267 / 295
夏祭りの思い出
17
しおりを挟む
次から次へと少年達が和哉に話しかけてくる。和哉を中心に場が賑わう明るい笑い声が生まれるから、そんな姿を目にすると兄として誇らしくてうれしい。
柚希は屋台で買ったものを手に人々が腰かけているのに習って玉石垣の端っこにちょこんと座る。後輩に慕われている様子の弟を、目の前で微笑みながら見守った。
「あ、あの……、一ノ瀬先輩」
すると和哉が少年たちに群がられているその後ろから少女がちょこんと顔を出してきた。
赤や桃色の花がついた髪留めを耳の上あたりに止め、精一杯のおめかしが愛らしい。彼女は頬を染めながら意を決したように胸の辺りに拳を握っている。
薄っすら紅が引かれた唇を緊張に震わせ、和哉に向かい何かまだ何か言いたげだ。
少女らしい恥じらいを浮かべた仕草を見れば、和哉に対する思いなど周囲にすぐに透けて見えるだろう。
(この子きっと、和哉のことが好きなんだろうな)
そう思ってにこにこと微笑んでいようと思ったのに、何故だか一抹の寂しさに見舞われる。和哉は小学生の頃からモテモテだったし、バレンタインなど自宅にチョコを持った子が訪ねてきたこともあった。
だけどどんなに告白されても和哉が誰かと付き合うことはなく、柚希はそのたびまだ和哉は自分の一番傍に居てくれると、心のどこかで安堵していた。
だけどそんな風に思うことが果たして正しいことなのかが分からず、口に出したことはない。時が来れば和哉もきっと家族や柚希の元から巣立ってしまう。だけどあと少しだけでいいから、自分の傍に居て欲しい。
(なんて……。『兄弟』にそんな風に思うのって、普通の事なのかな。俺、わかんないや)
祭りの喧騒の中ではなお、それは小さな声だったが、浴衣姿の少女の一人が少年たちを黙らせるようににらみを利かせ、彼らはみな喋るのを止めた。
「大学、お忙しいと思うのですが、たまに部にお顔を出してくださると、みんなすごくやる気が出て……。喜ぶと思います」
彼女なりに声を張って話しかけてきた、そんな雰囲気が声に現れていた。
和哉の肩下あたりまでしか背丈のない少女は、下駄をはいた片足をけんっとつま先で立ててから、くるりと足首を回し、そしてまた足をそろえる。足元の落ち着きのなさに彼女の緊張が見て取れた。
「そうなんですよ。三年生引退して、大会負けてからみんなちょっとだらだらしちゃって……。このところすごく暑かったし。先輩が見に来てくれたら絶対気合入ると思います!」
援護射撃をしてきたのは真っ黒に日焼けした藍染の浴衣の方の少女だった。
もう一人の少女の両肩を後ろから握ってがくがく揺さぶりながら、盛り立ててくる。しかし残念ながらその勇気は空ぶってしまったようだ。
「そうか、ごめんな。お盆明けもバイトがびっしり入ってて、中々顔を出すのは難しいかな」
和哉は柚希と喋る時より落ち着いた抑揚で彼女たちに丁寧に詫びていた。柚希の知らない和哉の横顔に、少しだけ気持ちが波立つ。
柚希は屋台で買ったものを手に人々が腰かけているのに習って玉石垣の端っこにちょこんと座る。後輩に慕われている様子の弟を、目の前で微笑みながら見守った。
「あ、あの……、一ノ瀬先輩」
すると和哉が少年たちに群がられているその後ろから少女がちょこんと顔を出してきた。
赤や桃色の花がついた髪留めを耳の上あたりに止め、精一杯のおめかしが愛らしい。彼女は頬を染めながら意を決したように胸の辺りに拳を握っている。
薄っすら紅が引かれた唇を緊張に震わせ、和哉に向かい何かまだ何か言いたげだ。
少女らしい恥じらいを浮かべた仕草を見れば、和哉に対する思いなど周囲にすぐに透けて見えるだろう。
(この子きっと、和哉のことが好きなんだろうな)
そう思ってにこにこと微笑んでいようと思ったのに、何故だか一抹の寂しさに見舞われる。和哉は小学生の頃からモテモテだったし、バレンタインなど自宅にチョコを持った子が訪ねてきたこともあった。
だけどどんなに告白されても和哉が誰かと付き合うことはなく、柚希はそのたびまだ和哉は自分の一番傍に居てくれると、心のどこかで安堵していた。
だけどそんな風に思うことが果たして正しいことなのかが分からず、口に出したことはない。時が来れば和哉もきっと家族や柚希の元から巣立ってしまう。だけどあと少しだけでいいから、自分の傍に居て欲しい。
(なんて……。『兄弟』にそんな風に思うのって、普通の事なのかな。俺、わかんないや)
祭りの喧騒の中ではなお、それは小さな声だったが、浴衣姿の少女の一人が少年たちを黙らせるようににらみを利かせ、彼らはみな喋るのを止めた。
「大学、お忙しいと思うのですが、たまに部にお顔を出してくださると、みんなすごくやる気が出て……。喜ぶと思います」
彼女なりに声を張って話しかけてきた、そんな雰囲気が声に現れていた。
和哉の肩下あたりまでしか背丈のない少女は、下駄をはいた片足をけんっとつま先で立ててから、くるりと足首を回し、そしてまた足をそろえる。足元の落ち着きのなさに彼女の緊張が見て取れた。
「そうなんですよ。三年生引退して、大会負けてからみんなちょっとだらだらしちゃって……。このところすごく暑かったし。先輩が見に来てくれたら絶対気合入ると思います!」
援護射撃をしてきたのは真っ黒に日焼けした藍染の浴衣の方の少女だった。
もう一人の少女の両肩を後ろから握ってがくがく揺さぶりながら、盛り立ててくる。しかし残念ながらその勇気は空ぶってしまったようだ。
「そうか、ごめんな。お盆明けもバイトがびっしり入ってて、中々顔を出すのは難しいかな」
和哉は柚希と喋る時より落ち着いた抑揚で彼女たちに丁寧に詫びていた。柚希の知らない和哉の横顔に、少しだけ気持ちが波立つ。
11
あなたにおすすめの小説
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる