仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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牙を剥く狼

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「やっぱ誤魔化せないか。兄さんの香りが、まだ僕専用じゃないって」

 発情期の性行為の最中に噛みつかない限り、番関係は成立しない。β相手にはちょっとした牽制になるような行為も、ことα同士では通用しないということだ。
 ここで相手を打ち負かさねば、永遠に柚希は手に入らない。
 和哉も幼い頃よりその半生をかけて柚希を愛しぬいてきた自負がある。譲ることのできない正念場に、和哉は顔色を変えいよいよ余裕をかなぐり捨てた。

「でていけ!    兄さんは渡さない!」
「自分で中に俺を招いた、さっきまでの余裕どこから来たんだ?    俺ならこんな状態の柚希に絶対に近寄らせない。傲慢だな? 和哉。お前はいつだってそうだ。柚希の愛情に胡坐をかいて、当たり前だと思ってる。それがどんなに価値のあることなのか、お前は何もわかっていない!」
「.......あんたこそ無視されたなら、今朝、直接兄さんに会いに来れば良かったんじゃないの? 兄さんより大事なものがあるなんて、そんな奴には兄さんは奪わせない!」
「……大人は気楽な学生と違って色々順序だてないと行けないことがあるんだよ。お前だってそのうちわかる」

    諭すような年長者の口調に和哉はムッとする。社会人と大学生の2歳差は大きい。晶は冷静さを取り戻すと次第にペースを乱しつつある和哉を自分のルールに引き込もうとした。
 晶は肩を上下させるほどに大きく息をつくと、和哉の頭を両手で掴み上げ真っすぐに自分の方を覗きこませた。男として完成しつつある和哉は端正な面差しに翳りを宿らせ、情念に満ちた瞳は晶であってもぞっとするほど綺麗だと思えた。

「お前たちは……。本当に綺麗な兄弟だな」
「……?」

 顔かたちの造作も勿論だが、互いに想い合う二人が眩いほどに美しかった。学生時代もたまに二人が共にいるところを目にする機会があった。柚希はいつでも年下の和哉を気遣い細やかな愛情を注ぎ、和哉もそれにいつでも感じの良い柔らかな笑顔で応じ兄を立て懐いていた。そんな二人の姿を見るのが晶は嫌いではなかった。
 明るい日差しの似合う慈愛に満ちた眼差しを和哉に向け、柚希はいつでも幸せそうだった。

 晶が柚希を奪えば、おそらく確実に。
 柚希は永遠に溺愛する弟を失うことになる。

柚希……。俺が和哉の分までお前を愛するといったら? それでも俺ではお前がこれまで大切にしてきたものを一緒に守ってやれないのか?

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