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4調香師メルト・アスター
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「これが海!?」
中央よりもより真っ青な空、もくもくと白い雲が浮かぶ。坂の上から覗き込むように眼下を見れば、なだらかな弧を描く翠緑の湾。
初めて見る海の美しさに思わず座席から立ち上がる。
馬車の窓から身を乗り出しだソフィアリの心は踊った。
風が日よけにかぶっていたレモンイエローのショールの裾をあおり、吹き飛ばそうと巻き上げる。
それを飛ばされないよう押さえて窓に向かい、かしぐソフィアリの細い腰を引き寄せ、ラグは馬車の揺れから彼を守った。
「すごいな! あんなに綺麗な色を見たのは生まれて初めてだ! 湾ぞいの縁が緑で、その向こうは宝石みたいに青い!」
そうコバルトブルーの海を指差しながらラグを振り返り、言い募る顔は喜びで輝くばかりだ。
ラグも少年につられるように少しだけ高揚を覚えた。
ハレへの街は南部の田舎の隠れた保養地だ。
美しい湾は先の戦争のときにより東の海岸線が軍港になって荒れたのに対して、入り江は遠浅であり大きな船が停泊するには足りなかったのが幸いした。この湾の周囲も切り立った細かな入江しかないため軍事的な拠点となることもなく、戦火を逃れ古い時代の建物などもそのままに残っていた。
白い壁の家々が立ち並び、街を形作っている。沖にある小さな島々と、丘の上から広がる大地は遥かに広い農園が点々と広がっていて、オリーブや香水の原料となる花、また野菜などが栽培されているそうだ。
「リリオン様の館は海を見渡せるあっちの丘の上ですよ」
御者を買って出てくれたサト商会の若者がそう教えてくれた。港とあまり離れていないところに小高い丘があり、そこに中央のソフィアリの屋敷よりはこぶりな白亜の邸宅がたっていた。
そのまま商会の倉庫に向かう若者に礼を言って馬車を降り、丘に続く鮮やかな色の花々が咲き乱れた坂道を二人はのんびりと歩いていった。
屋敷の前は同じような土気色の石が積み上がった壁がそびえ、周囲を一周ぐるりと取り囲んでいた。その壁の切れ目にある重厚な門扉は壁の向こうから茂った、ブーゲンビリアの濃い赤紫の花が溢れるように咲いて覆い彩っている。
ちょうどむこうに人影が見えたので声をかける。
「中央からリリオン殿を訪ねてまいりました!」
先ほどからの高揚した気分のまま、ラグより先にソフィアリがはきはきと声をかける。
日よけの帽子を被ったまま出てきたのは、この家の庭師で、すぐに他のものを呼びに行ってくれた。
「待っていたぞ。ジブリールの息子よ」
海を望む日当たりの良い窓辺で、リクライニングチェアに細い体を埋めるように腰を掛けたリリオンは、ドアの前にソフィアリをみつけ青い目を優しげに細めた。
同じくらい年寄りの背の高い家令は、傍らで彼のひざ掛けを直してあげながら主と似たように優しく微笑む。
「はじめまして大叔父様。お目にかかれて光栄です。本日よりこちらでお世話になります。ソフィアリ・モルスです」
ソフィアリが優しげな大叔父に近寄り頬にキスを交わしていると、突然バタンと背後の扉が開かれた。
「リリオン! 新たな香水のアイディアが浮かんだのだが。おや?」
賑やかな足音を立てて、整えられた口髭を生やした華やかな雰囲気の五十がらみの男が入ってきた。
白髪混じりの明るいアッシュブラウンの髪に、茶目っ気たっぷりの瞳はキラキラした琥珀色に輝いている。若いころはさぞやというような美丈夫で、今もなお現役の香りがする色男ぶりだ。そして芳しい花々の芳香を鮮やかに身にまとっている。
「賑やかだなあ、アスターよ。ちょうど中央からソフィアリが来たところだ。ソフィアリこのものはこの領地で農園を経営し、香水を作っている……」
「メルト・アスターだ」
ソフィアリが差し出した手をとると引き、思わず傾ぐ身体を自らに引き寄せる。
アスターは突然ソフィアリの項に顔を近づけて明らかにくんくんと匂いを嗅いできた。
ラグが驚いて止める前に、ソフィアリが目を真ん丸に見開き腕を振り下ろしながら飛のく。
ソフィアリは思わずこの無礼な男を美しい目を三角にして睨みつけるが、男は飄々とし全く悪びれない。
なんとなく次兄のバルクと似たような印象を相手に感じた。つまり、チャラチャラして見える。
アスターは興味深げにソフィアリをみやり、非常に嬉しそうに笑いながら再びにじり寄ってくる。
「いいねえ、いいねえ。美しいねえ。
品があって、かなりよい感じのフェロモン振りまきそうなんだけど。今ひとつまだ開花しなさそうなんだよなあ。うーん。少しだけ香るかな?」
呆気にとられるソフィアリを尻目に、今度は隣に控えるラグに、くいっと顎でしゃくる。
「なあ君、アルファだろ? ちょっと誘発フェロモンだしてくれないかな? 試してみたいんだよなあ。もうすぐ開花しそうだから、彼で新作のオメガのフェロモンの香水作りたいなあ」
「な! なにを!」
あまりの不躾さにソフィアリは、驚きを通り越して頭に血が昇りそうになった。
「初対面で何ということを言うのかと驚いただろう。しかし、このものが稀代の名調香師メルト・アスターだ。この領地で唯一中央に誇れる産業を興している。ま、少し変わっているがな」
このふざけた男がメルト・アスター。
ラグの背に隠れ無意識にその背中に擦寄りながら、ソフィアリはのちにこの街を興す同志、メルト・アスターとの衝撃的な出会い交わした。
夜になりソフィアはあてがわれた海の見える優美な内装の部屋のテラスにたち、静けさの中潮騒を聴いていた。
中央育ちのソフィアリには絶えず聞こえる寄せては返すさざ波の音に慣れるまで、少し時間がいりそうだ。
先程までリリオンと家令のカレル、ラグとソフィアリでカモミールのハーブティーを飲みながら、老紳士二人の若き日の冒険譚を聞かせてもらっていたのだ。
リリオンは生涯独身を貫いていると聞いていたが、実は家令のカレルと恋人同士でこの地に手を取り合って逃げてきたのだという。
ソフィアリもラグもそれには流石に驚いた。
ベータであったリリオンと、アルファのカレルの身分違いで性差さえ超えた禁断の恋物語。
ソフィアリはラグに寄り添いながら、二人の恋と冒険の物語にドキドキと胸を踊らされた。
出会ったばかりの素敵な白髪紳士たちのことをソフィアリはさらに好きになった。
そして上の階の部屋に戻ったのだが眠れない……
何か胸の疼きが止まらないのだ。
こんな時はふとセラフィンを思い出す。
自分の胸が痛むときは決まってセラフィンがどこか別の場所で泣いていた。
忘れようとして、忘れられるものではない。
苦しくて切なくて…… ソフィアリは恥ずかしくはしたないと思いながらも、隣にあるラグの部屋を躊躇いながらノックした。
ラグは使用人ではなく歴とした食客扱いになっている。
用件を考えろと思うが何も浮かばず、中からラグが出てきたときも思わず目をそらしてしまった。
しかしラグは優しく微笑む気配を、はいた吐息で伝えながらソフィアリを中に招き入れた。
夜具代わりの白い洗いざらしたシャツの間から発達した胸筋がみえ、獣人がルーツというわりにそこに胸毛はない。
しげしげと見ている視線に気がついたラグが、
やや照れたように笑うと、くしゃりとソフィアリの髪を撫ぜた。
「眠れないのか?」
こくん、と素直に頷く。まさかこの年になるまで一人寝をほぼしたことがないとは言えずにいると、ラグは大きな手で細いソフィアリの手首を優しく掴み、寝台の中へ招き入れた。
ふわっと、昨晩ラグから感じた心地よい香りが漂い、ソフィアリは胸の疼きが少しおさまるのを感じた。
「暑くないか?」
ソフィアリは半ば二周りも三周りも大きいラグの身体自体を敷布にするかのように、右半身を乗り上げて盛り上がった胸の谷間に横顔をくっつける。
ラグはやや焦ったように身じろぎしたが、ソフィアリはぐりぐりと頭を動かし、逞しい胸の弾力ある枕に寝心地の良いポイントを探すと瞼を閉じた。
ラグは細い足でこの地に根ざそうと一生懸命なソフィアリが、自分に懐き自然に甘えてきていることに、素直に嬉しさを感じた。
太く長い指に黒髪をまとわりつかせながら優しく何度も何度も髪を梳いては撫ぜた。
ソフィアリはあまりの心地良さに喉を鳴らす猫のように甘い吐息をはいてしまう。
「おやすみ、ソフィアリ。良い夢を」
そう囁かれ額に口づけを受けるとすぐに心が蕩けた気持ちになる。
ソフィアリは小さく頷きすぐに身体の力を抜いていった。
暖かなお互いの体温が、しみいってくる。
ラグも瞳を閉じた。
ラグとともにいると、時折感じていた胸の痛みが和らぎ、暖かい気持ちになるのをソフィアリはたびたび感じていた。
ラグもまた除隊後から身の内にあった喪失感がじわじわと満たされてくるように感じていたが、しかしそれに対して後ろめたさをもっていた。
ソフィアリは上下する暖かな胸に抱かれ、家族以外にこれほどの安らぎを持てたことの喜びに浸る。
そしてラグのむき出しの胸板に唇を押し当てた。
メルト・アスターは稀代の名調香師である。
オメガのフェロモンを模した彼にしか作れないオリジナルの香水の噂は、軍人でそういったことに全く明るくないラグにでも耳覚えがある。
同僚たちが戦地から戻るとご機嫌を取るように、恋人に貢いでいた宝石や化粧品と同じ類のもので確かとても高価だと聞いた。
畑から出てきたような石を積み上げただけの土台に杭に打ち付けられた木の板が粗末で質素な看板となっている。
そこにペンキでななめの文字でアスター農園と書かれてあった。中央での高級なイメージとはまるで違う。田舎の農園だ。
アスターの工房はその農園の片隅にひっそりとあった。
きらきらした日の光が差し窓ガラスごしに香水瓶を照らし出す工房内で、アスターは玉虫色の美しい意匠の小瓶を取り出す。
「この香りはとあるオメガの乙女の17歳頃のフェロモンを模したものだ。これを中央で売り出したとき沢山のアルファが、この地に我が番に違いないと押しかけたものだよ。その中でも熱烈だったのが隣国サーレの当時の王子でね。彼女は運命の番だといって召し上げられ、今ではサーレの王妃様。私はその国では功績を認められ名誉勲章を授与されているわけだ」
ラグはサーレ国から送られたという勲章を手に取り感心した。金色がかった緑の小瓶の香りをつけたハンカチーフをアスターから受け取りすぐにソフィアリに手渡す。
「青い林檎のような甘酸っぱさと、初恋を思わせる初々しさだろ?」
確かに良い香りだが、ソフィアリは別のことが気になってしょうがなかった。
青い瞳の視線を迷わせながらラグの腕を引くようにして尋ねた。
「ら、ラグはこういう香りが好き?」
「まあ、香水はどれも好ましいように作られているのだろうが…… 正直強い香りは得意ではないな」
そんな、二人のやり取りをアスターは、おやおやといった感じで見守っている。
「フェル族、興味深いね。五感を鋭敏にしたり、人並みにしたり。どうコントロールしてるのかね?」
ラグは光に透かし見ていた緑の小瓶を丁寧に棚に戻し、腕を組んで考え込む仕草をした。
「こればかりは子どもの頃からコントロールして来たとしか言いようがない。本能を現すときは目の色が光っているらしい。牙も伸びるし、嗅覚もその時は一時的に増している。戦場では敵の位置を土埃や硝煙の匂いで察知できて便利だったが、あまり使うと理性が飛びやすくなる」
「昨日、怖い男たちに絡まれた時、目が光ってかっこよかった!」
頬を紅潮させて呟くソフィアリに、なんだかこの香水と同じくらい甘酸っぱいものを感じて、アスターはこの二人のただならぬ関係性を見守ってやろうと思った。面白そうだし。
どのみち二人がこのハレへの街へ影響を与え続けることは確かなのだから。
「さて、花畑の方へ行ってみよう」
農園に隣接した工房を後にし、三人は広大なラベンダー畑へ向かっていた。
風がそよそよとラベンダーを揺らしソフィアリの黒髪もふわりと舞う。それが心地よくてたまらず、そのままソフィアリは畑の畦を走り出した。
「本当美しい子だ。あの艶やかな黒髪、撫ぜたり乱れさせたりしたくなる。我が手で開花させてみたい逸材だよなあ」
ちらりとラグをみやりながらアスターは口髭を弄んで軽口を叩く。
「あなたには番がいるのでしょう?」
少し剣呑な低い声を出す軍人上がりの厳ついラグに、全く引かない。こう見えて海千山千の男なのだ。
「私には妻子はいるが、番はいないよ。香水づくりの為にオメガのフェロモンを感知するのが必要不可欠だったからね。この年まで番も作らずに来てしまった。だからまあ、君があの子を番にしないなら、私もねえ……」
瞬間ラグの瞳の色が緑色からすっと引くように金色の輝きを放つ。そしてアルファの牽制フェロモンも同時に解き放たれた。
屋外とはいえ、もろに浴びたアスターは涙目になって辛そうに悶えつつも、どこか嬉しげだ。
その姿に気分を害され、やや眉をひそめる。
「あーこれこれ。もういい年してきたから他のアルファから牽制フェロモンだされることなんてないから、久々にくるなあ」
けらけらと笑いながら、アスターは瞳の色が戻ったラグの岩のような肩をばんばんと叩いてくる。
「知ってるか? 香水っていうのは、いい香りだけ混ぜても駄目なんだ。ほんのちょっとの臭気も必要なんだぞ? だからオメガの香水にも少しだけ他のアルファの牽制フェロモンに似た香りを入れたやつは、とにかく受けがいい。
私は君たちがとても気に入ったからセットにした新作を作りたい。新作にして代表作の一つとしてこの街をさらに中央に知らしめたいのさ」
あっけにとられたラグを尻目にアスターは遠くに手を振る。
花畑の向こうからソフィアリとともに小さな子供を連れた華奢な女性が歩いてくる。
「おお、妻たちと合流したようだ。昼食をいただくとしよう」
食事後は暖かなこの地にふさわしい黄色を基調とした明るい居間で、みなでゆったりとハーブティを楽しんだ。
今この農園に働いているのはオメガの少女が3人と少年が2人。
それに農園へ通いでやってくる者たちや使用人たちもいる。
皆で香水づくりに携わっている。
オメガの少女は頬を染めながらソフィアリに、お茶を運んできてくれた。中央から突然来た貴公子然とした少年が気になって仕方がないようだ。
「おやおやレーメ。君のアルファの王子様がついに来たと思ったんだろう? 残念ながらこの方には他に好きな人がいるようだぞ」
するとハニーブロンドの少女はべーっと舌を出して台所へ戻ってしまった。
「からかったりして。可哀想ですよ」
小さくてほっそりしてどちらかといえば地味めのアスターの妻は、傍らで読み書きを学ぶ息子を見守りながら夫をたしなめた。
「レーメも元気になって良かったじゃないか。……あの子はだいぶ遠い街のオメガの娼館から連れ帰ってきた子なんだ。オメガの香水づくりをしたいからって、私は国を巡っていてね。その大義名分があるとまあ、娼館の方も間口を広げて対応してくれるからね」
「香水づくりでなく、オメガを救うことが目的なのですか?」
アスターは色とりどりの額縁に飾られた小さな絵たちを指差していった。細かな花々が描かれた繊細な筆運びの絵。
「私の母はアルファの父親に捨てられたオメガでね。ああした小さな絵と…… 今はわかるが春を売って私を育ててくれたわけだ。
番のいないオメガは身体を削がれるように命をすり減らして生きる。母は若くして亡くなった。愛してもらったよ…… 母にとって私が全てだったから」
ソフィアリは呼吸が苦しくなるほど息を呑み、
ラグは顔色をなくすソフィアリの冷たい手を握ってやった。
「それで私は他のオメガたちをも、なんとかしてやりたくてね。
父は憎いしかない相手だが私も幸いにして同じアルファであったことだけはよかった。ちょっとばかし出来が良かったのでね。香水で財をなせたし、各地にコネもできた。
結果的には色々な地域をまわっては、アルファにオメガを斡旋したと影では言われたりもしたが……」
語られているのは美談だけではすまされないアスターの半生なのかもしれない。
中央から来たばかりの自分に対しこれほどの話をしてくれることに、ソフィアリは敬意を払いたかった。だから自分自身も誠実に素直な気持ちで向き合おうと思ったのだ。
「俺は正直、中央にいた頃は自分をアルファだと思いこんでて…… オメガのことをアルファにとって都合の良い者たちだと思ってた。
俺の母もオメガですが、貴族の出身で父とはとても夫婦仲がよくて……
だからオメガは気楽な存在だなと思っていたし、自分も母のような甘やかなで愛らしい人を娶るのだと思ってた。今でも自分がオメガだと認めたくない気持ちもあるし、オメガなのに…… どこかでオメガを差別してる。そんなこと考える自分を、心底軽蔑する。だけど、本当は今でも首輪はつけたくない、オメガってみられたくない」
きゅっと力を込めて肩を掴んでくれるラグの温かい手に勇気をもらう。
「だから協力してください。この街だけでもいい。オメガに生まれて良かったって。首輪もしないで自由に生きられる街を作りたい」
脳裏に蘇るのは父の言葉。
『お前がオメガとして生きて良かったと思える人生を送ってほしい』
柔らかく微笑みながら歩み寄ってきたアスターの妻が母のように、座るソフィアリを抱きしめた。
柔らかな花の香りに包まれ、ソフィアリは腕を回してその細い身体に縋るように抱きつくと、声を上げて泣き出した。
「きっと、きっと。この街を今よりももっと素敵なところにする。俺がしてみせる」
大人たちはソフィアリのそんな様子に胸を打たれつつも、何か新しいものがはじまるそんな希望も見いだした。
特にアスターは彼に期待していた。地道にやってきたオメガの保護活動だが、周りとの軋轢を生まぬためには、引かざるを得ないことも多かった。
もしもソフィアリが領主になればその権限を持ってして、根本から街を変えていくことすら可能だ。
ソフィアリが高貴な生まれのオメガであり、この地に来たことをアスターは運命だと感じた。
そして、芸術家の魂としてはこのミューズを使って、いかに自分の作品の集大成として昇華させていくかも同時に思い起こす。
アスターは久々に魂が震えるような興奮に喜びを爆発させたのだ。
