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第二章 HOW To ヒート!

1 運命か本能か

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 運命やら本能やらに導かれ、その時が来ればおのずとわかる。

 番になった時のことを他のアルファやオメガに聞いたら大抵ロマンチックな答えが返ってくるものだ。そんなものなのだろうかと今までは尊は半信半疑に思っていた。
 しかし実際青葉のヒートを目の当たりにし、らしくないアルファと常々自嘲してきた自分の中にも『アルファの本能』というものが眠っていたのだとありありと感じることができた。

 雨が上がりの朝。尊は生まれ変わったような心地で目を覚ました。
 無味乾燥な白のレースカーテン越しの日の光が明るく輝く。
 それより眩しいのは腕の中で寝息すら立てずに白い瞼を瞑って微睡む恋人の顔だ。
 幸せそうにうっすら頬を桃色の染めた姿は昨日の夜の妖艶さは鳴りを潜め、出会ったときの彼を髣髴とさせるあどけなさだった。

「……っ」

 『あおば』と呼ぶことを許されたばかりのその名前を声に出したくて、でもいまだ微睡む彼を起こしたくなくて、心の中で挨拶をした。

(青葉、おはよう。顔色は良さそうだね)

 大好きな、大切な青葉。
 青葉は尊にとって長いこと片思いをしてきた相手だ。
 どちらかといえば推しとファンみたいな関係ともいえ、一方的に元気をもらっていたというのが正しいかもしれない。
 向かいの店からそっと見守り、必要な時にだけ声をかけて笑顔で励ましあう。
 元気の交換。愛情を込めたまなざしの交換。
 昨日までは、それでいいと思っていたのだ。今となってはどうしてそう思っていられたのか不思議でならない。

(あの時、青葉を最初に見つけたのが、俺で本当に良かった……)

 これこそ運命のなせる業なのではないかと思うほどのタイミング。
 休憩室で蜜の香気を漂わせたままくったりと眠る青葉を、何者からも守りたいと強く感じた。
 同僚が青葉を連れ去ろうとしている姿を見た時、相手を打ち負かしてでも彼をわが腕に取り戻したいと思った。
 あの自分の中に沸き起こった激しい衝動は、野蛮で独善的で、でも決して悪い気分ではなかったと今は思う。
 自分の気持ちを奮い立てるためなのか、自然と陸上の試合の前、集中力を高めるために聞いていた楽曲が頭の中で鳴り響き全身に力が漲ってきた。
 迷ってばかりの人生だったのに、アルファとして自分の全てを捧げるべき相手に出会えた今、自分は無敵だと思えたのだ。
 そんな感覚、生まれて初めて感じた。
 いろいろなトラブルに見舞われて嵐のように過ぎ去った昨晩、甘い記憶の所々が欠けているのは抑制剤という鎖で縛りつけても意識が飛びそうになるほどの引力が青葉にあったからだ。

 噛みたい、噛みたい。

 獲物に嚙みついた獣が、その命がこと切れるまでぶんぶんと弱った体を振り続けるようなイメージが頭を占めて、ぐっと力を籠めたくなる顎を必死でこらえる。だらだらとよだれを垂らした自分はどれほど滑稽で恐ろしい顔をしていただろうか。
 幸いだったのは青葉が背後の尊を振り返ることなく、尊の枕に顔をうずめていたことだろう。苦し気に身じろぎして日ごろ快活な笑顔を見せる美しい貌が苦し気に横を向き、はくっと息を吐き涙を流したとき、ぎりぎりの理性が反応した。

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