。そして音を立てずにドアを開けスルりとリビングから出た。寝室のドアを音もなく閉めるのは難しかった為、少し開いたままになっている。それがシュウさんに見つかるのは時間の問題だ。だから早くこのおぞましい部屋から出なくちゃいけない。
(でももうあとは玄関だけだ。シュウさんはまだ調理中で、しかも今まで僕が逃げる素振りをしなかったからか、そこまで警戒してないように見える。だけど、なんか――)
なんだか簡単にここまで来れたせいかなんとも言えない不安と違和感が僕を襲う。玄関へと続く廊下で立ち止まった僕はなにか見落としていないか考えるが、そんなもの見当たらずただただ不安が募るだけだった。
(......そうだ。なんか見張られてるような.....見張られてる?)
僕は急いで振り返った。
しかしそこには誰もいない。
「はぁ....考えすぎかな。もう後には引けないんだし、行くしかないよね」
もうリッパーで斬ってしまった。前に進むしかない。
そう決心すると僕は玄関の方を見据え足を進めた。
しかしその時――
「どこ行くんだ」
「っ!?!?」
聞こえた声から距離を取るように玄関側へ飛び退く。顔を上げると僕を無表情で見下ろすシュウさんが立っていた。
(いつの間に!?)
音もなく、気配もなく、そして影子の揺らぎもなかった。
いや、影子の揺らぎに関してはもう捨てていた。この人には何故か揺らぎがない。まるで透明人間のようだからだ。だから音と気配に注意していた。
なのに、こうも気づけないとは!
「テメェが影子の揺らぎを見れるように俺だって見れるんだぜ?寝室を出て俺に用かと思ったんだが、コソコソと玄関に向かってくじゃねぇか!!それでもまだ、思い直して戻るっつうなら見て見ぬふりしようと思ってたんだが.....」
見張られてる感覚は影子を通して見られていたからか!!クソっ!見落としてた。
僕ができるんだからシュウさんもできる可能性を考えるべきだった。影子の揺らぎを見ることは僕にしかできないことだと思っていた自分を殴ってやりたい。
今まで周りにできる人が居なかったせいで天狗になっていた自分をっ!!
「見て見ぬふりをしてやろうと思ったのに.....テメェは足を進めた。それは俺から逃げる行為だぞ」
「.......」
ゆっくりとだがシュウさんが一歩一歩近づいてくる。その分僕も後ろに下がるのだが、ついにトンと背がドアにぶつかった。これ以上は下がれない。
しかしシュウさんはそこで足を止めた。その距離約2メートル。玄関の段差があるためシュウさんの顔がいつもより上にあって、見上げるのが辛い。でもここで目を逸らすと僕が終わるので逸らすことは出来ない、しちゃいけない。
「何とか言えよオイ」
「......」
ゴクリと唾を飲む。
真っ赤な瞳は僕をずっと見つめており、その赤のせいで身が竦みそうだった。
でも、踏ん張る。
「......」
「......」
僕とシュウさんの間に漂う緊迫した空気が高まるのを感じる。
そして遂にーー
「テメェ.....俺から逃げるんならその脚切り落とすっつったよなぁァ!!!」
(今だ!)
「助けて!!!」
シュウさんが一歩踏み出した瞬間そう叫ぶと、シュウさんの顔に縦状の一本の赤い線が刻まれた。
ブシュッ!!
「は?っ、がぁぁああああ!?!?」
手で顔を抑えているが、指の隙間から血が流れている。
僕は混乱しているだろうシュウさんを尻目にいつの間にか斬り崩されているドアを踏みつけ外に出た。
あともう少し.....。
「待て弥斗ォ!!!」
振り向くと顔と手を血塗れしたシュウさんが怒りの表情で、下に降りる階段を塞ぐように立っていた。顔の右側を抑えるように手で抑えているため、右目か何かを負傷したのだろう。思ったより攻撃が浅くて僕は後悔するが、もうシュウさんに傷をつけることは出来そうにない。
「階段はこっちだぜ?....あ?なんでそんなフラフラして――」
「僕はフラフラしてません。このマンションがフラフラしているのです」
「は?」
シュウさんの呆けた声と共に轟音が響く。
そしてガゴンッ!!と大きな音が鳴ったと思ったら身体が傾いた。
(ユーベラスが崩壊を始めたんだ!!)
轟音轟かすユーベラス。
それでも追いかけようとしてくるシュウさんから逃げなければ。今しかない。
「では、さようなら!!願わくば死ね!!!」
僕はシュウさんが居る方向とは逆の方に走り出し、そして飛び出した。空にへと。
「クソがああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
背後からの背筋も凍りそうな叫びにビビるが決して振り返りはしない。
僕はここから出るんだ!
自分が監禁されているのがかの有名な『ユーベラス』ということを教えてくれたのは優斗さんだ。どういうつもりで教えてくれたのか分からないが、ユーベラスについてはテレビの特集でその外装や立地は知っていた。だからユーベラスは15階建ての横広いマンションで、その隣には10階建ての普通にマンションがあるというのも知っている。
僕が監禁されてるのはきっと、多分、おそらく!最上階だから隣のマンション向かって飛び降りれば助かるかもしれない。なに、降りるのはほんの5階分だ。
シュウさんも予測できまい。
だから空にへと飛び出した。
この後は....
「信じてるよ!?!?」
切り裂く刃!!
そう念じると正方形の瓦礫がユーベラスから僕の足元に弾き出された。
それを踏み次に足を踏み出そうとすると、そこには既に正方形の瓦礫が。
僕は階段を下るように、時には登るように高さを調整しながら何とかユーベラスの隣のマンションの屋上に降り立った。
時間でいえば数秒の出来事だ。
ユーベラスを振り向けば土煙と悲鳴、轟音が未だに響き渡っている。
僕はそれを見届けることもせず、ただシュウさんから逃げきれた喜びを噛み締めこのマンションを後にした。
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