フリージアを嫌わないで

天埜鳩愛

文字の大きさ
42 / 47
リナリアを胸に抱いて

16

しおりを挟む
※※※ ここから現代。本篇後の二人です。

「……くん、雷くん」

 目が覚めたら、愛おしい番の顔が目の前にあった。
 肩にふわりと暖かい、ガーゼのブランケットがかけられていた。どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。
 今日は仕事が終わった後、透が雷のマンションに来てくれている。番になってすぐに透の店の近くに借り直した家だから、公園を挟んで向かいにあるほど『フリージア』に近い。
 もちろん出来れば今すぐにでも透と一緒に暮らしたい。いつだって愛しい透がいなければ世も日も明けぬ心地だ。だけど互いの住処に転がり込むのは安易過ぎると、これからの二人の生活について熟考を重ねているところだ。とはいえ、日々どちらかの家で共に過ごしている。
 このところ睡眠不足だったとはいえ、透が起きている時間に先に眠ってしまうなんてことは珍しくて、雷は苦笑した。

(透さんが番になって……。どれだけ安心しているんだ、俺は)

「大分寝ていましたか?」
「ふふ。三十分ぐらいかな。ハーブティ飲むかなって声掛けに来たら雷くん眠ってた。課題をやっている途中だったの? 難しい英語の専門書、沢山あるね。僕にはちっともわからないよ」
「ああ、これは……、また後にしますね」

 ぱたんっと分厚い専門書を閉じた。透にはまだ言っていないことが山ほどある。
 まず、雷は大学生ではない。透に伝えている大学で教授に頼まれ助手をしている。だが本来の籍はアメリカの医療研究所の博士研究員だ。フリージアでアルバイトをする際、透に近づきやすいようにあえて年齢に合わせて『大学生』であるということにした。
 専攻は薬学だ。生物から物理まで幅広く学べるからと選んだ。ライフワークとして、在学中にバース性の転換についての論文を発表した。
 伯父がベータからオメガに転換し、従姉妹たちを産んだということもあり、生きるサンプルが身近にいたことも大きい。
 意味合いは大分違うがキャッチーに『人間のクマノミ化』などと呼ばれて一時アメリカで話題になったのだが、透はそのことを知る由もない。
 アメリカに渡るとすぐ、雷は世界中に伝承されているオメガに転換する方法を調べていった。身体を冷やさない、子宮に働きかけるハーブを常用する、パートナーとなるアルファと共に過ごす時間を増やす、直接的に精を受けるなど様々だった。
 誰もが持つ未成熟な子宮に一部のアルファが持つ強い性フェロモンを浴びせ続けることで、DNAに眠る『雌化するスイッチ』がオンになる。その状態で精を受けるとベータでも、あるいはアルファでもオメガに転換することができる。もちろんごく、稀であるがと付け加えられるが。
 最後はDNAレベルでの、互いの相性の良さによることも大きい。いわゆる運命の番といわれるほど強く惹かれるもの同士の場合、成功する確率が上がるということらしい。
 もちろん雷は透に対して出来うる手段はすべて使った。でも結局一番大切だったことは透が雷に対して心を開いて受け入れてくれたから、その一言に尽きるのではないかと思うのだ。

「透さん、ここに座って」

 自らの膝を指さしたら、透は困った顔をして小首を傾げた。

「えー。僕、重たいよ」
「重たくないです。俺を癒すと思って、さあ」

 てっきり背中から座るかと思ったら、少し天然なところのある透は大胆にもすらりとした足を開いて、大胆に正面から雷に跨ってきた。
 驚いてきょとんとした顔をしたら、「え、違ってた?」と透は焦って顔を真っ赤にして立ち上がろうともがく。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【完結】エデンの住処

社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。 それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。 ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。 『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。 「兄さん、僕のオメガになって」 由利とYURI、義兄と義弟。 重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は―― 執着系義弟α×不憫系義兄α 義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか? ◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...