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「……っ!」
レノが驚いて立ち上ろうとするにもがっちり顔を掴まれ、その上中腰の状態で腰まで引き寄せられ動くことができない。よろけそうになる身体を支えるため、レノは必死でクレバの肩に手を置いた。
そのうちクレバの方がレノの腰を掬い上げるようにして立ち上り、熱い舌でもってさらなる侵略を開始してきた。これ以上蹂躙されてなるものかと、レノはその攻撃を許さず噛み付いて応戦する。
(くそ、キス初めてだったのに、無理やりされるだなんて、最悪だ!)
しかしクレバは噛みつかれても怯まない。むしろレノの腰が引けたのを見透かされ、クレバはさらに口内を犯してくる。
レノは親友の動きに慄き、そして日頃誰よりも頼もしいと密かに自慢に思っていた親友を傷つけたくない思いが募り、噛んだ舌の傷を慰めるようにねろり、と自分の舌で舐めとってしまった。
その動きに煽られたクレバはさらにぐっと腰を引き寄せ密着し、血の味のする舌で歯列をなぞり、刺激にびくっと震えるレノの背中を撫ぜ、一心不乱なその動きにレノは翻弄された。
互いに技巧はなく、ただひたすら舌を舌で追いかけるその動きには、それでも切ないほどに情熱が籠っていた。
「レノ……、俺のレノ」
唇を僅かに離してそう哀切にまみれた声で名前を呼ばれる。髪を撫ぜてから頭を掻き抱き再び唇を合わせてくる親友の仕草に、彼の本気の気持ちが伝わってくる。
短気で難しいところもあるレノにも辛抱強く接してくれて、何年もかけて一番心を許せる相手になってくれた。そんな彼が急にこんな風に触れてくるのはよほどのことだと、レノは身を強張らせたまま、彼が落ち着くのを待とうとこの暴挙を許してしまう。
しかし勝負強いクレバはそれを好機と取ったのか、大きな掌をシャツの中に入れてまさぐってくる。
(お前もかよ!)
何が哀しくて一度ならず二度までも男に胸をまさぐられなければならないのか。背中に縋るように回した手を使い、どんどんと叩くが、クレバは動じない。日頃穏やかだけれど物事を貫徹するまであきらめない、彼の頑固な部分が出てきて、ひたすらに攻めの姿勢を貫いてくるのが今となってはむしろ恐ろしい。
(クレバ! こいつ、大人しくしてたら調子にのりやがって)
クレバの大きな掌がレノの肌のなめらかな感触を確かめ、掌で味わうように繊細に撫ぜ続ける。
こそばゆさだけでなく未知のぞわぞわとした感覚が次々と呼び起こされる。
指先が胸のささやかな頂きに触れると、レノは未知の恐ろしさに全身を震わせた。
「んっ!……」
唇を貪られたまま身体を机に押さえつけられて、親友の手練になすがままになる。感じまいとするが自らの足の間にむずむずとした兆しが沸き起こり、どうして良いか分からなくなりひたすら暴れた。
しかし体術にも優れたクレバは、絶対にマウントを譲らない。レノが拳で鉄槌を作りかなり痛めにバシバシ背中を叩くがびくともしない。
(くそ、力じゃかなわない)
脳裏に昔こっそり聞いてしまった祖父母の言葉が蘇る。
『あんなに華奢な身体では、騎士などとても務まらないだろう……。レノを立派な騎士に育て上げてマティアスを見返したかったが、とても無理だな……』
高貴な生まれであるが武人でもある父や父の若い頃に生き写しの兄と違い、レノは母似の優美で華奢な体躯を受け継いだ。
父の愛を得られずに旅先で客死した母の忘れ形見を意地のように引き取って、溺愛してくれていた祖父母の本音を聞いた時から。
レノは自分の人生は母の無念をできるだけ果たすよう生きろと、そう願われているのだと思い知ったのだ。
(くそっ、くそっ! なんなんだよ!)
