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溺愛編
湖水地方1
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中央において湖水地方が観光名所として名が知れているが、その湖に至るまでの東西に連なる運河沿いの街の一つにフェル族が多く住まう地域がある。
早いうちから里を持たずキャラバンをして暮らす生活をしていたソート派は戦前からこの地域で運河建設に当たっていたフェル族が多く集まることに目をつけ、それぞれの一族ごとに彼ら特有の日用品を売る店を立ち上げていた。
現在も湖水地方に至る東部の運河周辺に彼らが住まう居住区としてそれぞれの一族ごとに独特の雰囲気をもつ建物や、それぞれの里で食べられてきた郷土料理を嗜む、里ごとの民芸品を買うことができる街ができた。運河沿いはそんな一種異国情緒の漂う観光地となっていた。
セラフィンとは年の離れた知己である『クイン・ソート』なる人物はその名の通り、ソート派のそれらの街を取りまとめるいわば街の重鎮だ。若い頃の無理がたたってひざを痛めており、一時期は痛みから日常生活に支障をきたすほどであったらしい。困りかね病院を転々としたのちセラフィンが勤める軍の記念病院にかかった。外来の診察の当番に当たっていたセラフィンがリハビリや内服薬、外科的なアプローチと様々手を回した甲斐があり、劇的に回復したことに敬意を払われ、セラフィンが彼と懇意にするきっかけとなったのだ。
ソート派は里を持たぬ代わりに人と人との繋がりを大切にする。一度自分の旧知の友と認めた相手に銀のコインに自分の紋と名を刻んで渡し、どこにいってもそのものの紹介で便宜を図れるようにするのだ。
もちろん誰もかれもがそのコインを持てるわけではない。だからこそドリの里に訪ねていったアガがセラフィンを客人としてもてなすことをためらわなかった。なぜならばクインはアガと同じくその一族の直径の家系の長であり、ヴィオの母を通じ姻戚関係に当たる人物だったからだ。
そのクインを訪ねて運河に降り立ったヴィオはいきなり途方に暮れていたのだった……。
遡ること十数分前。
ヴィオはセラフィンにべったりと付き添われ久しぶりにモルスを後にしていた。体調がよくなり、一時期は出ていた微熱も引いて数日たった為、抑制剤の服用量はセラフィンが小まめにヴィオの様子を伺い試し試ししながら元に戻していた。
少し大回りになるが車で行けなくもないクインたちの暮らす街ソート街に、折角ならば中央屈指の観光地をゆったり巡ろうというセラフィンの提案もあり、二人運河を通る観光船も兼ねたその地域のものの生活の足である船に乗ってヴィオの兄たちの行方を知るであろうクインの持つ店を訪ねることになったのだ。
赤いレンガ作りの倉庫やボート小屋、商店が立ち並ぶ合間は柳が涼やかに緩れ川辺に黄色い花々が咲き乱れている。自然の緑も十分残った景観は目に鮮やかで、船からの眺めのすばらしさにヴィオは、興奮げに景色を見渡していた。
白亜で二階建て、座席で食事も嗜めるようなもっと優雅なタイプの船もあったのだが、ヴィオはボートに毛が生えたような生活に使っている人が多く乗っている方の船がより川面に近くて楽しそうとそちらを選んだ。
ジブリールに着せられたオメガの項をさりげなくガードする立ち襟でフリルの付いた淡い水色のブラウスに、鮮やかな青いズボンをはいたはつらつとしたヴィオは、さりげなくおそろいの色のシャツに同じく真っ青なジャケットと白いパンツ姿のセラフィンと寄り添い、二人はとにかくよく目立っている。
水上のバスと言われるだけあり、人が沢山乗り降りするのでやや気ぜわしいが、ヴィオは喜色満面の笑顔で終始、波を立てて滑るように進む船から川を覗き込むようしていた。夢中になって時に川に落ちるのではと心配したセラフィンに時折背中をとんとんと叩かれ窘められるほどだった。
「先生、このまま船に乗っていくと湖までつくのでしょう?」
「ヴィオ?」
するとセラフィンが片眉を吊り上げ、悪戯っぽく微笑みながらヴィオをじっと見つめてきた。
(あ、そうだ……。もう先生って呼んじゃ駄目だったんだ)
「あ、せ、せら」
あからさまににっこりと『よくできました』という風に笑うセラフィンの幸せそうな顔を見るのはヴィオもことのほか嬉しいのだ。
「そうだ。ヴィオは動物園に行きたかったのだよね?」
「もう! 僕を子供だと思ってる!」
寧ろ子供っぽい仕草で頬をぷくっと膨らませるし、本音ではとても動物園に行きたい。これは国内でも有数の観光の目玉の一つといってよく、地方出身のものにとってここにくることは長年の悲願といっていいので致し方ないとヴィオは思う。学校ができてから見た図鑑に描かれていたライオンや象、鷲など。とにかく自分よりも大きな動物でこの目で見てみたいし、カラフルな色の鳥の羽根など本当にそんな色をしているのかとかとにかく考えるだけでワクワクするのだ。
早いうちから里を持たずキャラバンをして暮らす生活をしていたソート派は戦前からこの地域で運河建設に当たっていたフェル族が多く集まることに目をつけ、それぞれの一族ごとに彼ら特有の日用品を売る店を立ち上げていた。
現在も湖水地方に至る東部の運河周辺に彼らが住まう居住区としてそれぞれの一族ごとに独特の雰囲気をもつ建物や、それぞれの里で食べられてきた郷土料理を嗜む、里ごとの民芸品を買うことができる街ができた。運河沿いはそんな一種異国情緒の漂う観光地となっていた。
セラフィンとは年の離れた知己である『クイン・ソート』なる人物はその名の通り、ソート派のそれらの街を取りまとめるいわば街の重鎮だ。若い頃の無理がたたってひざを痛めており、一時期は痛みから日常生活に支障をきたすほどであったらしい。困りかね病院を転々としたのちセラフィンが勤める軍の記念病院にかかった。外来の診察の当番に当たっていたセラフィンがリハビリや内服薬、外科的なアプローチと様々手を回した甲斐があり、劇的に回復したことに敬意を払われ、セラフィンが彼と懇意にするきっかけとなったのだ。
ソート派は里を持たぬ代わりに人と人との繋がりを大切にする。一度自分の旧知の友と認めた相手に銀のコインに自分の紋と名を刻んで渡し、どこにいってもそのものの紹介で便宜を図れるようにするのだ。
もちろん誰もかれもがそのコインを持てるわけではない。だからこそドリの里に訪ねていったアガがセラフィンを客人としてもてなすことをためらわなかった。なぜならばクインはアガと同じくその一族の直径の家系の長であり、ヴィオの母を通じ姻戚関係に当たる人物だったからだ。
そのクインを訪ねて運河に降り立ったヴィオはいきなり途方に暮れていたのだった……。
遡ること十数分前。
ヴィオはセラフィンにべったりと付き添われ久しぶりにモルスを後にしていた。体調がよくなり、一時期は出ていた微熱も引いて数日たった為、抑制剤の服用量はセラフィンが小まめにヴィオの様子を伺い試し試ししながら元に戻していた。
少し大回りになるが車で行けなくもないクインたちの暮らす街ソート街に、折角ならば中央屈指の観光地をゆったり巡ろうというセラフィンの提案もあり、二人運河を通る観光船も兼ねたその地域のものの生活の足である船に乗ってヴィオの兄たちの行方を知るであろうクインの持つ店を訪ねることになったのだ。
赤いレンガ作りの倉庫やボート小屋、商店が立ち並ぶ合間は柳が涼やかに緩れ川辺に黄色い花々が咲き乱れている。自然の緑も十分残った景観は目に鮮やかで、船からの眺めのすばらしさにヴィオは、興奮げに景色を見渡していた。
白亜で二階建て、座席で食事も嗜めるようなもっと優雅なタイプの船もあったのだが、ヴィオはボートに毛が生えたような生活に使っている人が多く乗っている方の船がより川面に近くて楽しそうとそちらを選んだ。
ジブリールに着せられたオメガの項をさりげなくガードする立ち襟でフリルの付いた淡い水色のブラウスに、鮮やかな青いズボンをはいたはつらつとしたヴィオは、さりげなくおそろいの色のシャツに同じく真っ青なジャケットと白いパンツ姿のセラフィンと寄り添い、二人はとにかくよく目立っている。
水上のバスと言われるだけあり、人が沢山乗り降りするのでやや気ぜわしいが、ヴィオは喜色満面の笑顔で終始、波を立てて滑るように進む船から川を覗き込むようしていた。夢中になって時に川に落ちるのではと心配したセラフィンに時折背中をとんとんと叩かれ窘められるほどだった。
「先生、このまま船に乗っていくと湖までつくのでしょう?」
「ヴィオ?」
するとセラフィンが片眉を吊り上げ、悪戯っぽく微笑みながらヴィオをじっと見つめてきた。
(あ、そうだ……。もう先生って呼んじゃ駄目だったんだ)
「あ、せ、せら」
あからさまににっこりと『よくできました』という風に笑うセラフィンの幸せそうな顔を見るのはヴィオもことのほか嬉しいのだ。
「そうだ。ヴィオは動物園に行きたかったのだよね?」
「もう! 僕を子供だと思ってる!」
寧ろ子供っぽい仕草で頬をぷくっと膨らませるし、本音ではとても動物園に行きたい。これは国内でも有数の観光の目玉の一つといってよく、地方出身のものにとってここにくることは長年の悲願といっていいので致し方ないとヴィオは思う。学校ができてから見た図鑑に描かれていたライオンや象、鷲など。とにかく自分よりも大きな動物でこの目で見てみたいし、カラフルな色の鳥の羽根など本当にそんな色をしているのかとかとにかく考えるだけでワクワクするのだ。
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