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「クレバ、クレバ!」
レノは元気な仔犬のように頼みの友人がいる部屋へ飛び込んでいく。
クレバは予約制の自習室の椅子に静かに腰を掛け、青紫色の硝子ペンを使って明日提出の課題に書き物をしているところだった。
午後の日差しが硝子ペンの影を帳面に落とし、美しい影絵となってレノの目を和ませる。
クレバの顔を見たらほっとしてしまい、もう先ほどのこと等どうでもよくなってしまった。意地っ張りのレノは逆にクレバに何か言うのも、子供が親に言いつけるような気分になり、情けなくて嫌気がさして押し黙る。
クレバは親しい友人でもあるが、のちに家同士が話し合い学園にいる間のレノのお目付け役を引き受けているという背景もあるのだ。
「なにかあったのか?」
しかし聡い友人は透明で先だけ硝子ペンを置くと、深い翠玉色の穏やかな瞳でじっとレノを見上げてきた。
その探るような視線に耐え兼ね、レノは目線を反らし、ガタゴトと音を立てて木の椅子を引き寄せ隣に座る。
「いや、別に。探してた本がなかっただけ」
「あの本がなかった? 疑わしいな。本当に探したのか?」
そう言うと疲れとクレバへ嘘をついたことへの嫌な汗がどっとでてきて、レノはふて寝をするように落書きやインクじみの多いオーク素材の机に突っ伏した。
そのまま二人は少しだけ沈黙する。部屋の外からは普段通りの賑やかな少年たちの話し声がした聞こえてきた。
「俺に言えないようなこと?」
クレバの咎めるような口調に違和感を観じてレノは顔を上げる。するとクレバじゃ鼻筋の通った端正な顔に僅かな怒りを滲ませていた。
いつも穏やかで優しい男なのでどうして急に怒ったのか。レノには理解できず、戸惑いに大きな瞳を揺らす。
クレバの目線の先にはレノの若者らしい伸びやかな首筋がある。レノは気づいていなかったが、そこには未だ生々しい血が滲む噛み痕が残されていた。
クレバはレノのボタンがところどころ飛んだシャツの首元を手繰り、そして男らしい形の眉を顰めると首筋の噛み痕にするりと指を這わせた。
「誰に、何をされたんだ?」
彼が触った首筋にぴりりっとした痛みを感じて、その時初めてレノはクレバが噛み痕にもシャツの乱れにも気づいたと分かって青ざめて唇を噛みしめる。
(そりゃそうだよな。このぼろぼろの恰好、誤魔化しきれないか)
「言ってごらん?」
クレバの声はいつも以上に穏やかだが目は少しも笑っていない。
レノは動揺から色々な感情が一遍に噴き出し、自然に瞳を潤ませてしまっう。そんなレノの情けない顔を見て、クレバは僅かに唇を引き上げ微笑んだ。
単純なレノは笑顔につられて安堵したが、逃がしてくれるのかと思ったがそういうわけではないようだ。
ゆっくり話を聞くつもりなのか椅子から腰を少し上げるとレノの方に向き直って、レノの肘裏に手を入れて強引に自分の方に身体を向けさせる。
「さあ、話して」
レノが顔を少し背けるとそれを許さず、大きな掌が頬に触れる。
そして小さくきゅっと噤まれたレノの柔らかな唇を、触れるか触れないかの柔さで親指の腹でなぞられる。ぞわぞわっとする感覚に思わずへんな声をあげそうになった。
「ここは」
「えっ?」
「ここは噛みつかれなかった?」
低く怖ろしげな声は、まるでレノの不実を責めているかのようだ。
(俺、何も悪いことしてないのに、何なんだよ)
なんでそんなに怖い顔をするんだと言い返したかったが、答えをせかされるように二の腕をぐっと強く掴まれその鋭い痛みに顔を顰める。
「それは……」
思わず開いたレノの唇に、クレバが肉厚な唇を押し当ててきた。
