狂った世界に中指を立てて笑う

キセイ

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第九章 心乱れる10月

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「おい!?」


驚いたような声に、ふわふわしていた頭がハッと覚醒する。
僕が呼ばれたのか?と委員長を見るが、彼は苦い顔で娯楽室中心の方を向いていた。

視線の先を辿れば、中心でペタンと座り込む生徒の姿がある。彼は確か....さっき委員長を呼び止めていたΩの子だ。

ザワザワ
ザワザワ

Ωを囲んで生徒達は口々に言う。

「....甘い、匂いがする」
「....いい匂いがする」
「....な、んだ....これ」
「....身体....あつい」
「....触れたい」
「....うぁ.....」


血の気が引いた。
とろんとした目で、蕩けた瞳で、期待するような眼差しで、Ωの彼は自身を囲む男達を仰ぎ見ている。


「ど、どうしたんだよ!?」


どうやら先程大きな声をあげたのは兎君だったらしい。兎君は座り込むΩ君のパートナーなのか、心配そうに彼の背中を支えている。

兎君は娯楽室を覆う異様な雰囲気に気づいていない。

息を荒らげて座り込むΩの姿に、足元ふらつく様子でΩに近づくαの姿に、思考を鈍くさせるほど甘ったるいこの匂いに――


「兎君っ!!!!」


そこに居るのは危険だ!
助けようと駆け出す。しかし、後ろから引っ張られるように腕を掴まれた。


「委員長!う、兎君が....っ、手を離してください!」

「黙れ!!今はこっから出ることが優先だ!」


そう言って委員長はドアを蹴破った。バキンっと大きな音を立てドアは廊下に踏み倒される。瞬間、火照った頬に冷たい空気が触れた。肺に回るのは新鮮な空気。

引きづられるように連れ出され、歩く度に足が縺れる。

落ち着かせるように、溺れたかのように、何度も息を吸い込んでは吐き出す。
....毒だ。娯楽室を充満していたのはフェロモンという名の毒だった。知らず知らずのうちに甘く漂うソレに脳が、身体が、侵されていた。


「気をしっかり持て!馬鹿野郎ども!!」


喝を入れるような声に背筋が伸びた。
ふらつきそうになりながらも兎君を探す。娯楽室内は委員長の喝と入り込む新鮮な空気のおかげか、熱は冷めていないながらも理性を幾分取り戻した生徒たちがちらほら居る。彼らは周りに声をかけ、正気を保つよう言い回っていた。


「お前は中に入んな。廊下も直にヤバくなる」

「ですが....!!」

「燈弥っ」

「ケーキ君!?」


僕を離さない委員長に対し抗議も辞さないと息巻く。だけど会話を割るようにケーキ君が現れる。その腕に抱くのはぐったりとしながらも息を荒らげる兎君の姿が。


「兎君は大丈夫ですか!?」

「わっかんねぇ....とりあえずここから離れた方がいい」

「そ、うですね。ですが他の生徒達はどうします?放置はシャレにならない結果を産みそうな気がするんですが」

「そこんとこ緋賀はどうなんだよ」


剣呑な目つきで委員長を睨むケーキ君。彼が委員長の前に自ら現れるなんてよっぽどの事ではないだろうか?


「知るか....と言いてぇところだが、これは確かに度が過ぎている。あ~っ、クソが!!一条は湊都を連れて避難しろ。だが決して部屋には入るな。....おい浪木、テメェは俺様についてこい。あいつらを縛りあげて​────」


途端、委員長は難しい顔をして口を閉じた。何かあったのだろうか?
委員長の言う通り、ひとりひとり縛り上げて部屋に入れとけば不幸な事故で番は生まれないはずだ。

.....あ、れ?

あぁ、ダメだ。頭が機能していない。なんで委員長が口を閉じたのか今やっとわかった。

放送で『24:00に本校舎から生徒達が戻ってくる』と言っていた。つまり縛り上げて部屋に入れておくのは悪手。最悪フェロモンに誘われ本校舎から帰ってきたβがΩを襲う可能性がある。αも然り。


「めんどくせぇ、超絶めんどくせぇ....二手に別れるぞ。浪木は娯楽室の連中が暴走しないよう見てろ。俺様は寮監のところに行って、アイツらの部屋割を見てくる」

「命令すんじゃねぇよ」

「ケーキ君お願いします」

「............燈弥の頼みなら」

「ありがとうございます。それで委員長、何か考えがあるのですか?」

「αはαで同じ部屋に突っ込む。αの発情ヒートはΩありきだ。たとえ薬で誘発されたとしても長くは続かない。Ωさえ居なけりゃあいつらは放置で構わんはずだ、じきに収まる。同室のβにゃ悪いが2日間だけ部屋移動してもらう。....問題はΩだ。こいつは俺様でもどうすることはできねぇ。Ω同士部屋に突っ込んで、事故で番にならないよう対処するしか.....」


それしか方法はないだろうね。たぶんだけど、さっきの様子からしてΩのあの子は発情期になっている。蒸気した頬、トロンとした潤む瞳、何より漂う甘い香り。
.....全くタチが悪い。強制的に発情期に陥らせるなんて。


「さっき感じた首への痛み....あれは発情期を促す類の薬だ。それも遅効性の劇物――チッ、Ωの連中の様子が危なくなってきた。俺様はもう行く。浪木はあいつら殴ってでも正気を保たせろ!」

「だから命令すんじゃねぇ!!」


委員長は廊下の先へ、ケーキ君は兎君を僕に渡すと娯楽室の中にへと消えていった。










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