最愛の妻を番にすることを諦め、犠牲にしてまで行ってきた活動の一つの終着点。
ついにそれが見えはじめたのだった。
中央よりもより真っ青な空、もくもくと白い雲が浮かぶ。坂の上から覗き込むように眼下を見れば、なだらかな弧を描く翠緑の湾。
初めて見る海の美しさに思わず座席から立ち上がる。
馬車の窓から身を乗り出しだソフィアリの心は踊った。
風が日よけにかぶっていたレモンイエローのショールの裾をあおり、吹き飛ばそうと巻き上げる。
それを飛ばされないよう押さえて窓に向かい、かしぐソフィアリの細い腰を引き寄せ、ラグは馬車の揺れから彼を守った。
「すごいな! あんなに綺麗な色を見たのは生まれて初めてだ! 湾ぞいの縁が緑で、その向こうは宝石みたいに青い!」
そうコバルトブルーの海を指差しながらラグを振り返り、言い募る顔は喜びで輝くばかりだ。
ラグも少年につられるように少しだけ高揚を覚えた。
ハレへの街は南部の田舎の隠れた保養地だ。
美しい湾は先の戦争のときにより東の海岸線が軍港になって荒れたのに対して、入り江は遠浅であり大きな船が停泊するには足りなかったのが幸いした。この湾の周囲も切り立った細かな入江しかないため軍事的な拠点となることもなく、戦火を逃れ古い時代の建物などもそのままに残っていた。
白い壁の家々が立ち並び、街を形作っている。沖にある小さな島々と、丘の上から広がる大地は遥かに広い農園が点々と広がっていて、オリーブや香水の原料となる花、また野菜などが栽培されているそうだ。
「リリオン様の館は海を見渡せるあっちの丘の上ですよ」
御者を買って出てくれたサト商会の若者がそう教えてくれた。港とあまり離れていないところに小高い丘があり、そこに中央のソフィアリの屋敷よりはこぶりな白亜の邸宅がたっていた。
そのまま商会の倉庫に向かう若者に礼を言って馬車を降り、丘に続く鮮やかな色の花々が咲き乱れた坂道を二人はのんびりと歩いていった。
屋敷の前は同じような土気色の石が積み上がった壁がそびえ、周囲を一周ぐるりと取り囲んでいた。その壁の切れ目にある重厚な門扉は壁の向こうから茂った、ブーゲンビリアの濃い赤紫の花が溢れるように咲いて覆い彩っている。
ちょうどむこうに人影が見えたので声をかける。
「中央からリリオン殿を訪ねてまいりました!」
先ほどからの高揚した気分のまま、ラグより先にソフィアリがはきはきと声をかける。
日よけの帽子を被ったまま出てきたのは、この家の庭師で、すぐに他のものを呼びに行ってくれた。
「待っていたぞ。ジブリールの息子よ」
海を望む日当たりの良い窓辺で、リクライニングチェアに細い体を埋めるように腰を掛けたリリオンは、ドアの前にソフィアリをみつけ青い目を優しげに細めた。
同じくらい年寄りの背の高い家令は、傍らで彼のひざ掛けを直してあげながら主と似たように優しく微笑む。
「はじめまして大叔父様。お目にかかれて光栄です。本日よりこちらでお世話になります。ソフィアリ・モルスです」
ソフィアリが優しげな大叔父に近寄り頬にキスを交わしていると、突然バタンと背後の扉が開かれた。
「リリオン! 新たな香水のアイディアが浮かんだのだが。おや?」
賑やかな足音を立てて、整えられた口髭を生やした華やかな雰囲気の五十がらみの男が入ってきた。
白髪混じりの明るいアッシュブラウンの髪に、茶目っ気たっぷりの瞳はキラキラした琥珀色に輝いている。若いころはさぞやというような美丈夫で、今もなお現役の香りがする色男ぶりだ。そして芳しい花々の芳香を鮮やかに身にまとっている。
「賑やかだなあ、アスターよ。ちょうど中央からソフィアリが来たところだ。ソフィアリこのものはこの領地で農園を経営し、香水を作っている……」
「メルト・アスターだ」
ソフィアリが差し出した手をとると引き、思わず傾ぐ身体を自らに引き寄せる。
アスターは突然ソフィアリの項に顔を近づけて明らかにくんくんと匂いを嗅いできた。
ラグが驚いて止める前に、ソフィアリが目を真ん丸に見開き腕を振り下ろしながら飛のく。
ソフィアリは思わずこの無礼な男を美しい目を三角にして睨みつけるが、男は飄々とし全く悪びれない。
なんとなく次兄のバルクと似たような印象を相手に感じた。つまり、チャラチャラして見える。
アスターは興味深げにソフィアリをみやり、非常に嬉しそうに笑いながら再びにじり寄ってくる。
「いいねえ、いいねえ。美しいねえ。
品があって、かなりよい感じのフェロモン振りまきそうなんだけど。今ひとつまだ開花しなさそうなんだよなあ。うーん。少しだけ香るかな?」
呆気にとられるソフィアリを尻目に、今度は隣に控えるラグに、くいっと顎でしゃくる。
「なあ君、アルファだろ? ちょっと誘発フェロモンだしてくれないかな? 試してみたいんだよなあ。もうすぐ開花しそうだから、彼で新作のオメガのフェロモンの香水作りたいなあ」
「な! なにを!」
あまりの不躾さにソフィアリは、驚きを通り越して頭に血が昇りそうになった。
「初対面で何ということを言うのかと驚いただろう。しかし、このものが稀代の名調香師メルト・アスターだ。この領地で唯一中央に誇れる産業を興している。ま、少し変わっているがな」
このふざけた男がメルト・アスター。
ラグの背に隠れ無意識にその背中に擦寄りながら、ソフィアリはのちにこの街を興す同志、メルト・アスターとの衝撃的な出会い交わした。
夜になりソフィアはあてがわれた海の見える優美な内装の部屋のテラスにたち、静けさの中潮騒を聴いていた。
中央育ちのソフィアリには絶えず聞こえる寄せては返すさざ波の音に慣れるまで、少し時間がいりそうだ。
先程までリリオンと家令のカレル、ラグとソフィアリでカモミールのハーブティーを飲みながら、老紳士二人の若き日の冒険譚を聞かせてもらっていたのだ。
リリオンは生涯独身を貫いていると聞いていたが、実は家令のカレルと恋人同士でこの地に手を取り合って逃げてきたのだという。
ソフィアリもラグもそれには流石に驚いた。
ベータであったリリオンと、アルファのカレルの身分違いで性差さえ超えた禁断の恋物語。
ソフィアリはラグに寄り添いながら、二人の恋と冒険の物語にドキドキと胸を踊らされた。
出会ったばかりの素敵な白髪紳士たちのことをソフィアリはさらに好きになった。
そして上の階の部屋に戻ったのだが眠れない……
何か胸の疼きが止まらないのだ。
こんな時はふとセラフィンを思い出す。
自分の胸が痛むときは決まってセラフィンがどこか別の場所で泣いていた。
忘れようとして、忘れられるものではない。
苦しくて切なくて…… ソフィアリは恥ずかしくはしたないと思いながらも、隣にあるラグの部屋を躊躇いながらノックした。
ラグは使用人ではなく歴とした食客扱いになっている。
用件を考えろと思うが何も浮かばず、中からラグが出てきたときも思わず目をそらしてしまった。
しかしラグは優しく微笑む気配を、はいた吐息で伝えながらソフィアリを中に招き入れた。
夜具代わりの白い洗いざらしたシャツの間から発達した胸筋がみえ、獣人がルーツというわりにそこに胸毛はない。
しげしげと見ている視線に気がついたラグが、
やや照れたように笑うと、くしゃりとソフィアリの髪を撫ぜた。
「眠れないのか?」
こくん、と素直に頷く。まさかこの年になるまで一人寝をほぼしたことがないとは言えずにいると、ラグは大きな手で細いソフィアリの手首を優しく掴み、寝台の中へ招き入れた。
ふわっと、昨晩ラグから感じた心地よい香りが漂い、ソフィアリは胸の疼きが少しおさまるのを感じた。
「暑くないか?」
ソフィアリは半ば二周りも三周りも大きいラグの身体自体を敷布にするかのように、右半身を乗り上げて盛り上がった胸の谷間に横顔をくっつける。
ラグはやや焦ったように身じろぎしたが、ソフィアリはぐりぐりと頭を動かし、逞しい胸の弾力ある枕に寝心地の良いポイントを探すと瞼を閉じた。
ラグは細い足でこの地に根ざそうと一生懸命なソフィアリが、自分に懐き自然に甘えてきていることに、素直に嬉しさを感じた。
太く長い指に黒髪をまとわりつかせながら優しく何度も何度も髪を梳いては撫ぜた。
ソフィアリはあまりの心地良さに喉を鳴らす猫のように甘い吐息をはいてしまう。
「おやすみ、ソフィアリ。良い夢を」
そう囁かれ額に口づけを受けるとすぐに心が蕩けた気持ちになる。
ソフィアリは小さく頷きすぐに身体の力を抜いていった。
暖かなお互いの体温が、しみいってくる。
ラグも瞳を閉じた。
ラグとともにいると、時折感じていた胸の痛みが和らぎ、暖かい気持ちになるのをソフィアリはたびたび感じていた。
ラグもまた除隊後から身の内にあった喪失感がじわじわと満たされてくるように感じていたが、しかしそれに対して後ろめたさをもっていた。
ソフィアリは上下する暖かな胸に抱かれ、家族以外にこれほどの安らぎを持てたことの喜びに浸る。
そしてラグのむき出しの胸板に唇を押し当てた。
メルト・アスターは稀代の名調香師である。
オメガのフェロモンを模した彼にしか作れないオリジナルの香水の噂は、軍人でそういったことに全く明るくないラグにでも耳覚えがある。
