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第15話 瑞希の瑞玉
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二人のやり取りがよくわからなくて、蜜梨は首を傾げた。
「不可能って、なんで? 俺と魂が絡まってる饕餮が凶をたくさん食べても、俺は乗っ取られないの?」
蜜梨は秘果を振り返った。
秘果が蜜梨の胸に指を滑らせた。仕草が色っぽくて、ドキリとする。
「蜜梨ちゃんは瑞希だから、体内に瑞玉を宿してる。瑞玉が凶を弾くんだ」
「え? じゃぁ、饕餮に食べてもらわなくても平気なんじゃないの?」
「今の蜜梨ちゃんの神力だと、瑞玉が弾く凶の量が多すぎる。瑞玉に負担がかかると、玉が砕ける」
秘果が、指の動きを止めた。
『瑞希にとり瑞玉は第二の魂に等しい。砕ければ死ぬ』
続いた饕餮の言葉に、蜜梨は息を飲んだ。
『私が凶を喰い大きく育てば、瑞玉が私ごと弾こうとするだろう。結局は、私が削ぎ落される。それ以前に蜜梨と秘果の神力に浄化されるから、瑞玉の負担にもならんだろうがな』
つまりは、瑞玉が弾かねばならない程の凶は饕餮が食ってくれる。
喰い過ぎた分は秘果と蜜梨の神力で浄化される。
故に、瑞玉が砕ける事態は避けられる、という饕餮のセールスアピールなのだろうが。
「え? ……え? じゃぁ、なんで、俺は今、平気なの?」
体の中に饕餮という大凶をガッツリ留めている状態だ。
瑞玉が砕けてもおかしくない。凶が絡まった蜜梨の魂まで弾かれたりしないんだろうか。
『蜜梨の魂が私を上回っているから、弾かれない。凶玉だった時も、蜜梨の神力に包まれていたから、瑞玉に弾かれもせんかった。出られもせんかったがな』
「神力で包まなきゃ、瑞玉が出してくれてたってこと?」
首を傾げる蜜梨に、秘果が首を振った。
「弾かれていただろうけど、瑞玉も砕けていたと思う。四凶の饕餮を閉じ込めた凶玉なんて、普通は体内に宿した時点で死ぬから」
改めて恐ろしいと思った。
そんな危険な状態で三百年もよく生きていたと、自分事ながら感心する。
『なぁに、瑞玉の負担になるほどは喰わんさ。蜜梨の瑞玉が砕けん程度に食ってやる。宿主が死んでは元も子もないからな』
「それじゃまるで、蜜梨ちゃんを守るみたいだ。何が狙いだ、饕餮」
秘果が饕餮を睨み据えた。
饕餮が秘果を指さした。
『お前だよ、秘果。私の狙いは昔からずっと、秘果だ。蜜梨の中に在る限り、五色の黄竜は蜜梨ごと私を守るしかない。蜜梨の魂に絡まった今の状態は、私にとって都合がいい。黄竜の導仙で瑞希、喰うに困らん最高の依代だ。当初の狙いからは外れたが、悪くない立場が手に入った』
ぺろりと舌なめずりして、饕餮が笑んだ。
秘果が悔しそうに歯軋りした。
「だからお前は、昔から蜜梨ちゃんに付き纏って手を出していたのか。蜜梨ちゃんを利用して、俺を都合よく扱うために」
『恨むなら蜜梨を愛しすぎる己を恨め。蜜梨はただの被害者だ。私が真に欲しい依代は、桃源を統べる麒麟候補の黄竜である秘果だ』
「だったら最初から俺だけを狙え! 俺だけを奪えばいいだろう!」
前のめりに饕餮に迫る秘果を、蜜梨は咄嗟に抑えた。
「秘果さん、落ち着いて……」
『お前は強すぎるんだよ。泣き虫の弱虫だった昔ですら、強すぎる力で近付くことも出来なかった。蜜梨は良い緩衝材だよ』
饕餮が顎を上げて笑む。
とても楽しそうだなと思った。
