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略奪編
気づき2
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(俺にはできなかったことだ……)
この5年。セラフィンとヴィオの間にできた絆は子が親を、そして親が子を互いに慕いあうような愛情だろうとジルは自分に言い聞かせようとしていた。
それほどセラフィンにとってヴィオは特別な子だった。
(妬けるぐらいに、セラは何かにつけてヴィオのことを思い出してたな)
二人で旅をしてフェル族の文化に触れ、彼らの里や住む地域を多く訪れてきた。
ヴィオと面差しが似たような子がいると、日頃表情に乏しいセラフィンは甘い眼差しをして微笑んでいたし、ソート派と会った時にはヴィオの母方の一族は健在であろうかと思いをはせていた。
ヴィオが被っていた母の形見のショールはソート族が遠くの国で取引してきたとても軽く温かく通気性の良い動物の毛がもとになっていて、それを他の部族が赤い果実で染め、ソートの女性が一針一針縫いこんだ大切なもので、等しく花嫁道具であったということ。きっとあの時のヴィオの姿を思い出していたのだろう。
本屋によれば今ヴィオはどのあたりを学んでいるのかと、今の学生の学んでいる辺りを確認したりしていた。
一つ一つヴィオに繋がることを知りえるたびにセラフィンは優しく愛情深く彼を想っていた。
そしてヴィオはオメガだったのだ。
オメガは、唯一、セラと番うことができるもの。
(先生は、血を分けた兄を運命の番と思い定めて恋に破れ、長い間真に心を通わせられる相手に出会えず孤独の中で過ごしてきた。これからの彼の人生を道しるべの星の如く照らしてあげて欲しい。俺の、愛する人の)
食事を終え獲物を喰らって満足げな顔になった若い狼のようなカイは、ナプキンで口元を拭うと、ヴィオの居場所を教えてもらおうとじっとジルの顔を期待を込めて見つめ返してくる。
(このまま素直にヴィオの居場所を教えてしまって、ヴィオをカイに返してしまっていいのか? 昨日の夜にそもそも先生とヴィオがすでに番になっていたら? なっていなくても二人が真に愛し合っていたら、引き裂くことは正しいことなのか? )
僅かな間に押し寄せてきた葛藤の最中、女給が食器を早々に片づけに来てくれた。ジルにかねてから気がある彼女は、ジルに積極的に好きなものを聞いてきたり、仕事終わりに立ち寄った時は食事に誘って欲しそうにいつも無駄に近くをうろうろしてくる。可愛い愛想のよい女性だから、悪い気はしないが特に気に留めていなかった。しかし不意に、あの、香り「紫の小瓶」が彼女から漂ってきたのだ。
ジルは思いがけぬことに彼女の顔をまじまじと見上げてしまった。彼女は艶やかに微笑むと手早く食器を片付けた後、他の女給と言葉を交わすと頬を染めて奥に引っ込んでいった。
香りに惑わされるように、脳裏に蘇る低く艶のある女の婀娜っぽい囁き。
『セラフィンへの暗示の掛け方を、教えてあげる。それをどう使うかは……。貴方に任せるわね?』
「このあとすぐにヴィオを迎えに行ってやりたいんです。居場所を教えてください」
居場所知りえたらもう、彼には一分の迷いもないのだ。カイの声にもせかされ、ジルの頭の中に一つの考えが大きく膨らんできた。
(ヴィオをあるべき場所に戻せば、セラはまた一人になる。でもヴィオはあの里にとって必要な子なんだ。それはセラにだってわかっていることじゃないのか? ……セラには俺がいる。絶対に離れたりしない。俺たちは番にはなれない、でも俺はずっとセラを愛していける自信がある。心も身体も、全部。今度こそ想いを告げて、全部。俺のものにしたいんだ)
この5年。セラフィンとヴィオの間にできた絆は子が親を、そして親が子を互いに慕いあうような愛情だろうとジルは自分に言い聞かせようとしていた。
それほどセラフィンにとってヴィオは特別な子だった。
(妬けるぐらいに、セラは何かにつけてヴィオのことを思い出してたな)
二人で旅をしてフェル族の文化に触れ、彼らの里や住む地域を多く訪れてきた。
ヴィオと面差しが似たような子がいると、日頃表情に乏しいセラフィンは甘い眼差しをして微笑んでいたし、ソート派と会った時にはヴィオの母方の一族は健在であろうかと思いをはせていた。
ヴィオが被っていた母の形見のショールはソート族が遠くの国で取引してきたとても軽く温かく通気性の良い動物の毛がもとになっていて、それを他の部族が赤い果実で染め、ソートの女性が一針一針縫いこんだ大切なもので、等しく花嫁道具であったということ。きっとあの時のヴィオの姿を思い出していたのだろう。
本屋によれば今ヴィオはどのあたりを学んでいるのかと、今の学生の学んでいる辺りを確認したりしていた。
一つ一つヴィオに繋がることを知りえるたびにセラフィンは優しく愛情深く彼を想っていた。
そしてヴィオはオメガだったのだ。
オメガは、唯一、セラと番うことができるもの。
(先生は、血を分けた兄を運命の番と思い定めて恋に破れ、長い間真に心を通わせられる相手に出会えず孤独の中で過ごしてきた。これからの彼の人生を道しるべの星の如く照らしてあげて欲しい。俺の、愛する人の)
食事を終え獲物を喰らって満足げな顔になった若い狼のようなカイは、ナプキンで口元を拭うと、ヴィオの居場所を教えてもらおうとじっとジルの顔を期待を込めて見つめ返してくる。
(このまま素直にヴィオの居場所を教えてしまって、ヴィオをカイに返してしまっていいのか? 昨日の夜にそもそも先生とヴィオがすでに番になっていたら? なっていなくても二人が真に愛し合っていたら、引き裂くことは正しいことなのか? )
僅かな間に押し寄せてきた葛藤の最中、女給が食器を早々に片づけに来てくれた。ジルにかねてから気がある彼女は、ジルに積極的に好きなものを聞いてきたり、仕事終わりに立ち寄った時は食事に誘って欲しそうにいつも無駄に近くをうろうろしてくる。可愛い愛想のよい女性だから、悪い気はしないが特に気に留めていなかった。しかし不意に、あの、香り「紫の小瓶」が彼女から漂ってきたのだ。
ジルは思いがけぬことに彼女の顔をまじまじと見上げてしまった。彼女は艶やかに微笑むと手早く食器を片付けた後、他の女給と言葉を交わすと頬を染めて奥に引っ込んでいった。
香りに惑わされるように、脳裏に蘇る低く艶のある女の婀娜っぽい囁き。
『セラフィンへの暗示の掛け方を、教えてあげる。それをどう使うかは……。貴方に任せるわね?』
「このあとすぐにヴィオを迎えに行ってやりたいんです。居場所を教えてください」
居場所知りえたらもう、彼には一分の迷いもないのだ。カイの声にもせかされ、ジルの頭の中に一つの考えが大きく膨らんできた。
(ヴィオをあるべき場所に戻せば、セラはまた一人になる。でもヴィオはあの里にとって必要な子なんだ。それはセラにだってわかっていることじゃないのか? ……セラには俺がいる。絶対に離れたりしない。俺たちは番にはなれない、でも俺はずっとセラを愛していける自信がある。心も身体も、全部。今度こそ想いを告げて、全部。俺のものにしたいんだ)
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