どいつもこいつもレノのことを自分の思う通りにしようと必死じゃないか。そう考えると空しくて涙が滲みそうになる。
なのにそれにどうしても抗うことすらできないのかと、悔しさで胸がキリキリと痛む。
蹂躙されつくし少し腫れぼったくなった唇だが、しかし親友だった男が徐々に理性を取り戻したため、口づけは次第に柔らかく何度もちゅっちゅっと唇に触れ啄むような甘い動きに変わった。
「レノ、お前も誰にも触らせたくない……」
熱を帯びた呟きは耳につくほど寄せられた唇で呟かれたが、レノの心は逆に凍えて冷静さを取り戻していく。
だが再びクレバが深い口づけに没頭して行くことで、腰を拘束する力が緩んできた。
(今だ!)
その隙きを見逃さず、レノは相手の体躯の頑丈さも計算に入れて手加減せずに脇腹に膝蹴りを入れた。
「っ!」
呻くクレバの腕から逃れ、一階の自習室の窓を開けて裏庭側に飛び降りる。後ろでクレバが自分を呼ぶ声がしたが無視して馬車の待合所まで走り出した。
「なんなんだ。ほんと、なんなんだよ」
誰彼構わず殴り掛かりたい気分を殺せず、心のままに大声で叫びながら走ってしまった。
ところがそのまま学園を出て坂を下り、自身の屋敷の馬車の停留所が見えてきたが、そこにはなぜか数人のクラスメイトが立っていて、何かを探すようにきょろきょろしているのが見える。その中には先ほどレノに襲い掛かってきたクラスメイトと仲のいい者の姿も見えて、滲んだ汗がヒヤッとする心地になった。
(あいつら俺に襲いかかってしたやつの仲間かもしれない)
仕方がないので一旦様子を見るため、もときた道を戻ろうとレノは坂を引き返す。山の頂上にある麓の街まで降りられるロープウェイの基地を目指すことにした。
坂を逆向きに走っていくと坂の左側にある階段の上からすごい勢いで必死な表情を浮かべたクレバが迫ってくるところと、右側にある校舎の階段の上にあのクラスメイトがやはりもう一人を連れて坂に向かうところが見えた。しかもレノを指さして何かを叫んでいる。
もう振り向いている暇はなかった。
俊敏さと足の速さには定評があるレノは、彼の全力をもって息も切らさず再び坂を下り始めた。
レノが驚いて立ち上ろうとするにもがっちり顔を掴まれ、その上中腰の状態で腰まで引き寄せられ動くことができない。よろけそうになる身体を支えるため、レノは必死でクレバの肩に手を置いた。
そのうちクレバの方がレノの腰を掬い上げるようにして立ち上り、熱い舌でもってさらなる侵略を開始してきた。これ以上蹂躙されてなるものかと、レノはその攻撃を許さず噛み付いて応戦する。
(くそ、キス初めてだったのに、無理やりされるだなんて、最悪だ!)
しかしクレバは噛みつかれても怯まない。むしろレノの腰が引けたのを見透かされ、クレバはさらに口内を犯してくる。
レノは親友の動きに慄き、そして日頃誰よりも頼もしいと密かに自慢に思っていた親友を傷つけたくない思いが募り、噛んだ舌の傷を慰めるようにねろり、と自分の舌で舐めとってしまった。
その動きに煽られたクレバはさらにぐっと腰を引き寄せ密着し、血の味のする舌で歯列をなぞり、刺激にびくっと震えるレノの背中を撫ぜ、一心不乱なその動きにレノは翻弄された。
互いに技巧はなく、ただひたすら舌を舌で追いかけるその動きには、それでも切ないほどに情熱が籠っていた。
「レノ……、俺のレノ」
唇を僅かに離してそう哀切にまみれた声で名前を呼ばれる。髪を撫ぜてから頭を掻き抱き再び唇を合わせてくる親友の仕草に、彼の本気の気持ちが伝わってくる。
短気で難しいところもあるレノにも辛抱強く接してくれて、何年もかけて一番心を許せる相手になってくれた。そんな彼が急にこんな風に触れてくるのはよほどのことだと、レノは身を強張らせたまま、彼が落ち着くのを待とうとこの暴挙を許してしまう。
しかし勝負強いクレバはそれを好機と取ったのか、大きな掌をシャツの中に入れてまさぐってくる。
(お前もかよ!)
