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溺愛編
クィートの恋2
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青年は高い位置で縛った長い髪を馬のしっぽのように振りながらふるふると首を振った。首もとがたっぷりと開いた白い楊柳のブラウスは鎖骨辺りまでよく見え、赤い飾り紐で編み上げ結ばれている。花のようにも見える赤い模様がその下に縫い込まれていてやや少女の着るもののような甘い雰囲気も漂っている。長い脚は同じく裾をひらひらさせた白い楊柳のズボンでどちらも涼しげな雰囲気だ。ラフな格好で、客人にも見えづらいし、かといって使用人というのにも少し雰囲気が違う。モルス家で働く者は身元のしっかりした洗練された身のこなしのものが多い中、彼はどう考えても野生児そのものだ。彼が何者なのかどんどん興味がわいてきた。
「大丈夫です。そこを少しどいていただければ」
「いいからいいから」
華奢というほどではないがまだ線が細い身体だ。ミズナラの大木にかなりの高さまでよじ登った身軽さを考えたら軍人で体格に恵まれたクィートならば十分受け止められると考えたのだ。
大きく長く逞しい腕を広げてアピールしてみるが彼は困ったような顔のまま、再びかぶりをふると、こんどは何の躊躇もなくクィートの頭上高くから飛び降りた。そしてまるで猫のようにくるんとその身をとんぼ返りさせながら、クィートの隣に音もなく着地する。
声を出しそうになるほど驚いたが、流石にプライドがそれを許さず何とか飲み込む。
「驚いた。君はすごく身が軽いんだな」
しかし実際クィートが驚いているところはそこだけではなかった。傍に降り立った彼があまりにも愛らしい顔立ちをしていたからだ。背丈は十分青年の域に達しているのだろうが、子猫のように眦がやや吊り上がったぱっちりと大きな瞳。その色は見たこともないような深い紫色で真ん中に金色の環が光に透けて動いているように見える。赤いふっくらした唇に通った鼻筋に小さな小鼻。
肌は少しだけ褐色に寄っているがそれがまた健康的で艶々と輝いて見えた。もしかしたらフェル族の少年なのかもしれない。フェル族だったら成人前の姿に違いない。何しろ軍にいる成人したフェル族の男といったら熊と見まごう大きさなのだから。
「あ、あの……」
あまりにじっと見つめすぎてしまったためか、彼は戸惑った様子になったのでクィートもなんだか悪いことをしている気がしてきた。
「あの。申し訳ないのですが、僕が木に登っていたことを内緒にしておいてくださいませんか?」
そんな他愛のないことを小首をかしげて困った顔でお願いされたものだから、クィートの胸は妙な高まりを覚え、思わず口もとに手をやり、妙な声を出しそうになるのをこらえてしまった。しかも頭や肩に葉っぱが付いているし、ところどころ少し薄汚れてみえる。
(なんだ、なんなんだ。この可愛らしい少年は。仕事をさぼって木登りしていることがばれたら親方に叱られるのか? 何という愛らしいお願いなんだ)
「わかったわかった。親方に内緒にしておいてあげるから、君の名前を教えてくれないか?」
「親方? 先生のことかな……。 僕はヴィオです」
「そうか。俺はクィート。仲よくしような」
そういって差し出した手をおずおずと握られてクィートはなんだか心躍るものを感じていた。しかも彼からふわりと石鹸のようなミュゲの香水のようなそこにまた少しだけ官能的な香りが混じったようなとても艶めかしい香りがしてきて、クィートは夢見心地の気分になるとさらにその手を両手で掴んでぎゅっと握ってしまった。
(せっかく来たこの国で運命の出会いを果たせないままだと思っていたけど、これはもしかして。この香しさ。この子、オメガなのかもしれないな。たまらない香りだ。これはいい拾いものをしたぞ)
「大丈夫です。そこを少しどいていただければ」
「いいからいいから」
華奢というほどではないがまだ線が細い身体だ。ミズナラの大木にかなりの高さまでよじ登った身軽さを考えたら軍人で体格に恵まれたクィートならば十分受け止められると考えたのだ。
大きく長く逞しい腕を広げてアピールしてみるが彼は困ったような顔のまま、再びかぶりをふると、こんどは何の躊躇もなくクィートの頭上高くから飛び降りた。そしてまるで猫のようにくるんとその身をとんぼ返りさせながら、クィートの隣に音もなく着地する。
声を出しそうになるほど驚いたが、流石にプライドがそれを許さず何とか飲み込む。
「驚いた。君はすごく身が軽いんだな」
しかし実際クィートが驚いているところはそこだけではなかった。傍に降り立った彼があまりにも愛らしい顔立ちをしていたからだ。背丈は十分青年の域に達しているのだろうが、子猫のように眦がやや吊り上がったぱっちりと大きな瞳。その色は見たこともないような深い紫色で真ん中に金色の環が光に透けて動いているように見える。赤いふっくらした唇に通った鼻筋に小さな小鼻。
肌は少しだけ褐色に寄っているがそれがまた健康的で艶々と輝いて見えた。もしかしたらフェル族の少年なのかもしれない。フェル族だったら成人前の姿に違いない。何しろ軍にいる成人したフェル族の男といったら熊と見まごう大きさなのだから。
「あ、あの……」
あまりにじっと見つめすぎてしまったためか、彼は戸惑った様子になったのでクィートもなんだか悪いことをしている気がしてきた。
「あの。申し訳ないのですが、僕が木に登っていたことを内緒にしておいてくださいませんか?」
そんな他愛のないことを小首をかしげて困った顔でお願いされたものだから、クィートの胸は妙な高まりを覚え、思わず口もとに手をやり、妙な声を出しそうになるのをこらえてしまった。しかも頭や肩に葉っぱが付いているし、ところどころ少し薄汚れてみえる。
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そういって差し出した手をおずおずと握られてクィートはなんだか心躍るものを感じていた。しかも彼からふわりと石鹸のようなミュゲの香水のようなそこにまた少しだけ官能的な香りが混じったようなとても艶めかしい香りがしてきて、クィートは夢見心地の気分になるとさらにその手を両手で掴んでぎゅっと握ってしまった。
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