137 / 222
溺愛編
クィートの恋4
しおりを挟む
そんな風に真面目に言いながら眉をすっかり下げた困り顔をしているのがまた面白いやら可愛いやら。手を握っていることを彼が迷子になるからだと思ったらしく、クィートはおかしくて吹き出してしまった。
「いや、いや。流石にそんなことは思ってないって」
「だって……。みんな街中で僕の手を握って歩くから……」
光の中に立つヴィオの衣服は透け、しっかりとした骨格なのに腰だけは頼りなげなほど縊れたスタイルを見せつけながら、無邪気な様子で頬を染めたまま恥じらう様な顔をする。風で大きな袖がふわりと舞い、まるで白水蓮の精のようにすら見えてくる。またヴィオから甘く優美な香りが零れ、本人の芳香は封じきれぬほど漏れるのにこちらの方は受け取らぬなどなんと罪深いほど悩ましい存在なのだろうと胸が切なくなるほどだ。
(誘っているのかと思うほど……。まるで無防備だな)
鮮やかな色合いの瞳に見惚れながら、クィートはヴィオに魅了された心地を味わいながら、握った手の甲に気障な仕草で口づける。慌てるヴィオが逃げる前に腕を引っ張ると鮮やかな様子でヴィオを懐に抱き込んだのだった。
「それは……。君がとても愛らしいからじゃないのか? 俺はそう思った。だからこうしてずっと手を握ってるんだ。ほんとだぞ?」
「揶揄わないでください」
流石にそこまでされたらクィートの猛攻に気づいたのかさらに赤面して少し怒ったような顔になる。もちろん眉を吊り上げた勝ち気な表情もなかなかよく、腕から逃れようとするからこのまま、どさくさに紛れて唇でも奪ってしまおうと強引に顔を寄せた。背後からすごい速さで木々の間を通る足音が聞こえてきて、流石にクィートも頭を上げる。
「ヴィオ!」
「先生!」
「先生?」
名前を呼ばれたヴィオが嬉々として辺りを見回して姿を探している。すぐに腕から飛び出そうとしていく機敏な身体をクィートは思わず逃すまいと抱えなおす。
すると足音の主は途中からは道さえ無視したのか、まっすぐにこちらに向かってきた。
「うわあ! 叔父さん!」
「叔父さん??」
そしてがさがさっと植え込みをかき分けるように現れた人物にクィートは驚き過ぎて『格好の良い』自分をまたすっかり忘れ、素っ頓狂な声を上げてしまった。
腕を赤いショールのような布で怪我をしているのか腕を吊った状態で、頭には無数の木の葉、漆黒の光沢が艶めく髪にはところどころ小枝に髪を巻きつけ、真っ青な目を見開いて彫像のような白皙の頬を人間らしく紅潮させている。それは未だかつて見たことのないよう衝撃的な姿だった。
いつでも物静かで麗しき叔父セラフィンが、慌てふためき呼吸を乱すほどの全速力で二人の前に駆け寄ってきたのだ。
「いや、いや。流石にそんなことは思ってないって」
「だって……。みんな街中で僕の手を握って歩くから……」
光の中に立つヴィオの衣服は透け、しっかりとした骨格なのに腰だけは頼りなげなほど縊れたスタイルを見せつけながら、無邪気な様子で頬を染めたまま恥じらう様な顔をする。風で大きな袖がふわりと舞い、まるで白水蓮の精のようにすら見えてくる。またヴィオから甘く優美な香りが零れ、本人の芳香は封じきれぬほど漏れるのにこちらの方は受け取らぬなどなんと罪深いほど悩ましい存在なのだろうと胸が切なくなるほどだ。
(誘っているのかと思うほど……。まるで無防備だな)
鮮やかな色合いの瞳に見惚れながら、クィートはヴィオに魅了された心地を味わいながら、握った手の甲に気障な仕草で口づける。慌てるヴィオが逃げる前に腕を引っ張ると鮮やかな様子でヴィオを懐に抱き込んだのだった。