同僚たちが戦地から戻るとご機嫌を取るように、恋人に貢いでいた宝石や化粧品と同じ類のもので確かとても高価だと聞いた。
畑から出てきたような石を積み上げただけの土台に杭に打ち付けられた木の板が粗末で質素な看板となっている。
そこにペンキでななめの文字でアスター農園と書かれてあった。中央での高級なイメージとはまるで違う。田舎の農園だ。
アスターの工房はその農園の片隅にひっそりとあった。
きらきらした日の光が差し窓ガラスごしに香水瓶を照らし出す工房内で、アスターは玉虫色の美しい意匠の小瓶を取り出す。
「この香りはとあるオメガの乙女の17歳頃のフェロモンを模したものだ。これを中央で売り出したとき沢山のアルファが、この地に我が番に違いないと押しかけたものだよ。その中でも熱烈だったのが隣国サーレの当時の王子でね。彼女は運命の番だといって召し上げられ、今ではサーレの王妃様。私はその国では功績を認められ名誉勲章を授与されているわけだ」
ラグはサーレ国から送られたという勲章を手に取り感心した。金色がかった緑の小瓶の香りをつけたハンカチーフをアスターから受け取りすぐにソフィアリに手渡す。
「青い林檎のような甘酸っぱさと、初恋を思わせる初々しさだろ?」
確かに良い香りだが、ソフィアリは別のことが気になってしょうがなかった。
青い瞳の視線を迷わせながらラグの腕を引くようにして尋ねた。
「ら、ラグはこういう香りが好き?」
「まあ、香水はどれも好ましいように作られているのだろうが…… 正直強い香りは得意ではないな」
そんな、二人のやり取りをアスターは、おやおやといった感じで見守っている。
「フェル族、興味深いね。五感を鋭敏にしたり、人並みにしたり。どうコントロールしてるのかね?」
ラグは光に透かし見ていた緑の小瓶を丁寧に棚に戻し、腕を組んで考え込む仕草をした。
「こればかりは子どもの頃からコントロールして来たとしか言いようがない。本能を現すときは目の色が光っているらしい。牙も伸びるし、嗅覚もその時は一時的に増している。戦場では敵の位置を土埃や硝煙の匂いで察知できて便利だったが、あまり使うと理性が飛びやすくなる」
「昨日、怖い男たちに絡まれた時、目が光ってかっこよかった!」
頬を紅潮させて呟くソフィアリに、なんだかこの香水と同じくらい甘酸っぱいものを感じて、アスターはこの二人のただならぬ関係性を見守ってやろうと思った。面白そうだし。
どのみち二人がこのハレへの街へ影響を与え続けることは確かなのだから。
「さて、花畑の方へ行ってみよう」
農園に隣接した工房を後にし、三人は広大なラベンダー畑へ向かっていた。
風がそよそよとラベンダーを揺らしソフィアリの黒髪もふわりと舞う。それが心地よくてたまらず、そのままソフィアリは畑の畦を走り出した。
「本当美しい子だ。あの艶やかな黒髪、撫ぜたり乱れさせたりしたくなる。我が手で開花させてみたい逸材だよなあ」
ちらりとラグをみやりながらアスターは口髭を弄んで軽口を叩く。
「あなたには番がいるのでしょう?」
少し剣呑な低い声を出す軍人上がりの厳ついラグに、全く引かない。こう見えて海千山千の男なのだ。
「私には妻子はいるが、番はいないよ。香水づくりの為にオメガのフェロモンを感知するのが必要不可欠だったからね。この年まで番も作らずに来てしまった。だからまあ、君があの子を番にしないなら、私もねえ……」
瞬間ラグの瞳の色が緑色からすっと引くように金色の輝きを放つ。そしてアルファの牽制フェロモンも同時に解き放たれた。
屋外とはいえ、もろに浴びたアスターは涙目になって辛そうに悶えつつも、どこか嬉しげだ。
その姿に気分を害され、やや眉をひそめる。
「あーこれこれ。もういい年してきたから他のアルファから牽制フェロモンだされることなんてないから、久々にくるなあ」
けらけらと笑いながら、アスターは瞳の色が戻ったラグの岩のような肩をばんばんと叩いてくる。
「知ってるか? 香水っていうのは、いい香りだけ混ぜても駄目なんだ。ほんのちょっとの臭気も必要なんだぞ? だからオメガの香水にも少しだけ他のアルファの牽制フェロモンに似た香りを入れたやつは、とにかく受けがいい。
私は君たちがとても気に入ったからセットにした新作を作りたい。新作にして代表作の一つとしてこの街をさらに中央に知らしめたいのさ」
あっけにとられたラグを尻目にアスターは遠くに手を振る。
花畑の向こうからソフィアリとともに小さな子供を連れた華奢な女性が歩いてくる。
「おお、妻たちと合流したようだ。昼食をいただくとしよう」
食事後は暖かなこの地にふさわしい黄色を基調とした明るい居間で、みなでゆったりとハーブティを楽しんだ。
今この農園に働いているのはオメガの少女が3人と少年が2人。
それに農園へ通いでやってくる者たちや使用人たちもいる。
皆で香水づくりに携わっている。
オメガの少女は頬を染めながらソフィアリに、お茶を運んできてくれた。中央から突然来た貴公子然とした少年が気になって仕方がないようだ。
「おやおやレーメ。君のアルファの王子様がついに来たと思ったんだろう? 残念ながらこの方には他に好きな人がいるようだぞ」
するとハニーブロンドの少女はべーっと舌を出して台所へ戻ってしまった。
「からかったりして。可哀想ですよ」
小さくてほっそりしてどちらかといえば地味めのアスターの妻は、傍らで読み書きを学ぶ息子を見守りながら夫をたしなめた。
「レーメも元気になって良かったじゃないか。……あの子はだいぶ遠い街のオメガの娼館から連れ帰ってきた子なんだ。オメガの香水づくりをしたいからって、私は国を巡っていてね。その大義名分があるとまあ、娼館の方も間口を広げて対応してくれるからね」
「香水づくりでなく、オメガを救うことが目的なのですか?」
アスターは色とりどりの額縁に飾られた小さな絵たちを指差していった。細かな花々が描かれた繊細な筆運びの絵。
「私の母はアルファの父親に捨てられたオメガでね。ああした小さな絵と…… 今はわかるが春を売って私を育ててくれたわけだ。
番のいないオメガは身体を削がれるように命をすり減らして生きる。母は若くして亡くなった。愛してもらったよ…… 母にとって私が全てだったから」
ソフィアリは呼吸が苦しくなるほど息を呑み、
ラグは顔色をなくすソフィアリの冷たい手を握ってやった。
「それで私は他のオメガたちをも、なんとかしてやりたくてね。
父は憎いしかない相手だが私も幸いにして同じアルファであったことだけはよかった。ちょっとばかし出来が良かったのでね。香水で財をなせたし、各地にコネもできた。
結果的には色々な地域をまわっては、アルファにオメガを斡旋したと影では言われたりもしたが……」
語られているのは美談だけではすまされないアスターの半生なのかもしれない。
中央から来たばかりの自分に対しこれほどの話をしてくれることに、ソフィアリは敬意を払いたかった。だから自分自身も誠実に素直な気持ちで向き合おうと思ったのだ。
「俺は正直、中央にいた頃は自分をアルファだと思いこんでて…… オメガのことをアルファにとって都合の良い者たちだと思ってた。
俺の母もオメガですが、貴族の出身で父とはとても夫婦仲がよくて……
だからオメガは気楽な存在だなと思っていたし、自分も母のような甘やかなで愛らしい人を娶るのだと思ってた。今でも自分がオメガだと認めたくない気持ちもあるし、オメガなのに…… どこかでオメガを差別してる。そんなこと考える自分を、心底軽蔑する。だけど、本当は今でも首輪はつけたくない、オメガってみられたくない」
きゅっと力を込めて肩を掴んでくれるラグの温かい手に勇気をもらう。
「だから協力してください。この街だけでもいい。オメガに生まれて良かったって。首輪もしないで自由に生きられる街を作りたい」
脳裏に蘇るのは父の言葉。
『お前がオメガとして生きて良かったと思える人生を送ってほしい』
柔らかく微笑みながら歩み寄ってきたアスターの妻が母のように、座るソフィアリを抱きしめた。
柔らかな花の香りに包まれ、ソフィアリは腕を回してその細い身体に縋るように抱きつくと、声を上げて泣き出した。
「きっと、きっと。この街を今よりももっと素敵なところにする。俺がしてみせる」
大人たちはソフィアリのそんな様子に胸を打たれつつも、何か新しいものがはじまるそんな希望も見いだした。
特にアスターは彼に期待していた。地道にやってきたオメガの保護活動だが、周りとの軋轢を生まぬためには、引かざるを得ないことも多かった。
もしもソフィアリが領主になればその権限を持ってして、根本から街を変えていくことすら可能だ。
ソフィアリが高貴な生まれのオメガであり、この地に来たことをアスターは運命だと感じた。
そして、芸術家の魂としてはこのミューズを使って、いかに自分の作品の集大成として昇華させていくかも同時に思い起こす。
アスターは久々に魂が震えるような興奮に喜びを爆発させたのだ。
最愛の妻を番にすることを諦め、犠牲にしてまで行ってきた活動の一つの終着点。
ついにそれが見えはじめたのだった。
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