(本当に秘果さんがお気に入りなんだな。魂が絡まってるから、気持ちがじんわり伝わってくるけど。何ていうか、ただの好きとも違うような)
恋愛的な好きとも友愛とも違う。
強いて例えるなら、憧れに近いような気がした。
(昨日は厄介な凶だと思ったけど、そこまで悪い奴でもない気がする。俺の秘密を暴露されるのは、嫌だけど)
少なくとも秘果や蜜梨にとって有害ではない気がした。
「えーっと、秘果さんは微妙だろうけど、俺は別にいいよ」
蜜梨の言葉に、秘果が驚いた顔を上げた。
「蜜梨ちゃん、何、言ってるの? このまま、体内で饕餮を飼うつもりなの? 危険すぎる!」
飼う、という表現も言い得て妙だなと思った。
「だって、もう既に三百年も一緒なわけだし。現世にいた頃の俺は、饕餮が自分の中にいるなんて、知らなかったけどね。でもまぁ、なんというか、今更というか」
色々知られているのは、かなり嫌だが。
凶を喰ってくれるなら、蜜梨にとっても悪くない話だ。
神力が戻っても上手く扱えない蜜梨の戦闘力は、現状、皆無に等しい。
「思い出せてない桃源の記憶とかも、饕餮がいたら思い出せるかなと、思ったりして」
蜜梨の中に浮かぶ桃源の記憶はまだ断片的で、全部を思い出したわけではない。
きっかけくらいには、なるかもしれない。
『あぁ、記憶か。私が食ったからな。魂が絡んだ今なら、少しずつ戻ろう』
饕餮が、さらりと、とんでもないことを言った。
「俺の桃源の記憶、お前が食ったの?」
『凶玉の中にいた時にな。出られないのだから、食えるものを喰うしかないだろう』
さもありなん、みたいに言われても納得できない。
『私を祓えば、記憶は永遠に戻らんぞ。共にいれば、絡まった魂に記憶が染み入るだろうがな』
饕餮が、蜜梨ではなく秘果を流し見た。
ニヤリといやらしく笑む饕餮を、秘果が悔しそうに睨む。
「不可能って、なんで? 俺と魂が絡まってる饕餮が凶をたくさん食べても、俺は乗っ取られないの?」
蜜梨は秘果を振り返った。
秘果が蜜梨の胸に指を滑らせた。仕草が色っぽくて、ドキリとする。
「蜜梨ちゃんは瑞希だから、体内に瑞玉を宿してる。瑞玉が凶を弾くんだ」
「え? じゃぁ、饕餮に食べてもらわなくても平気なんじゃないの?」
「今の蜜梨ちゃんの神力だと、瑞玉が弾く凶の量が多すぎる。瑞玉に負担がかかると、玉が砕ける」
秘果が、指の動きを止めた。
『瑞希にとり瑞玉は第二の魂に等しい。砕ければ死ぬ』
続いた饕餮の言葉に、蜜梨は息を飲んだ。
『私が凶を喰い大きく育てば、瑞玉が私ごと弾こうとするだろう。結局は、私が削ぎ落される。それ以前に蜜梨と秘果の神力に浄化されるから、瑞玉の負担にもならんだろうがな』
つまりは、瑞玉が弾かねばならない程の凶は饕餮が食ってくれる。
喰い過ぎた分は秘果と蜜梨の神力で浄化される。
故に、瑞玉が砕ける事態は避けられる、という饕餮のセールスアピールなのだろうが。
「え? ……え? じゃぁ、なんで、俺は今、平気なの?」
体の中に饕餮という大凶をガッツリ留めている状態だ。
瑞玉が砕けてもおかしくない。凶が絡まった蜜梨の魂まで弾かれたりしないんだろうか。
『蜜梨の魂が私を上回っているから、弾かれない。凶玉だった時も、蜜梨の神力に包まれていたから、瑞玉に弾かれもせんかった。出られもせんかったがな』
「神力で包まなきゃ、瑞玉が出してくれてたってこと?」
首を傾げる蜜梨に、秘果が首を振った。
「弾かれていただろうけど、瑞玉も砕けていたと思う。四凶の饕餮を閉じ込めた凶玉なんて、普通は体内に宿した時点で死ぬから」
改めて恐ろしいと思った。
そんな危険な状態で三百年もよく生きていたと、自分事ながら感心する。
『なぁに、瑞玉の負担になるほどは喰わんさ。蜜梨の瑞玉が砕けん程度に食ってやる。宿主が死んでは元も子もないからな』
「それじゃまるで、蜜梨ちゃんを守るみたいだ。何が狙いだ、饕餮」
秘果が饕餮を睨み据えた。
饕餮が秘果を指さした。
『お前だよ、秘果。私の狙いは昔からずっと、秘果だ。蜜梨の中に在る限り、五色の黄竜は蜜梨ごと私を守るしかない。蜜梨の魂に絡まった今の状態は、私にとって都合がいい。黄竜の導仙で瑞希、喰うに困らん最高の依代だ。当初の狙いからは外れたが、悪くない立場が手に入った』
ぺろりと舌なめずりして、饕餮が笑んだ。
秘果が悔しそうに歯軋りした。
「だからお前は、昔から蜜梨ちゃんに付き纏って手を出していたのか。蜜梨ちゃんを利用して、俺を都合よく扱うために」
『恨むなら蜜梨を愛しすぎる己を恨め。蜜梨はただの被害者だ。私が真に欲しい依代は、桃源を統べる麒麟候補の黄竜である秘果だ』
「だったら最初から俺だけを狙え! 俺だけを奪えばいいだろう!」
前のめりに饕餮に迫る秘果を、蜜梨は咄嗟に抑えた。
「秘果さん、落ち着いて……」
『お前は強すぎるんだよ。泣き虫の弱虫だった昔ですら、強すぎる力で近付くことも出来なかった。蜜梨は良い緩衝材だよ』
饕餮が顎を上げて笑む。
とても楽しそうだなと思った。
(本当に秘果さんがお気に入りなんだな。魂が絡まってるから、気持ちがじんわり伝わってくるけど。何ていうか、ただの好きとも違うような)
恋愛的な好きとも友愛とも違う。
強いて例えるなら、憧れに近いような気がした。
(昨日は厄介な凶だと思ったけど、そこまで悪い奴でもない気がする。俺の秘密を暴露されるのは、嫌だけど)
少なくとも秘果や蜜梨にとって有害ではない気がした。
「えーっと、秘果さんは微妙だろうけど、俺は別にいいよ」
蜜梨の言葉に、秘果が驚いた顔を上げた。
「蜜梨ちゃん、何、言ってるの? このまま、体内で饕餮を飼うつもりなの? 危険すぎる!」
飼う、という表現も言い得て妙だなと思った。
「だって、もう既に三百年も一緒なわけだし。現世にいた頃の俺は、饕餮が自分の中にいるなんて、知らなかったけどね。でもまぁ、なんというか、今更というか」
色々知られているのは、かなり嫌だが。
凶を喰ってくれるなら、蜜梨にとっても悪くない話だ。
神力が戻っても上手く扱えない蜜梨の戦闘力は、現状、皆無に等しい。
「思い出せてない桃源の記憶とかも、饕餮がいたら思い出せるかなと、思ったりして」
蜜梨の中に浮かぶ桃源の記憶はまだ断片的で、全部を思い出したわけではない。
きっかけくらいには、なるかもしれない。
『あぁ、記憶か。私が食ったからな。魂が絡んだ今なら、少しずつ戻ろう』
饕餮が、さらりと、とんでもないことを言った。
「俺の桃源の記憶、お前が食ったの?」
『凶玉の中にいた時にな。出られないのだから、食えるものを喰うしかないだろう』
さもありなん、みたいに言われても納得できない。
『私を祓えば、記憶は永遠に戻らんぞ。共にいれば、絡まった魂に記憶が染み入るだろうがな』
饕餮が、蜜梨ではなく秘果を流し見た。
ニヤリといやらしく笑む饕餮を、秘果が悔しそうに睨む。
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