「それは……。君がとても愛らしいからじゃないのか? 俺はそう思った。だからこうしてずっと手を握ってるんだ。ほんとだぞ?」
「揶揄わないでください」
流石にそこまでされたらクィートの猛攻に気づいたのかさらに赤面して少し怒ったような顔になる。もちろん眉を吊り上げた勝ち気な表情もなかなかよく、腕から逃れようとするからこのまま、どさくさに紛れて唇でも奪ってしまおうと強引に顔を寄せた。背後からすごい速さで木々の間を通る足音が聞こえてきて、流石にクィートも頭を上げる。
「ヴィオ!」
「先生!」
「先生?」
名前を呼ばれたヴィオが嬉々として辺りを見回して姿を探している。すぐに腕から飛び出そうとしていく機敏な身体をクィートは思わず逃すまいと抱えなおす。
すると足音の主は途中からは道さえ無視したのか、まっすぐにこちらに向かってきた。
「うわあ! 叔父さん!」
「叔父さん??」
そしてがさがさっと植え込みをかき分けるように現れた人物にクィートは驚き過ぎて『格好の良い』自分をまたすっかり忘れ、素っ頓狂な声を上げてしまった。
腕を赤いショールのような布で怪我をしているのか腕を吊った状態で、頭には無数の木の葉、漆黒の光沢が艶めく髪にはところどころ小枝に髪を巻きつけ、真っ青な目を見開いて彫像のような白皙の頬を人間らしく紅潮させている。それは未だかつて見たことのないよう衝撃的な姿だった。
いつでも物静かで麗しき叔父セラフィンが、慌てふためき呼吸を乱すほどの全速力で二人の前に駆け寄ってきたのだ。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
Accarezzevole
秋村
BL
愛しすぎて、壊してしまいそうなほど——。
律界を舞台に織りなす、孤独な王と人間の少年の運命の物語。
孤児として生きてきた奏人(カナト)は、ある日突然、異世界〈律界〉に落ちる。
そこに君臨するのは、美貌と冷徹さを兼ね備えた律王ソロ。
圧倒的な力を持つ男に庇護されながらも、奏人は次第に彼の孤独と優しさを知っていく。
しかし、律界には奏人の命を狙う者たちが潜み、ソロをも巻き込む陰謀が動き始める。
世界を背負う王と、ただの人間——身分も種族も違う二人が選ぶのは、愛か滅びか。
異世界BL/主従関係/溺愛・執着/甘々とシリアスの緩急が織りなす長編ストーリー。
【完結】陰キャなΩは義弟αに嫌われるほど好きになる
grotta
BL
蓉平は父親が金持ちでひきこもりの一見平凡なアラサーオメガ。
幼い頃から特殊なフェロモン体質で、誰彼構わず惹き付けてしまうのが悩みだった。
そんな蓉平の父が突然再婚することになり、大学生の義弟ができた。
それがなんと蓉平が推しているSNSのインフルエンサーAoこと蒼司だった。
【俺様インフルエンサーα×引きこもり無自覚フェロモン垂れ流しΩ】
フェロモンアレルギーの蒼司は蓉平のフェロモンに誘惑されたくない。それであえて「変態」などと言って冷たく接してくるが、フェロモン体質で人に好かれるのに嫌気がさしていた蓉平は逆に「嫌われるのって気楽〜♡」と喜んでしまう。しかも喜べば喜ぶほどフェロモンがダダ漏れになり……?
・なぜか義弟と二人暮らしするはめに
・親の陰謀(?)
・50代男性と付き合おうとしたら怒られました
※オメガバースですが、コメディですので気楽にどうぞ。
※本編に入らなかったいちゃラブ(?)番外編は全4話。
※6/20 本作がエブリスタの「正反対の二人のBL」コンテストにて佳作に選んで頂けました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる