40 / 47
リナリアを胸に抱いて
14
しおりを挟む
透にはあの夏以降殆ど会えていない。透はベータのままだったが、兄の執心は異常なほどに増していった。雷や他の使用人が透に近づこうものなら、怒りをあらわにし、彼を自分の部屋に閉じ込めてしまうからだ。
たまに雷が一方的にみかけた時、透は兄と喧嘩をしたのか小さな顔を真っ赤にして涙をこぼしていた。駆け寄って兄を突き飛ばし、透を抱きしめてあげたかった。しかし自分にはその資格がない。まだ小さな自分の身体が、年齢が恨めしい。
一目だけでも透に会いたかった。度々無意識に彼らの部屋の前まで足を向けたが、そのたび透の苦し気な声、嬌声、泣き声が聞こえてきてやるせない気持ちになった。
雷が透に近づくことで兄が警戒心を深める。兄には雷が透へ抱く特別な感情がばれているのだろう。
あの日今まで誰にも心を開かなかった弟が、透に大人しく抱きしめられていた。もしくは透の心が一時でも自分から反れたことへの苦々しい妬心ゆえかもしれない。
兄は余計透を雁字搦めにし、時には学校にも行かせないほどだった。そのせいで透と大切な家族との溝は深まるばかりだ。
(僕ならあんな愛し方はしない。絶対に透さんを泣かせたりしない。透さんが大事にしているものごと、彼を包み込んで愛してあげたい。僕が透さんを守ってあげたい)
しかし、現状雷にできることなど高が知れていた。雷は阻まれればより燃え上がる想いに無理やり蓋をして、透と接点を持つことを止めた。
その代わり、学校で少しずつ、周りの人間に関心を向けてみることにした。
無視をせず、笑顔を見せれば人は簡単に雷に好意を向けてくれた。人から愛されない、疎まれるばかりだという思い込みを取っ払えば、意外と相手も心を寄せてくれると気が付いた。それはあの夏、透が教えてくれたことだ。
寒い冬を終え、また薔薇の芽が伸びてきた春。卒業を機に、雷は母と共にこの家を出ることになった。
(透さん、会いたいよ。またあの笑顔が見たい。僕も少しは、笑顔が上手くなったよ)
学校ではせっかく仲良くなれたのにと、沢山の同級生に涙で見送られた。
どうしても最後に透に会いたかった。その気持ちが通じたのか、出発の日、兄は早朝に父に呼び出され、家を後にしていた。
兄の部屋の鍵は開いていて、透は涙に濡れた顔のまま乱れた寝台で眠っていた。白い顔が前よりもっと小さく、とても儚く見えた。
「このまま、貴方を攫って行ってしまいたいよ」
僕と一緒に、空を飛んでずっと遠くまで。
夏よりずっと大きくなった雷は、もう彼を抱き上げることができるかもしれない。起こそうかと迷ったが、彼と言葉を交わしたらきっと決心が揺らぐ。どうしても透の傍に居たくて、そのために日本に留まろうかとまで思っていたからだ。
でも、母と共に海外に行くと決めた。そこで沢山学んで早く自立した大人の男になる。雷はそのまま声をかけることを止めた。
(さようなら、透さん)
たまに雷が一方的にみかけた時、透は兄と喧嘩をしたのか小さな顔を真っ赤にして涙をこぼしていた。駆け寄って兄を突き飛ばし、透を抱きしめてあげたかった。しかし自分にはその資格がない。まだ小さな自分の身体が、年齢が恨めしい。
一目だけでも透に会いたかった。度々無意識に彼らの部屋の前まで足を向けたが、そのたび透の苦し気な声、嬌声、泣き声が聞こえてきてやるせない気持ちになった。
雷が透に近づくことで兄が警戒心を深める。兄には雷が透へ抱く特別な感情がばれているのだろう。
あの日今まで誰にも心を開かなかった弟が、透に大人しく抱きしめられていた。もしくは透の心が一時でも自分から反れたことへの苦々しい妬心ゆえかもしれない。
兄は余計透を雁字搦めにし、時には学校にも行かせないほどだった。そのせいで透と大切な家族との溝は深まるばかりだ。
(僕ならあんな愛し方はしない。絶対に透さんを泣かせたりしない。透さんが大事にしているものごと、彼を包み込んで愛してあげたい。僕が透さんを守ってあげたい)
しかし、現状雷にできることなど高が知れていた。雷は阻まれればより燃え上がる想いに無理やり蓋をして、透と接点を持つことを止めた。
その代わり、学校で少しずつ、周りの人間に関心を向けてみることにした。
無視をせず、笑顔を見せれば人は簡単に雷に好意を向けてくれた。人から愛されない、疎まれるばかりだという思い込みを取っ払えば、意外と相手も心を寄せてくれると気が付いた。それはあの夏、透が教えてくれたことだ。
寒い冬を終え、また薔薇の芽が伸びてきた春。卒業を機に、雷は母と共にこの家を出ることになった。
(透さん、会いたいよ。またあの笑顔が見たい。僕も少しは、笑顔が上手くなったよ)
学校ではせっかく仲良くなれたのにと、沢山の同級生に涙で見送られた。
どうしても最後に透に会いたかった。その気持ちが通じたのか、出発の日、兄は早朝に父に呼び出され、家を後にしていた。
兄の部屋の鍵は開いていて、透は涙に濡れた顔のまま乱れた寝台で眠っていた。白い顔が前よりもっと小さく、とても儚く見えた。
「このまま、貴方を攫って行ってしまいたいよ」
僕と一緒に、空を飛んでずっと遠くまで。
夏よりずっと大きくなった雷は、もう彼を抱き上げることができるかもしれない。起こそうかと迷ったが、彼と言葉を交わしたらきっと決心が揺らぐ。どうしても透の傍に居たくて、そのために日本に留まろうかとまで思っていたからだ。
でも、母と共に海外に行くと決めた。そこで沢山学んで早く自立した大人の男になる。雷はそのまま声をかけることを止めた。
(さようなら、透さん)
24
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
【完結】エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる