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⑤本篇あり 幼い頃に優しくしてくれた近所のお兄さんに恋する話
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一家の太陽だったΩの母が亡くなった、幼い頃の攻め君。火の消えたように寂しい家に、一人きりでいるのが嫌だった。公園で日暮れまで過ごしていたら、ある時中学生に絡まれ喧嘩になってしまった。地面にばんっと突き飛ばされ、地面についた掌にピリッと痛みが走った。
ズボンも泥だらけ。さらに拳が振り上げられた時、前に飛び込んで庇ってくれたのが、三つ年上の受け君だった。同級生を𠮟りつけて攻め君に手を差し伸べる。
「大丈夫?」
微笑みかけてくれた瞳が星を宿したように煌く。それがとても綺麗で攻め君の胸はときめく。
「手当してあげるからうちにおいで」
傷を洗うため洗面台の前に立つと、受け君が背後から腕を回して、攻め君は後ろから抱きしめられるような体勢になった。水が温まり湯気が立ち昇ってきたら、外側からやんわりと優しく、受け君に手を握られた。母を亡くして以来人との触れ合いに飢えていた心は背中に感じる温みに切なく反応してしまう。
受け君がハンドソープを自らの手にも付けて揉み込むように泡立てながら、続いて右手の傷の辺りの泥汚れをそっと撫ぜてくる。
「痛いけど頑張るんだよ」
けっこう痛いが優しく励まされたら頑張るしかない。
さっきは仲裁のため喧嘩相手に威勢よく啖呵を切った彼だが、手つきはたおやかで優しかった。
彼が愛情深く育てられたことを感じ、攻君も優しかった母を思い出して鼻の奥が少しだけツンっとなった。
懸命に洗ってくれすぎて互いの頭が洗面台に近づく。攻め君の項に屈んだ受君のさらさらの前髪と温かい吐息が、くすぐったく降りかかってきてドキドキする。指の股まで柔やわと白い指を絡め
ながら丁寧に洗われたら、何故だか心までもきゅっと掌の中に包められた様に切ない気持ちになった。
いつまでも触れていて欲しくなるような、それでいて恥ずかしくて振り払いたくなるような。
そんな複雑な気持ちを生まれて初めて味わう。攻め君は押し殺した熱い吐息をこらえきれずにふうっと吐き出す
「終わったよ」
甘美な心地に囚われていた攻め君に、受け君はくすっと笑うと明るくそう告げた。柔軟剤が効いた柔らかなタオルを取り出して宝物の様に手をふんわりと包んで水滴を取り除いてくれた。
「ありがとう」
小さな声で礼を言うと、受け君が華やぐような笑顔を見せて頭をさらりと撫ぜてくれた。
これから更なる成長を迎えるであろう、彼のその手はまだ白くほっそりと少女のように優美だった。ぱっちりと開く黒目勝ちの美しい瞳は、細めると美しくしなやかな猫の目ようだ。
(この人の事、好きだ)
最愛の母の死にぽっかりと空いた心のうろを、この人の溢れる愛情で満たし続けて欲しくなった。
その後も二人の交流は続いた。受け君は友人も多い。彼の際立つ美しい視線を、どうしたらいつでも自分にだけ向けておけるのか、どうしたらもっとこの人に愛されるのか。
攻め君はいつの間にかそんな事ばかり考えて生きるようになっていた。その 後親同士が再婚して義理の兄弟になってもずっとずっと。
本編は「仔犬のキス、狼の口付け」でした。
ズボンも泥だらけ。さらに拳が振り上げられた時、前に飛び込んで庇ってくれたのが、三つ年上の受け君だった。同級生を𠮟りつけて攻め君に手を差し伸べる。
「大丈夫?」
微笑みかけてくれた瞳が星を宿したように煌く。それがとても綺麗で攻め君の胸はときめく。
「手当してあげるからうちにおいで」
傷を洗うため洗面台の前に立つと、受け君が背後から腕を回して、攻め君は後ろから抱きしめられるような体勢になった。水が温まり湯気が立ち昇ってきたら、外側からやんわりと優しく、受け君に手を握られた。母を亡くして以来人との触れ合いに飢えていた心は背中に感じる温みに切なく反応してしまう。
受け君がハンドソープを自らの手にも付けて揉み込むように泡立てながら、続いて右手の傷の辺りの泥汚れをそっと撫ぜてくる。
「痛いけど頑張るんだよ」
けっこう痛いが優しく励まされたら頑張るしかない。
さっきは仲裁のため喧嘩相手に威勢よく啖呵を切った彼だが、手つきはたおやかで優しかった。
彼が愛情深く育てられたことを感じ、攻君も優しかった母を思い出して鼻の奥が少しだけツンっとなった。
懸命に洗ってくれすぎて互いの頭が洗面台に近づく。攻め君の項に屈んだ受君のさらさらの前髪と温かい吐息が、くすぐったく降りかかってきてドキドキする。指の股まで柔やわと白い指を絡め
ながら丁寧に洗われたら、何故だか心までもきゅっと掌の中に包められた様に切ない気持ちになった。
いつまでも触れていて欲しくなるような、それでいて恥ずかしくて振り払いたくなるような。
そんな複雑な気持ちを生まれて初めて味わう。攻め君は押し殺した熱い吐息をこらえきれずにふうっと吐き出す
「終わったよ」
甘美な心地に囚われていた攻め君に、受け君はくすっと笑うと明るくそう告げた。柔軟剤が効いた柔らかなタオルを取り出して宝物の様に手をふんわりと包んで水滴を取り除いてくれた。
「ありがとう」
小さな声で礼を言うと、受け君が華やぐような笑顔を見せて頭をさらりと撫ぜてくれた。
これから更なる成長を迎えるであろう、彼のその手はまだ白くほっそりと少女のように優美だった。ぱっちりと開く黒目勝ちの美しい瞳は、細めると美しくしなやかな猫の目ようだ。
(この人の事、好きだ)
最愛の母の死にぽっかりと空いた心のうろを、この人の溢れる愛情で満たし続けて欲しくなった。
その後も二人の交流は続いた。受け君は友人も多い。彼の際立つ美しい視線を、どうしたらいつでも自分にだけ向けておけるのか、どうしたらもっとこの人に愛されるのか。
攻め君はいつの間にかそんな事ばかり考えて生きるようになっていた。その 後親同士が再婚して義理の兄弟になってもずっとずっと。
本編は「仔犬のキス、狼の口付け」でした。
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