何が哀しくて一度ならず二度までも男に胸をまさぐられなければならないのか。背中に縋るように回した手を使い、どんどんと叩くが、クレバは動じない。日頃穏やかだけれど物事を貫徹するまであきらめない、彼の頑固な部分が出てきて、ひたすらに攻めの姿勢を貫いてくるのが今となってはむしろ恐ろしい。
(クレバ! こいつ、大人しくしてたら調子にのりやがって)
クレバの大きな掌がレノの肌のなめらかな感触を確かめ、掌で味わうように繊細に撫ぜ続ける。
こそばゆさだけでなく未知のぞわぞわとした感覚が次々と呼び起こされる。
指先が胸のささやかな頂きに触れると、レノは未知の恐ろしさに全身を震わせた。
「んっ!……」
唇を貪られたまま身体を机に押さえつけられて、親友の手練になすがままになる。感じまいとするが自らの足の間にむずむずとした兆しが沸き起こり、どうして良いか分からなくなりひたすら暴れた。
しかし体術にも優れたクレバは、絶対にマウントを譲らない。レノが拳で鉄槌を作りかなり痛めにバシバシ背中を叩くがびくともしない。
(くそ、力じゃかなわない)
脳裏に昔こっそり聞いてしまった祖父母の言葉が蘇る。
『あんなに華奢な身体では、騎士などとても務まらないだろう……。レノを立派な騎士に育て上げてマティアスを見返したかったが、とても無理だな……』
高貴な生まれであるが武人でもある父や父の若い頃に生き写しの兄と違い、レノは母似の優美で華奢な体躯を受け継いだ。
父の愛を得られずに旅先で客死した母の忘れ形見を意地のように引き取って、溺愛してくれていた祖父母の本音を聞いた時から。
レノは自分の人生は母の無念をできるだけ果たすよう生きろと、そう願われているのだと思い知ったのだ。
(くそっ、くそっ! なんなんだよ!)
どいつもこいつもレノのことを自分の思う通りにしようと必死じゃないか。そう考えると空しくて涙が滲みそうになる。
なのにそれにどうしても抗うことすらできないのかと、悔しさで胸がキリキリと痛む。
蹂躙されつくし少し腫れぼったくなった唇だが、しかし親友だった男が徐々に理性を取り戻したため、口づけは次第に柔らかく何度もちゅっちゅっと唇に触れ啄むような甘い動きに変わった。
「レノ、お前も誰にも触らせたくない……」
熱を帯びた呟きは耳につくほど寄せられた唇で呟かれたが、レノの心は逆に凍えて冷静さを取り戻していく。
だが再びクレバが深い口づけに没頭して行くことで、腰を拘束する力が緩んできた。
(今だ!)
その隙きを見逃さず、レノは相手の体躯の頑丈さも計算に入れて手加減せずに脇腹に膝蹴りを入れた。
「っ!」
呻くクレバの腕から逃れ、一階の自習室の窓を開けて裏庭側に飛び降りる。後ろでクレバが自分を呼ぶ声がしたが無視して馬車の待合所まで走り出した。
「なんなんだ。ほんと、なんなんだよ」
誰彼構わず殴り掛かりたい気分を殺せず、心のままに大声で叫びながら走ってしまった。
ところがそのまま学園を出て坂を下り、自身の屋敷の馬車の停留所が見えてきたが、そこにはなぜか数人のクラスメイトが立っていて、何かを探すようにきょろきょろしているのが見える。その中には先ほどレノに襲い掛かってきたクラスメイトと仲のいい者の姿も見えて、滲んだ汗がヒヤッとする心地になった。
(あいつら俺に襲いかかってしたやつの仲間かもしれない)
仕方がないので一旦様子を見るため、もときた道を戻ろうとレノは坂を引き返す。山の頂上にある麓の街まで降りられるロープウェイの基地を目指すことにした。
坂を逆向きに走っていくと坂の左側にある階段の上からすごい勢いで必死な表情を浮かべたクレバが迫ってくるところと、右側にある校舎の階段の上にあのクラスメイトがやはりもう一人を連れて坂に向かうところが見えた。しかもレノを指さして何かを叫んでいる。
もう振り向いている暇はなかった。
俊敏さと足の速さには定評があるレノは、彼の全力をもって息も切らさず再び坂を下り始めた。
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