レノは元気な仔犬のように頼みの友人がいる部屋へ飛び込んでいく。
クレバは予約制の自習室の椅子に静かに腰を掛け、青紫色の硝子ペンを使って明日提出の課題に書き物をしているところだった。
午後の日差しが硝子ペンの影を帳面に落とし、美しい影絵となってレノの目を和ませる。
クレバの顔を見たらほっとしてしまい、もう先ほどのこと等どうでもよくなってしまった。意地っ張りのレノは逆にクレバに何か言うのも、子供が親に言いつけるような気分になり、情けなくて嫌気がさして押し黙る。
クレバは親しい友人でもあるが、のちに家同士が話し合い学園にいる間のレノのお目付け役を引き受けているという背景もあるのだ。
「なにかあったのか?」
しかし聡い友人は透明で先だけ硝子ペンを置くと、深い翠玉色の穏やかな瞳でじっとレノを見上げてきた。
その探るような視線に耐え兼ね、レノは目線を反らし、ガタゴトと音を立てて木の椅子を引き寄せ隣に座る。
「いや、別に。探してた本がなかっただけ」
「あの本がなかった? 疑わしいな。本当に探したのか?」
そう言うと疲れとクレバへ嘘をついたことへの嫌な汗がどっとでてきて、レノはふて寝をするように落書きやインクじみの多いオーク素材の机に突っ伏した。
そのまま二人は少しだけ沈黙する。部屋の外からは普段通りの賑やかな少年たちの話し声がした聞こえてきた。
「俺に言えないようなこと?」
クレバの咎めるような口調に違和感を観じてレノは顔を上げる。するとクレバじゃ鼻筋の通った端正な顔に僅かな怒りを滲ませていた。
いつも穏やかで優しい男なのでどうして急に怒ったのか。レノには理解できず、戸惑いに大きな瞳を揺らす。
クレバの目線の先にはレノの若者らしい伸びやかな首筋がある。レノは気づいていなかったが、そこには未だ生々しい血が滲む噛み痕が残されていた。
クレバはレノのボタンがところどころ飛んだシャツの首元を手繰り、そして男らしい形の眉を顰めると首筋の噛み痕にするりと指を這わせた。
「誰に、何をされたんだ?」
彼が触った首筋にぴりりっとした痛みを感じて、その時初めてレノはクレバが噛み痕にもシャツの乱れにも気づいたと分かって青ざめて唇を噛みしめる。
(そりゃそうだよな。このぼろぼろの恰好、誤魔化しきれないか)
「言ってごらん?」
クレバの声はいつも以上に穏やかだが目は少しも笑っていない。
レノは動揺から色々な感情が一遍に噴き出し、自然に瞳を潤ませてしまっう。そんなレノの情けない顔を見て、クレバは僅かに唇を引き上げ微笑んだ。
単純なレノは笑顔につられて安堵したが、逃がしてくれるのかと思ったがそういうわけではないようだ。
ゆっくり話を聞くつもりなのか椅子から腰を少し上げるとレノの方に向き直って、レノの肘裏に手を入れて強引に自分の方に身体を向けさせる。
「さあ、話して」
レノが顔を少し背けるとそれを許さず、大きな掌が頬に触れる。
そして小さくきゅっと噤まれたレノの柔らかな唇を、触れるか触れないかの柔さで親指の腹でなぞられる。ぞわぞわっとする感覚に思わずへんな声をあげそうになった。
「ここは」
「えっ?」
「ここは噛みつかれなかった?」
低く怖ろしげな声は、まるでレノの不実を責めているかのようだ。
(俺、何も悪いことしてないのに、何なんだよ)
なんでそんなに怖い顔をするんだと言い返したかったが、答えをせかされるように二の腕をぐっと強く掴まれその鋭い痛みに顔を顰める。
「それは……」
思わず開いたレノの唇に、クレバが肉厚な唇を押し当ててきた。
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