香りの献身 Ωの香水

溺愛編

胸の鼓動2

　前回彼の素肌に触れた時、ヴィオは抑制剤が切れて記憶がところどころ飛んで覚えていないところもあったのだが、今回は正気なところにありありとセラフィンの男としての魅力を見せつけられて、急に恥ずかしくなって目をそらしてしまった。

（なんで男同士なのに、こんなに恥ずかしいのかな。先生がすごく綺麗だから？　僕がオメガだから？）

　頬を染め長い睫毛を伏せたヴィオは湯上りにまだしっとりとした髪を寝台に広げ、ヴィオもまた男性であるので胸元も大きくあいた天衣無縫なその姿なうえ、さらに足も太ももまでしどけなく露わになっている。自分で自分の姿がどんなに蠱惑的に見えているかなんてヴィオは想像だにしないのだろう。

「こんな怪我ぐらいで俺がお前を抱くことはないと思って、お前は子供のように身を寄せてくる。男慣れしてないから、クィートにもされるがままだったんだろう？　可愛いね、ヴィオ。お前を抱くことぐらい、この腕一本でも造作もないんだよ？」
「やあ」

　目を合わせぬまま、今度は両手で少しずつ上掛けを引き寄せてそれにくるまって逃げようとする。
　存外に幼い仕草は愛らしいがセラフィンはそれを許さず、腰から背までをいやらしく撫ぜ上げてくるような刺激的な美声でもって有無を言わせず命じてきた。

「ヴィオ、俺を見るんだ。お前が番にと望む男だろ？　目をそらすな」

　恐々と潤む瞳でセラフィンを見つめ返してきたヴィオの健気さに優しく彼のペースに合わせてやりたいという心が浮かんできたが、セラフィンは今はそれをぐっとこらえる。

　怪我している方の腕に体重をかけぬように巧みに右半身をつくと、ヴィオに添い寝するように風呂上がりの暖かな身体の横に伏す。身を固くしてセラフィンの動きを全身で感じているかのようなヴィオの髪をゆっくりと撫ぜ梳き、額や目元、こめかみに丁寧で優しく口づけると、こわばりが溶けて再び心地よさげにヴィオは瞳を瞑った。ヴィオの首筋に唇を這わせて項を探る様にわざと音を立てて口づけていくと、弄ぶように項にごくごく近い首筋に番契約を連想させるような仕草で鋭い犬歯を立て甘噛みした。

「ああううっ」

　ヴィオは少し震えてぽろっと涙を零し、無意識に顔をふっていやいやをするが、セラフィンは再びヴィオの感じやすくゆるゆると立ちあがりかけた際どい脚の間をわざと摺り上げながら今度は腹部まで到達すると、大きな掌でヴィオの薄い腹に手を当ててぐりっと一撫ぜした。

　ヴィオは緊張と快感への期待から身体を跳ね上げあせて身じろぎし、「はあっ」と艶っぽい声を漏らす。

「ねえ、ヴィオ？　俺と番になるのなら……。一度の契りで、お前はきっと孕んでしまうよ？　それでもいいんだね？」

　ヴィオの大きな柔らかい耳朶をかりっと噛み、セラフィンはそう昏く微笑んだ。